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虚空の竜騎士  作者: 上原太樹
9/15

血と鉄の狼煙 1

申し訳ありませんでした。

第2章を始めます。

 11機の作戦機が大韓民国の陸軍基地の1つである第一野戦軍司令部に降り立った。この陸軍基地は連絡機やヘリが配備されており物資集積所を兼ねているため大型機の離着陸が可能な滑走路を有している。航空傭兵団(ワイルドギース)は韓国陸軍に雇われ、同じ大陸の東の果てまで来ていた。


 韓国の経済は低迷する一方であった。日本の円が高値を維持しているため相対的に韓国のウォンが安値を続けている。おかげで貿易赤字は増える一方である。そもそも、輸出が上手くいかなくなっている。例えば、日本企業を買収したり退職した技術者を集めたり協力者や潜入などによって得られた機密情報をもとにした安価でそれなりの性能がある製品の輸出によって多大な利益を上げてきたが、日本が自衛隊を国防軍に変更することに合わせて一部の法律も改正しまったため企業の買収や情報収集が困難となってしまった。これによって、性能の高い製品の製造が困難となり確保していた市場は日本の手に戻された。輸出が上手くいかなくなったためほとんどの大企業の業績が悪化して失業者の増加を招いた。失業者の一部は軍に入れることで最低限の生活を保障することはできても抜本的な対策とはいかなかった。韓国経済をいかにして回復させるかと言う問題は他国の経済政策よりも困難を極めていた。だが、そのことを検討する余裕すらない情勢に変化していた。


 国境付近で北朝鮮軍の車両や兵士を見る機会が増えて来ていた。衛星画像からも北朝鮮の大規模な機甲部隊が韓国との国境付近に移動しているのが確認された。北朝鮮の食糧事情や燃料事情から大規模な軍事行動は難しいと考えていただけに疑問が残るが、現状を見る限り戦争の再開はやむを得ない情勢である。


朝鮮民主主義人民共和国 首都ピョンヤン

「こ、これほど支援してくれるのか!?」

「第一書記様。我々は朝鮮半島ひいてはアジアの統治者は貴殿しかいない。そう考えて支援することにいた下までにございます。」

「いや、我々は『小中華』であって大陸を治めるのは『大中華』のすべきことだ。我々はあくまで中国の行うことに従うまで。」

「ま、それもそれでよいでしょう。」(朝鮮人はよく分からない民族ですね。)

「だが、これほどの支援をお返しできるほどの利益は・・・」

「そんなことなど考えずに今は朝鮮半島を統一することのみをお考えください。」

「請求はそれまで待つと言うのだな。」

「はい、お待ちいたします。我々は実のなっていない木を薪にするようなことは致しません。」

「よく分かった。資金や物資は有意義に使わせてもらうぞ。無能な同胞に実力を見せ、あるべき姿に戻したのち、受けた支援の何倍も返してやろう。」

「そうでなくては統治者らしくありません。」

「で、その支援物資は今どこにある?」

「一部はすでにこの国内に運び込み終えてございます。残りは輸送艦や輸送機、鉄道などで運び込まれます。と言いましても、支援物資の内、食料と燃料は全て搬入を終えております。その他の物資も半分以上搬入を終えております。すでに搬入を終えている物資のみでも1ヶ月は確実に戦争ができます。ただ、燃料はともかく食料は予想よりも消費が激しため追加を搬入する準備を行っております。」

「今すぐでも動かせるのだな。」

「第一書記様の御心のままになされるようにしたまででございます。」

「何から何までやってくれるのだな。」

「慈善事業ではございませんが、スポンサーとなる以上利益を出してもらわなければ我々の方も困りますから。」

「実にありがたい。これで、祖父も父も出来なかったことを成し遂げられる。」

「第一書記様にはそれができるだけの力量がございます。さらには、この朝鮮半島を平和で幸福な世界へ導けるお方は他にはいないと確信したまででございます。それは我々『ダーインスレイフ』の利益のためでもございます。」

