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啓吾・早紀子・民衆を扇動するは教皇か、女教皇か

 チェンジャー騒動の煽り、その差別は二十二の人全てを襲ったわけではない。

 既に死んだ人もいるし、なんなら人じゃない奴もいる。

 しかし啓吾はその例であった。変身後の姿で顔が変わらないというデメリットは特に大きく、周りからの視線は色を変えていた。

 親友の輝樹だけは変わらず笑顔で挨拶をしてくれる、けれどその輝樹すら訝しがる目で見る奴が増えるのだ。

「……輝樹、もう僕に構わなくていいよ」

 帰り道、自転車を押して歩くうちに啓吾はついそう言った。

 普段人当たりが良く喧嘩をしない、明るい輝樹が自分のために他人と口論をしているのは、啓吾としても見ていて気持ちがいいものではない。自分一人糾弾されるなら遥かにその方が良いと思うほどだ。

 けれど輝樹は怒って言う。

「なんだよ構わなくていいって。今まで俺がお前の許可取って構ってたのかよ?」

 そう言って明るい笑顔を見せる輝樹に、啓吾の胸は痛んだ。自分がそんな答えを求めているような気がして、そうやって輝樹をますます追い詰めるような気がして。

 いっそ輝樹が自分など見放して去ってくれればどれだけいいか。

 きっと輝樹には妹のことがあるのだろう。星奈が啓吾を好きであるから、そのためにも輝樹は必死に自分との仲を繋ごうとか。

 暗い考えが啓吾から離れなくなる。自分がすべき正しき行いを見いだせず、悶々と苦しむ時間が過ぎていく。

『これは重症だな。我輩にできることはないぞ、啓吾』

(知ってるよ、そもそも君さえいなければ……)

