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14:その日までの。さん。

 さて。

 アディの母親が去ったので私は王城近くの個室付きで王家御用達の茶店へ参りました。

 色々な茶葉やティーカップが売られているお店で、王族の皆さまに贔屓にされている茶店だそうです。

 恐れ多い、というよりは王城で働く使用人が利用出来るリーズナブルな価格の品物も売っているとかで、かつ個室付きだからそれなりの密談も可能だとか。

 ……なるほど?

 私が異母弟と後見人の二人に会うために、この茶店に来たのは、当然密談が……あるわけもなく、レンホさんの職場に近いからです、もちろん。

 キーシュ……キィは爵位を継承しましたが、だからといって何でもかんでも直ぐに出来るわけでは無いので、何度かレンホさんの職場である王城を訪って、レンホさんの知恵をお借りしているそうです。

 その際にこの茶店を利用することがよくあるのだとか。ということで今回も利用することに。


「キィ、レンホさん、お久しぶりですね」


 既に二人が個室に案内されていたので、遅れたことを詫びて挨拶します。少し見ない間に異母弟の顔つきが逞しくなったと思うのは、身内の贔屓目かしら。


「オリーヴさん、お久しぶりですね」


「異母姉上、元気でしたか」


 護衛はさすがに店外ですが、侍女は個室内に入ってきました。人払いをされることもないだろうから、と思ってのこと。

 アルバン様に報告されても別に困るようなことは無いと思いまして、私が腰掛けたソファーの背後に控えています。一頻り近況報告を済ませてから、本題に入ることに。


「異母姉上、あの女が伯爵家から借りたという金の目処がつきました!」


「本当? キィ、さすがね。あなたがやる、と言っていたからやり遂げるとは思っていましたが」


 興奮しているのか頬を紅潮させた異母弟の頭を撫でると、ふふん、と得意げな顔を見せてきました。

 この辺りはまだまだ子どもみたいね。


「つきましては、速やかに異母姉上に帰還頂きたく思っております」


「それもありがとう」


「では一週間後には」


 キィが頑張ってくれたことは素直に嬉しいと思えるけれど、一週間後はちょっと早過ぎないかしら。荷物を纏めて……おく必要は無いわね。持ってきた物は少なかったですし、増えた物は伯爵家で購入して下さった物ですから持って帰ることは無いですし。

 一週間で伯爵家を出られるかもしれないわね。


「一週間後ね。分かりました。準備を済ませてお別れを済ませておくわね」


 了承の返事をしたところで、背後から侍女が恐れながら……と口を開けた。


「どうかした?」


 私が尋ねると発言の許可を得た侍女は軽く頭を下げてから懸念事項を口にしました。


「大奥様のことをお嬢様の実母が目の敵にしておられます。来る時も絡まれました。大奥様がお決めになられたことに使用人として口を挟むのは失礼だ、と重々承知しておりますが、万が一を考えますと、その」


 ああつまり。

 一週間後に無事に伯爵家から出られる保障が無い、ということね。

 でも私が伯爵家から出てしまえば、アディの母親に絡まれる心配なんて無いと思うのですが。


「異母姉上、どういうことです?」


 あ、キィが笑顔を浮かべながら怒りの空気を醸し出してますね。

 私は先程の話を感情を挟まないように気をつけて話します。

 キィ、かなり怒っているわね……。

 笑顔が引き攣っているわよ。


「それは……厄介なことですね。ですが、オリーヴさんが対応しなかったのは正解でした。こう言ってはなんですが、オリーヴさんの立場は非常に微妙なので。伯爵家の当主の後妻ではなく、前当主の後妻。そしてその前当主は亡くなられた。貴族というのは自分たちに有利になることならば、他人を貶めて蹴落としても構わないところがありますからね。前当主の後妻という立場のオリーヴさんは、前当主が亡くなられた時にそれなりに噂になっていました。若い後妻だったらしい、と。愛人という話もありましたが大抵は金と引き換えに、というものだったようです。まぁ間違いではないですが。どこから漏れたのか、と思われるでしょうが、得てして漏れやすいものなのです。そしてオリーヴさんの顔や為人(ひととなり)を知らずとも、面白おかしく噂は広まるものです。ですから、跡取り令嬢の実母との諍いは伯爵家の醜聞になると同時に、オリーヴさんの醜聞にもなってしまう。だからオリーヴさん自身が対応しなくて正解なのです」


 私の話が終わると同時に、レンホさんが複雑そうな顔で、そんなことを話してくれました。

 そうですね。私個人の醜聞はどうでもいいですけれど、伯爵家が醜聞塗れになるのは本意ではないですしね。


「やはり前当主と当主では違いますか」


 私の問いかけにレンホさんが深く頷きます。


「前当主との年齢差というのもありますが……伯爵家の実権を握っている当主ではなく、引退した人の妻ですからね。俗な考えをするのであれば、伯爵夫人という権力を欲しているのであれば、前当主の後妻という立場は選ばない。と思われますから」


 なるほど。そういう視点から見れば、私は変わった女なのでしょう。

 何を目的として、前当主の後妻になったのか、という噂が広まったということでしょうか。

 そして、金と引き換えに後妻の立場を得た。

 何一つ間違っていない噂ですね……。


「まぁお金と引き換えなのは確かですからね」


 私が軽く息を吐くと更にレンホさんが続けます。


「伯爵が父親と仲が悪いことは噂になっていました。そして女性を寄せ付けないことも。そこから自分の後妻ではなく、父親である前当主の後妻にしたのではないか、とまで噂されているようです。そんな噂が出ている時点で、オリーヴさんの名前や顔などを知らずとも、いえ、知らないからこそ、面白おかしく噂が広まってますから、跡取り令嬢の実母との諍いは避けた方がいいでしょう。一週間後に、私とキーシュ殿で迎えに行きましょうか。どのみち伯爵にお金を返すわけですし。第三者が居るならどちらに非があるか、判明しますしね」


 そんなわけで、あれよあれよという間に、一週間後にキィとレンホさんが伯爵家にお迎えに来てくれることが決まりました。

 伯爵家の侍女も今度は口を噤んでいますから、懸念事項を考慮した上での対応だと理解してもらえたようで良かったと思います。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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