「血を好む呪われた剣か。」

「よく御存じで。」

「いや、たまたまだ。」

「ご謙遜なさることはございません。統治者たる者、豊かな知識が無くては務まりません。」

「うむ、その通りだな。だが、作戦開始は物資の搬入と分配が完了してからとしよう。」

「妥当な判断と思います。」

「兵の腹を膨らませなければ動けんからな。」

「第一総書記様への忠誠も高まりましょう。」

「これからも支援を当てにさせてもらうぞ。」

「お任せください。その代り・・・」

「分かっている。必ずやこの地をこの国の・・・いや私の支配下にしてやろう。そののちは無能な者共を好きに使って利益を上げることを認めてやる。」

「ありがとございます。」

「もう下がってよいぞ。」

「私は下がる必要はございません。」

「戻って報告をしなければならないのではないのか?」

「失礼ながらすでに報告も終えております。」

「?」

 女性はおもむろに上着を脱ぐといくつかのケーブルと共に集音器などいくつかの機器と板状の物体が現れた。

「私はこの会話を仲間に送り何を話すのか指示を受けておりました。」

「そうだったか。一つ間違っていたら私が殺されていたな。近衛もたるみやがったか。」

「申し訳ない事を致しましたことはお許しください。ですが、我々は支援をすることに偽りはございません。」

「まあ良い、どうせまともなものは元々少ないからな。では改めて聞こう。なぜ下がらん。」

「支援物資のリストの中には含まれていませんが、私もその一つです。」

「ほう。」

「支援物資と言うよりは『ダーインスレイフ』から第一書記様への贈り物であり、信頼の証と思って下さい。」

「人質でもあるな。」

「そのような者でもございます。何なりとご命じなさって下さい。」

「それならば、遠慮無く貰っておこう。」

「ありがとうございます。」

「場所を変えるぞ。付いてこい。」

「はい。」(さて、本命の仕事に入りますか。)


 戦争の開始はある程度予想がついていたが、やはり戦端は突然開いた。

 最初に戦端を開いたのは韓国軍に偽装した北朝鮮の工作員。数人が北緯38度線を越えて北朝鮮の哨戒部隊に銃撃を浴びせた。哨戒に当たっていた北朝鮮兵士2人が戦死し残った1名は重傷を負い軍の病院に運び込まれだがほどなくして出血多量で治療の甲斐なく(証拠隠滅のために)死亡が確認された。韓国軍に偽装し攻撃を行った工作員は駆け付けた北朝鮮軍の集中砲火で射殺された。

 北朝鮮はこれを韓国軍による先制攻撃と報道し報復として陸海空軍全軍による韓国への侵略を開始する。韓国側は北朝鮮による陰謀と非難するが軍事行動が確認された以上侵攻を阻止するため全軍を向ける。

 戦端が再開される合図となったのは北朝鮮による20発にも及ぶスカッドミサイルによる攻撃である。韓国はペトリオットによる迎撃を開始すると同時に玄武シリーズによる攻撃を開始。スカッドミサイルは半数の10発を撃ち落とすことに成功したが残りはソウルや基地に着弾した。懸念されていた化学兵器や生物兵器は搭載されていなかったが、多数の民間人に死傷者が出てしまった。玄武シリーズは特に迎撃されることもなく北朝鮮の基地や部隊や物資集積地付近に着弾した。アメリカのトマホーク巡航ミサイルのほど正確ではなく、実戦で問題なく使える範囲外に着弾したミサイルも多数あった。つまり、基地周辺の田畑や市街地にも命中したミサイルが両国とも多かった。

 互いに弾道弾を発射したのち、北朝鮮の戦車部隊が次々と北緯38度線を越えて韓国領に進軍、榴弾砲も前進しソウルに対して砲撃を開始。空には北朝鮮の空軍機が多数舞い上がっていた。韓国は対応が若干遅れながらも各機甲師団が北朝鮮軍御進軍を阻止しようと迎撃を開始。空軍も次々と戦闘機が離陸し前線に向かった。アメリカも即座に在韓米軍の主力を北に向かわせ、在日米軍も韓国に向けて移動を開始した。日本は韓国からの参戦要請を『戦争に介入する』の一点張りで拒否した。


 第一野戦軍司令部には航空傭兵団(ワイルドギース)を含む傭兵が集まっていた。その大部分は歩兵であるが航空傭兵団(ワイルドギース)以外にも傭兵パイロットが何人か見られる。

 第一野戦軍司令部、司令長官であるウォン大将は北朝鮮の侵攻以上に国内の軍備に不安があった。その不安は近年の軍備の拡張のほとんどが空軍と海軍に重点が置かれていることである。