 そう思ってもそれ以上は言わなかった。啓吾とてハイエロファントが悪いとは思わない。

 けれど何かが悪い、そんな時間が確実に過ぎていった。


 そんな教室の微妙な空気を、このままではいけないと思っているのは何も啓吾だけではない。

 普段の授業とは違う特別授業は、玲子が国会議員になって様々な議会で活躍し始めた時に行われた。

 教卓で担任教師が黒板に、チェンジャーについて、と記し、皆に向かう。

「えー、みんなも知っての通りだが、この火野札市にはチェンジャーって呼ばれる人たちが現れた。今日は彼らについて、みんなで話し合ってもらおうと思ってな……」

 そんな文言は啓吾の左から右へとすり抜けていく。一体それに何の意味があるのかと無意識で問うた。

「先生、それはこのクラスにチェンジャーがいるからですか?」

 よくそんな質問ができたな、と罵声を浴びせたくなる気持ちを持ちつつ、その直球な質問に啓吾は一種の敬意も覚えた。

 先生は言葉を詰まらせるが、頷いた。

「……ああ。みんなも知っての通り、野矢はチェンジャーだ。先生も驚いたけど、今まで通り変わらないように……」

「いや、でも人間じゃないじゃないですか」

 そんなはっきりとした声は先生の言葉を遮り、教室の空気を支配する。

「政府だって色々とそれを計らって、あの仁藤って人を国会議員にして色々しているんでしょ? じゃあ差別じゃなくて区別ってことになりませんか?」 

「区別だったら、無視してもいいのかよ?」

 輝樹が刺々しく尋ねる。聞くというよりも厳しく当たっている様子だ。

「こら天海」

 先生が抑えようとするが、その生徒と輝樹は目を逸らさずに睨みあいを続ける。

「無視? 僕は野矢くんに話しかけられてないけど」

「他にも色々あるだろうが、心当たり、ねえのか?」

「ないね」

 陰口だって叩かれたし、酷い時には紙に化け物消えろ、などと心無い言葉を書かれて机に忍ばせてあったこともある。

 輝樹は思わず立ち上がるが、その生徒は微動だにせず、冷めた目で輝樹を見ていた。

「……天海くんって、やっぱり妹さんがチェンジャーだから?」

 別の生徒がぽつりと呟いた。

 決定的に空気が支配される。二人を孤立させるような雰囲気に、立った輝樹も座った啓吾も、全身の毛穴が開き汗が出る感じがした。

「テメェら……」

「落ち着きなよ。ひとまず座ったら?」

 それはもっともな言葉だと輝樹も思う。だが今座ったら、もう何も言い返せない気がして、輝樹には座れなかった。

「そうだな、天海、ひとまず座ろう、な?」

 先生は無責任にもそれに気付かず言う。輝樹は睨むように先生を見た。

「……んだよ、その顔」

 輝樹は先生に向かって言った。

「俺にビビッてるみてぇな顔しやがって……、くだらねぇことしやがって」

「なんだその言い方は?」

 輝樹はやるせなさそうに、そのまま教室を出た。

 啓吾に一瞥もせず、教室の全てを嫌悪するような怒りの表情で、無愛想に廊下へ出た。

 残された啓吾は考える。

 今の状況、誰もが間違ったことは言っていない。

 自分というイレギュラーが突然やってきたためにこのような空気を迎えているということに恐れながら、啓吾は尚も考える。

 どうしたら解決するのか、分からなくてもやるしかない。

 啓吾は規則正しく手を挙げた。

「あの、いいですか?」

 輝樹に向けられていた全ての目が、一斉に啓吾に向かう。

「な、なんだ、野矢」

「確かにチェンジャーは強い力を持っています。けれど、個人個人が何をしたかを重視してほしいと思います」

 先生は何を言っているのか、と不思議そうな顔のままぼーっとしていたが、とある生徒が言う。

「ま、そーですよね。チェンジャーがみんな人殺しみたいな偏見が良くないんですよね。実際何にもしてない人もいるわけですし」

「そういうことです」

 啓吾は理解を得たと思い同意するが、先生が同意する前にその生徒は突然言った。

「でもたとえばですけど、祖父を戦争で亡くしたら、やっぱり相手国自体を嫌いになりませんか? 鬼畜米英なんて言葉があるくらいですしー」

 啓吾がその生徒を見ると、決してそいつは笑っていなかった。

「……死んだんですよねー、家族」

 自分がしたわけでもないのに、啓吾の胸が強く縛られるような感覚を覚えた。

 言葉が出せないままの状況でそいつは止めを刺すように続けた。

「すみませんねー、分かっているんですけど、無理です。生理的にってやつですね」

 そして意味深な溜息を吐いて、そいつはまた押し黙った。

 重い沈黙に包まれる中、やがてチャイムが鳴り、一人が帰ると皆がまばらに帰り始める。

 果たして正解などあったのだろうか、啓吾は重苦しい空気に潰されないように、足早に去った。



 野矢家に輝樹と啓吾は住んでいる。といっても、輝樹と星奈は日替わりで体育館の避難所と野矢家を行き来しているのだが、この日は星奈に頼み込んで輝樹の野矢家二連続である。

「……もう学校行きたくねえな」

「それは我侭だよ、輝樹」

「でも、お前が言ったら我侭じゃねえと思うぞ」

 上の空の様子だった輝樹は、急に啓吾の目を見て言った。

「……我侭だよ」

「そうかなぁ? 俺は違うと思うけど」

「僕がそれを正しいと思えない」

 啓吾は言いながら、けれど心の中には迷いを感じていた。

 自分が教室からいなくなれば、今まで通りの空気が保たれる。今のような重くどこか棘のある空気は一新される。

 だがそれは臭いものに蓋をしているだけだ。小学校中学校でも同じ問題があるはずなのに、年長の自分がそんな手段を取っていいとは思えない。

「……明日、グラウンドで、三学校の生徒全員でチェンジャーなんとかの話をするらしいな」

「……らしいね」

 輝樹ですら憂鬱な雰囲気を出している、啓吾に至っては死刑執行を待つかのような気分だった。



 晴天の元、朝礼台に立った校長は熱心に全生徒に語り掛けた。

「彼らに罪はないんです。みんなと同じように生きてきて、それである日突然に……」

 それが今更どうにもならないと誰でも分かっているだろうに、時間の無駄だろうに、それでもそこで啓吾も輝樹も、他のチェンジャー達も黙って話を聞いていた。

 下らない時間、どころか一般生徒はこの面倒な行事はお前らが引き起こしたと言わんばかりにチェンジャーを睨む者もいる。

「それでは、以上で校長先生のお話を終わります。他の先生方で何かある人は……」

 そんなお決まりの言葉が出てようやく解放されると啓吾がふっと息を吐いた時に、彼女が前に立った。

「私、よろしいでしょうか?」

 許可も取らず、そういって北条早紀子は堂々と校長に変わって朝礼台に立ち、全校生徒、いや三校生徒の前に立った。

「チェンジャーであるか、チェンジャーでないか、そんなことはどうでもいいんです!! 校則に書かれている通りでいかなる事情があるにせよ我らが火野札高等学校の生徒は差別されず、いじめや嫌がらせ行為も禁止されています! それを分かってて続ける人、止めない人もまた校則違反です!」

 あまりに堂々とした物言い、そして一応は手順を弁えて檀上に上がっていることから、教師達は早紀子を止めるかどうかで悩む。

 そして輝樹と啓吾が教室で受けたような言葉は、この状況では生徒は言えず、ただざわめくことしかできない。

 そんな空気を良いことに早紀子はまだまだ続けた。

「そもそもですね、私はこの空気を非常に情けないと思っています! 実際に戦ってみれば生身でも運動部員にならあっさり殺されかねないというのに、チェンジャーだなんだという言い方に拘っているあなた達が情けない! 世間に踊らされて恥ずかしいと思いませんか!?」

