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 兵士たちの動きを眺めてから、ヤールシュ王子がにこやかに微笑んだ。

 良い機会なのは確か。兵士たちがいるけど、離れているし。

 会話が聞こえそうな距離にいるのは、控えているクリフォードとルストだけ。


「アレクシスを見ていると、自国の弟たちを思い出す、と夕食会でおっしゃっていましたが……」

「あれですか。本当ですよ? 残念ながら、二度と会えない弟たちですが。バルジャンの王族は、良い者ほど短命なんです」


 言葉とは裏腹に、ヤールシュ王子は笑みを口元に刻んだ。


「ターヘンで動きすぎた、というのは、父上に協力したせいですか?」

「聞いておられましたか? そうです。ヒュー・ロバーツという人物の件で。カンギナに送りたいとのことでしたので、私がまだターヘンにいたこともあって、お手伝いを少々。バルジャンの王子としての顔を使ったので、そのために私がどこにいるかが本国に伝わったようですね」

「……ヒューには、会いましたか?」

「ええ。ごく短い時間でしたが。中々良い面構えでしたね。セリウス殿下は優秀な臣下をお持ちだ」

「何故、ヒューの移送先がカンギナなのかはご存じですか?」


 最初以外、一貫して作業の様子に目をやりながら答えていたヤールシュ王子が、私のほうへ顔を向けた。


「イーノック陛下が口にしていたそれらしき言葉ならありますが――交換条件でどうでしょう。私もお聞きしたいことがあります」


 私は頷いた。


「いいでしょう」


 にこりと笑みを浮かべたヤールシュ王子が口を開く。


「――では。いかなる本にも、あのバルジャンの媚薬については書かれていないはずなんです。あれは記述が禁じられており、すべて口伝なので。現物もバルジャンの王族経由でしか流れません。殿下はどこから知ったんでしょうか。非常に興味があります」


 一瞬、思考が追いつかなかった。

 媚薬……? 


 遅れて、理解が追いつく。

 兄に語った嘘八百のことを私は思い出した。兄からヤールシュ王子に伝わった……。

 そして、まさかの、嘘から出たまことになってた……?


「しかし、材料由来の色が水に溶かすと出るというのは誤りですね。水に溶かしても無味無臭のままです。飲んでも飲んだ本人が気づかない、それが特徴の媚薬なので」

「そうなのですか? ……わたくしの勘違いだったようです。本に書かれていた別の媚薬と混同したのかもしれません」


 こちらを見るヤールシュ王子は、納得しているような、していないような。まったく読めない。

 交換条件としての答えは、失敗してしまった気がする。


 ――でも、それより。


「あれが媚薬入りだとわかっていたのですか?」

「さあ、どうでしょう」


 そう答えてすぐに、王子が苦笑した。


「……すみません。嘘ですよ。少しからかわせていただきました。恥ずかしながら、あの炭酸水に媚薬が入っているとは露ほども思っていませんでした。……だから、余計に不思議だったんですが」

「媚薬が、バルジャンの王族経由でしか流通しないのなら、ヤールシュ殿下が私に媚薬を飲ませた犯人ということになりませんか?」

「おかしな話ですが、バルジャンの王族はあの媚薬を使わないんですよ。――自分の手では。それに、飲ませた、というのは大いに語弊があると思いますね。おそらく、犯人も殿下が飲むことは想定されていなかったのではないかと。ただ、炭酸水を運んでいた給仕から件の杯を取り、セリウス殿下へ渡したのは私です。その後の出来事を思えば、そうですね、一役買ってしまったわけですから、犯人扱いされるのも致し方ないかもしれません」

「自分の手では使わないという言葉を信じるとしましょう。では、わたくしの飲んだ媚薬はどこから?」


 もう出処は、いま私が話している人物しか考えられない。


「うーん」


 何故か、ヤールシュ王子が顎に手をやって唸った。


「何故、わざわざそれを私に訊かれるのかがわかりません。知らないフリをしているんですか? それならば私の前では不要です」


 ――だって、あなたはイーノック陛下を呼んだのではありませんか。


 その言葉ではっとした。

 ヤールシュ王子の言葉が遠回しに言っているのは、こう、だ。

 あなたは犯人がわかっていた。だから、父上だったんだろうって。


 ――違う。


 私はただ、原作知識のおかげで父上から解毒薬を受け取れるって知っていただけ。

 でも――辻褄は、合う。


『祈りの間』での父上からの問い。あれは、私がどこまでわかっているか確認するためのものだったら?

 傍目には、私は何もかも――犯人が誰かわかっていて媚薬を飲んで、事態を阻止したように見えるはず。


 父上は解毒薬を持ち歩いていた。それも、事態を収拾する場合に備えて、すぐに使えるよう所持していたのだったとしたら?

 ううん。それどころか、原作でも――クラリッサに媚薬が渡るように手配したのは父上だった? ……だから、クラリッサへの処分が甘かったのだとしたら?


 媚薬の入手方法も――父上なら、簡単だ。

 ヤールシュ王子が、現にエスフィアにいる。

 ……少なくとも、今回使われていた媚薬はヤールシュ王子が持ち込んだもので、渡した相手は――父上なんだ。


「一つ、お教えしましょう。これは先ほどの戦闘で加勢いただいたお礼です。バルジャンの媚薬は、過去にも一度エスフィアに流れています。――そのときの入手者は、レイフ・ナイトフェロー」


 ……おじ様?


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― 新着の感想 ―
父上が犯人だったとして…自分と同じようにセリウスに飲ませて女性と関係を持たせる気だったのかな。子作りのために。 そしたらまさかのオクタヴィアが止めちゃうという…。
てことはアレク出生の時のあれか?
更新楽しみに待ってました! 意外な人物が…!! 謎が解決されないまま沢山蓄積されていくのに混乱させずワクワクさせてしまう物語の構築力にいつも脱帽です
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