 韓国にとって最も脅威なのは北朝鮮の南下であるはずなのにイージス駆逐艦、大型潜水艦、強襲揚陸艦、高性能戦闘爆撃機、長射程巡航ミサイル、新型軽戦闘機開発に次々と予算が付く。一方で陸軍の方には正面装備の予算こそまとまった金額がついているが、戦線を維持するのに必要な補給や輸送を担う後方装備の予算は減らされる一方であった。戦争をするには実際に戦闘をする戦闘部隊と後方で補給物資を輸送したり整備を行なったりする支援部隊のバランスを取る必要がある。彼に言わせればイージスシステム搭載艦や長距離飛行できる高性能機の存在はありがたいが、この国にとって絶対に必要な物ではない。本音ではそんな高価なものはアメリカや日本が使っていればよい。勿論、いずれはそう言ったものを運用する必要が出て来るであろうが、今の韓国には運用するだけの資金力も技術力もない。必要なら十二分に運用する資金や人材を抱えているアメリカや日本に動いてもらえばよい。動いてもらうために無駄に金を消費している独島(竹島)を寄こせと言うならくれてやってもよい。それから、設計こそ委託したがまともな技術もないのに練習機や軽攻撃機の開発と量産をやるのもおかしなことだ。

 北朝鮮は経済状況からまともな戦力がないとはいえ数は多い。韓国の倍以上の兵力を抱えている。だからこそ、高すぎて数を揃えられない高価な兵器より数が揃えられて整備しやすく安い兵器の方が必要である。そして、兵器以上に重要な兵の質が落ちていることも深刻である。財政に見合わない高価な兵器の購入のしわ寄せは兵員関連の予算も受けている。徴兵制があるため人数は十分確保できているが訓練する予算がない。現状でははっきり言ってしまうと精鋭部隊以外まともに使い物になる戦力はない。その上、規律までゆるみ暴力やいじめや強姦が横行している。ついこの間も訓練中に些細なミスをした若い二等兵を数人の一等兵らが銃床で殴って大けがをさせる事件もあったばかりだ。

 以上より、彼は北朝鮮が休戦協定を破棄して侵攻すると聞いた時、苦肉の策として傭兵による部隊の編成を要請した。これは、政府内で賛否両論を呼んだが承認してもらい、戦争再開時の場合の予算から傭兵の雇用や必要経費の予算を確保することに成功した。おかげ少数であるが期待できる歩兵中心の陸戦部隊と独自に使うことが出来る航空戦力を確保することが出来た。本来、陸軍なので固定翼の戦闘機や攻撃機を持つ必要はないが、自国空軍の作戦機は稼働率が精鋭部隊で70%台、それ以外では良い部隊で60%台であり、F-15KやF-16Cなどの精鋭機の大半は南部に配備されている。支援を要請したところで、十分に援護してもらえる保証はないので自前で確保しておくことにした。

 

「チーフテン、this isドラゴンシバレース。空軍陸軍共に交戦開始を確認。over。」

「ドラゴンシバレース、こちら、チーフテン。分かった。こっちへ向かってくる部隊はあるか?」

「空軍、陸軍共に正規軍が押さえている。over。」

「分かった。帰投しろ。」

「了解。ミッションコンプリート。これより帰投するout。」

 交信後ほどなくして、F-1が基地に帰投した。基地は海の近くの森林地帯を切り開いて作られていた。空に舞い上がっていた攻撃機が高高度から急降下して着陸した。基地の近くには森林地帯であるため北朝鮮の工作員が潜入していると携帯型地対空ミサイルで撃たれる危険があるのでこのような着陸を行った。この着陸は通常の着陸よりも高度な技術が必要で危険な着陸である。