 そこまで言うと、ようやく一人の教師が早紀子を止めようと動き出す。だがそれよりも大きな声があがった。

「ふざけないでッ!! 私は、私は家族をチェンジャーに殺されたのよ!? 人間とはっ、違うっ……!」

 それは啓吾に家族が殺されたといった、すぐ近くの女生徒だった。

 息を切らすように、涙をこらえるように言う姿に敬語は胸を痛める。

 けれどそれで教師の動きが止まっている間に、早紀子はずけずけ言う。

「確かにチェンジャーがしたんでしょう! でも彼らじゃないでしょう!? 逆恨みも甚だしい!!」

「おい、やめないか!」

「わ、私はまだ言いたいことが……」

 朝礼台で教師と早紀子がやんややんやと争い出すも、会場はしばらく沈黙があった。

 そのために、啓吾はその女生徒の呟きを聞くことができた。

「……分かっている、分かっているもん、それくらい、分かっているけど……」

 悲壮感漂わせ小さく呻く、それを聞いて啓吾は心に共感が灯るのを感じた。

 自分の力ではどうしようもできない辛さを、啓吾や輝樹だけでなく周りの人間もしていたのだ。

 その接し方が分からずに、どうしても意地悪な方法になってしまっているだけなのだ。

 だったらきっと、分かり合える。

 互いに互いを想い合っているのだから、そう啓吾は信じることができた。

「わーっ! 我々は火野札学校の生徒で、皆が仲良くする義務をー!」

「こら、マイクを放しなさい!」

野矢啓吾 15歳 身長175㎝ 6月6日生まれ

 茶髪眼鏡のクールな男子。物語当初は優柔不断で決定する意志が乏しく、迷い迷い行動していたが、戦い人を守る星奈に少しずつ気持ちを変えて自分も正しいと思う行動を取るようになる。

 相変わらず考えすぎることは多々あるが、以前よりかは積極的な行動が取れるようにはなっている。

 昔から輝樹とは一緒にいて、暴れる彼のセーブ役であるためにそういう精神が板についてしまっている。

 学校生活はやっぱり微妙な雰囲気のままであったが、啓吾は啓吾なりに解釈をし、人の友達もちゃんとできた。

 その後、玲子に憧れて大学に進学し政治学を学び、市議会議員となる。愛海同様に大成はしなかったが、積極的に発言し行動することで政界に顔が広がり、チェンジャーの社会的差別の緩和に役立った。


 ハイエロファント

 異世界最大の宗教国の王、しかし結構俗なところがあり今のハイエロファントはその中でも俗世的。

 光の魔法と剣を操る緑髪の優男であり、筋肉質で結構若いが威厳を持たせるために我輩とか言っている。

 テンパランスの宗派を強制的に取り込もうとしたり、チャリオットを倒す寸前まで追いつめていたりと軍事的、宗教的に力を持っていたが、こっちの世界に来てパーになった。

 啓吾のうじうじしたところを嫌うも、ちゃんと考えているところは評価しており、その後も口汚く罵りながら啓吾のサポートが天命であると考えるようにし、良いパートナーとして自分の人生を見定めた。


 北条早紀子 16歳 身長156㎝ 7月8日

 髪ドリル先輩こと金髪縦ロール。クレイジー生徒会長ともいう。実際生徒会長ではない。

 妄信的なまでにルールを重要視し、ルールのためなら人の意志も何も介在させないほど。

 初登場時にストレングスとともに千佳を追っていたのは、変身して廊下を走った千佳の存在を危険視して夜間に襲ったが、そこをストレングスに発見され、千佳をいじめていると思われて交戦することになった。つまりストレングスが千佳を守る形になっていた。

 他に立候補者が出なかったため無事生徒会長になることができたが、愛海に会って以来自分の実力をつけることにも就寝し柔道部にも入った。そして愛海にしごかれた。

 その後は市議会を一度覗くも自分の理想とするものと違うために選ばず、正義や蓮に教えを請い法学を勉強、検事になろうとしていたところを裁判官としてスカウトされ、その道に進む。裁判官になった後は双方の言葉から可能な限り適切な判決を下す裁判官としてその道では知られるが、早い段階でチェンジャーでなくなったことと、裁判官自体知名度があまりないため一般認知はされていない。

 ハイプリエステス

 ハイエロファントを裏切って国を作った戦争派。そもそも早紀子と仲が悪かった。

 一応戦争派に属しているが、彼女は俗になったハイエロファントに嫌気が差したためで、どちらかというと正統教義を守ろうとした側の勢力。しかし国はなりふり構わないハイエロファントに潰されかけだった。

 デビルとムーンの攻撃を受けて消えてしまうも、二人とも戦争派同士だが、そういう事情で敵であった。

 

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