「全く、とんでもない技量を持っているなぁ。あんな着陸でよく墜落しなかったな。」

「ヒヤヒヤしたわ。」

「リュウ様さすがですぅ~。」

「技量だけはすげえよ。」

「『やれ』と言ったが本当にやるとは思わなかった。」

「気にくわん。」

「ニッポン人の職人芸には毎回驚かされるぜ。」

「あんな着陸始めてみました。」

「坊やは真似しちゃだめよ。坊やの腕じゃ戦闘機を粉々にさせて滑走路を使えなくしちゃうでけだからね。」

「む~!」

「こんな着陸ができるパイロットは多くないわよ。」

「『やれ』て言われたときに即座にできる技量を持っているのは心強いさ。」


 着陸したF-1は駐機場に移動すると待っていた整備兵がラノスの指示で装備されていた簡易偵察ポットを外す。コックピットからもガンカメラのメモリーが取り出された。

「何機か落として来たな?」

「・・・」

「ま、ガンカメラの映像も調べりゃすぐわかる。」

「・・・」

「何かいる物はあるか?」

「・・・サイドワインダー2発、20mm機関砲弾フル装填、増槽2つ、燃料満タン。」

「確かに、今はそんなとこだよな。」

「・・・」

「解析には少しかかるから作戦会議は1600だそうだ。適当に休んどけ。」

 新風はすぐに休もうとしなかった。タイヤの状態の確認に始まって機体の各所を点検して回る。すでに空軍から派遣された整備兵によって点検されたがいくつも見落としが見つかった。あまりのずさんさに呆れてしまうが、韓国の稼働率の低さの原因はよく理解した。ついでに、ラノスから購入した電波探知機を使うといくつか反応がある。付いていても大したことないが余計な重りであると同時に悪用防止のため盗聴器や追跡装置などを手当たり次第処分した。

(こんなボロ機に付けたところで大した情報何て得られないのにな。)

 処分方法はラノスに売却。物は良かったらしくそこそこの金額が新風の手に渡ることとなった。


 集合時間に指定された会議室に入った新風はどの席にも座ることなく壁に寄り掛かった。

「これより、作戦会議を始める。」

「作戦説明の前に戦局を説明する。この基地の北で北朝鮮軍と交戦している陸空軍はともに旗色が悪い。戦線が徐々に後退している。従って、この基地の機甲部隊が増援として派遣されることになった。そこで、『航空傭兵団(ワイルドギース)』を含む我々の最初のミッションは機甲師団の護衛と前線での航空優勢の確保と近接航空支援だ。詳細は配布したプリントに書かれている。質問が無ければ解散とする。作戦開始時間は翌日の0400。以上。」

 質問のない者から次々と退出して行った。傭兵部隊に参加しているパイロットの総人数は25人程で、多いわけではないが一個飛行隊を作るのがやっとである。作戦機の機数は20数機ほど。これで地上をちんたら移動する機甲師団の護衛を行った後に航空優勢の確保と近接航空支援を行わなければならないのは過酷である。だが、北朝鮮軍の戦闘機の大部分は韓国国内で戦闘を行っており、陸軍の一部は国境を突破している。機甲師団の移動中を狙われる可能性は極めて高い状況である。


 日の出前から基地には爆音がとどろいていた。先行して出撃した機甲部隊と砲兵部隊のエアカバーと近接航空支援のために各種ミサイルや爆弾を搭載した作戦機が次つと離陸していった。航空傭兵団(ワイルドギース)も次々と離陸していった。視射程外空対空ミサイル搭載能力のある作戦機はエアカバーに、それ以外の作戦機は近接航空支援に振り分けられた。


 作戦空域に到達すると既に空軍の戦闘機が次々とミサイルを発射している。一部ではドックファイトも行われている。その真下の地上では両国の砲兵が互いに榴弾砲やロケット弾を激しく投射し合い、北朝鮮の機甲部隊が多数の戦車と装甲車をもって防御を固める韓国軍に肉薄しようとしている。数で勝る北朝鮮空軍の攻撃機や戦闘攻撃機は韓国軍のK263、K-30飛虎といった対空自走砲が形成する弾幕をものともせず果敢に突入して爆撃を行う。撃墜する北朝鮮攻撃機もあるが全体から見れば少ない。爆撃を終えて離脱しようとする北朝鮮攻撃機にK-SAM天馬とホークが放たれる。背後を見せて離脱しようとしている敵を攻撃しているので比較的高い確率で命中しているが、発射できているミサイルの絶対数が少なくほとんどが動作不良で発射されていない。

 韓国軍に整備環境は劣悪で整備不良は当たり前、共食い整備、許可や資格のない業者による偽造まで横行しているから、まともに動く兵器を見つけ出すほうが至難の業である。また、正面装備に予算が大きく取られているため補給や整備関係に弱い一面も持っているが、緊急時となれば同盟国である米軍が韓国や日本など設置している補給基地から物資を緊急供給してもらえるのである程度補うことができる。戦車や装甲車といった装備は国内開発?した装備を多く配備しているため米軍に修理用の部品を供給してもらうことができないが、砲弾や銃弾などの規格は統一しているため自国内の備蓄分を使い切っても米軍が物資を供給してくれればとりあえず戦闘は継続できる。空港や大型船舶が入港できる港もあるので稼働率の低ささえ何とかすれば懸念材料は少なくて済む。

 一方の北朝鮮軍は通常であれば現状の軍隊を支えるのに必要な予算を確保できるだけの経済状態であるとは考えられない。このことから、兵器をまともに運用するだけの燃料や稼働率を維持すために必要な修理部品を十分に調達できているとも思えない。そもそも、経済力が弱いから国家予算も少なく、当然軍事費に充てられる予算はさらに少ない。それでいながら、陸軍だけで100万人もの人員と多数の戦車や火砲を抱えている。経済力に見合わない規模の軍隊をどうして保有できているのか疑問に思える。


 マーベックやフォルら視射程外空対空ミサイル搭載能力のある作戦機のパイロットは航空優勢確保のために動いている。燃料に余裕がなく技量も心もとない北朝鮮空軍の戦闘機を的当てゲームのように次々と撃墜していく。視射程外空対空ミサイルを撃ち尽くしても性能の低そうな戦闘機やヘリなどを選んで視射程内ミサイルや機関砲で攻撃を行う。ボリスや新風ら対地攻撃担当は地上からの要請に基づいて敵の密集地に無誘導爆弾の投下やロケット弾の斉射を行ったのち機関砲で地上掃射する。一部には対地ミサイルや誘導爆弾を搭載した作戦機も展開しておりこちらは戦車や榴弾砲を正確に破壊していく。

 正直に言ってしまうと、第五次中東戦争の激戦を潜り抜けたパイロット達にとっては戦闘ではなく単調な作業である。北朝鮮空軍はやはり技量が著しく低かった。飛んでいるのがやっと同然のパイロットでは静止した的同然であった。だが、韓国空軍もその技量は低く、F15Kといった精鋭機を割り当てられた部隊以外はまともな戦果を挙げておらず、結果として戦域のほぼ全域で拮抗している。陸軍も同様の状態である。

 補給の為基地に戻ったパイロット達も上記のようなことを整備兵と話題にしていた。

「北も南も随分と技量が低いのね。」

「仕方がないのさ。上は見栄えの良い兵器を揃えることばかりで整備や燃料関係の予算は少なく、その少ない予算もピンはねの対象。まともな訓練飛行なんてできるものか。」

「ばかばかしいにもほどがありますわ。」

「その上、配属されてくる新兵は文句ばかりでの働かない奴らばかりだ。」

「戦時体制の国とはとても思えませんわ。」

「そういうあんたこそ良いとこ育ちのお嬢さんじゃないか。何だってこんな汚いとこまで来たのだ?」

「とある国の凄腕パイロットが傭兵になっていると聞きましたので、ぜひ一戦交えたいと思いましたの。」

「あ、あんたも物好きだな。」

「そうでしょうか?」

「いや、そうだろ・・・」


 空も陸も途方もない物量に傭兵達は呆れてしまっていた。油断していると燃料よりも先に弾薬が尽きてしまう。制空部隊が補給を受ける間は爆撃部隊から空戦のできる作戦機が時間を稼ぐ。それでも、もともと十分な対空兵装を装備していないからすぐに弾切れになる。ハエや蚊のように湧いて出る北朝鮮の戦闘機の数には頭を抱えたくなる。

 それもそのはずであろう。北朝鮮空軍は中国製のF-5(MiG-17の輸出モデル)、F-6(MiG-19の輸出モデル)、F-7(MiG-21の輸出モデル)やソ連やカザフスタンなどから輸入したSu-7、Mig-21、MiG-23、MiG-29を484機は保有しているとされている。これにSu-25攻撃機やH-6爆撃機も加わる。この全てが対韓国戦に投入されている。対して韓国は旧式のF-4Eが70機とF-5E/Fとライセンス生産されたKF-5E/Fが180機存在し、これをこの戦闘の主力に充てている。だが、旧式機であるが故整備に時間を取られている機体が多く、で全ての作戦機が上げられるわけでもなく、投入機数で倍以上の航空機をぶつけてきている北朝鮮には対応しきれない。米軍や傭兵部隊も投入されているが隙間を埋めきれない為F-16C/D(Blk.32)やKF-16(Blk.52/52+)の一部を回して対応している。虎の子のF-15KやF-35A、国産戦闘攻撃機FA-50は温存している。最も、F-15K 60機の半数は整備中もしくは整備不良で飛行不可能。F-35Aは半数がアメリカ本土で分解整備中(アジアからオセアニアに配備されているアメリカおよび各国のF-35の整備拠点は日本に置かれているが、韓国は日本で整備することを嫌ってアメリカ本土で整備を行っている。)。FA-50は火器管制システムなどの問題が解決されていない為24機の内14機が飛行不可能。元々、投入できる戦力が少なく、予備戦力という名目の虎の子も当てにならないのを隠しているとしか言いようがない。

 傭兵達が事実を知ったら確実に切れるであろう。いや、韓国国民が知ったら激怒すること舞がいないであろう。アメリカ軍人、特に高位の士官達は韓国軍が使いものにならないことを織り込み済みで作戦を遂行している。韓国軍はアメリカに軍の指揮権を依然として委ねているが、下位の士官以下では機能していない。結果として、暴走する恐れのある部隊ほど激戦に送り込んで北朝鮮軍に集中させて変な気が起きないようにしつつまともな暴動が起きないほど疲弊させる。ある程度疲弊したら同様にして疲弊した部隊と合流させて再びぶつける。これを繰り返して北朝鮮軍の攻勢が弱まるまで堪える。その後は、在日在韓米軍及びアメリカ本土から緊急派遣された部隊がピョンヤンまで電撃戦を行って終戦させる。これが、この戦争におけるアメリカが描いたシナリオである。そして、良識ある韓国軍上層部や政治家はアメリカの描いたシナリオに現状として仕方がないと考えている人が少なくない。


 この日だけで三度目の出撃の為に再武装が行われる。MiG-21Iの爆装や燃料補給を行っているグエンのそばに見慣れない女性の姿がある。

「日本人パイロットはどこにいらっしゃるのかしら?」

「日本人?海の向こうならいくらでもいるだろ。」

「違いますわ。傭兵をしていらっしゃる日本ですわ。」

「ああ、俺の傭兵団に1人いるぞ。お、ちょうど戻ってきた。」

 滑走路に侵入してくるF-1。空になったボムラックに目が引かれるがよく見ると翼端ランチャーに着けているミサイルもない。新風の行動パターンから考えて爆撃ついでに空戦をしたのであろう。多分、機関砲の残弾も数えられるほどしか残っていなさそうである。案の定、再武装前の点検で燃料はほとんど残っておらず、機関砲も30数発程度しか残っていなかった。

「グエン。出撃準備完了。」

「あいよ。本日のラストアタックに行くか。」

「失礼させていただきますわ。」

「ああ。」

 グエンは自分の搭乗機の周りを一周まわって状態を確認してから操縦席に乗り込んで離陸前の準備に入る。

 新風は着陸してからも操縦席から降りずラノスに装備の指示を出す。

「Mk82を12発。サイドワインダー2発。20mm・燃料フル。至急。」

「気合の整備はいいのか?」

「異常なし。再武装と燃料の補給が完了次第すぐに出撃する。」

「あいよ。」

「日本人傭兵パイロットは貴殿でございましょうか?」

「・・・ああ。」

「先の中東戦争で噂になっているリュウ・アラカゼは貴殿かしら?」

「・・・噂に興味はないが俺の名は新風竜だ。」

「私はエルフリーデ・ジギスムント。ドイツ帝国の最後の皇帝『ヴィルヘルム2世』の血を引く王一族の1人よ。今はお味方いたしますが、いずれは一度お手合わせ願いますわ。」

「・・・」

 エルフリーデも搭乗機のF-4F ICEの再武装が完了した整備員に言われて立ち去って行った。言いたいことだけ言って勝手に立ち去って行ったといえる。

「面倒な奴に目をつけられたな。」

「・・・」

「無視しているが本当に面倒な奴だぞ。ドイツの王族の子孫でありながら、空戦ではEUでも屈指の実力者だ。容姿・血統・実力の三拍子そろったEUドイツ空軍期待の新星だぞ。お前同様、何で傭兵などしているかわからん奴だ。」

「・・・お前がタダで情報をばらまくとはな。」

「な・・・あ、やっちまった!お前に指摘されるとは思わなかった。畜生、次は今回の分込みでがっつりむしり取ってやる。」

 ゴタゴタはあっても再出撃準備だけは整った。滑走路の順番待ちもあり新風はエルフリーデのF-4F ICEとともに離陸した。

「一緒に離陸するついでに守って差し上げますわ。」

「・・・」

お読み下さってありがとうございます。

次の投稿をお待ちください。

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