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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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揺れない基準

基準とは、

動かないために置くものではない。

揺れたときに、

戻ってくる場所だ。


翌朝。

天象庁の空気は、

わずかに変わっていた。

誰も大声では話さないが、

視線の往復が増えている。


昨夜の判断が、

静かに共有されたのだ。


「観測継続……。」

若手の観測員が、

端末を見つめたまま呟く。

「つまり、

 何もしない、

 が続くんですね。」


「違う。」

ソーマは椅子から立ち上がる。

「何もしない、

 ではない。

 見る、

 を続ける。」


見る、

という行為は軽く見られがちだ。

だが、

意図して見ることは、

介入よりも難しい。


午前の定例会議。

監査局の代表が、

遠隔で参加していた。

画面越しの声は、

丁寧だが、

鋭い。


「昨日の判断。

 基準は何でしたか。」


一瞬、

室内が静まる。


「三つあります。」

ソーマは即答した。

「再現性がないこと。

 拡張性が見えないこと。

 そして、

 戻れない介入だったこと。」


「戻れない、

 とは?」


「一度触れれば、

 元の状態を

 観測できなくなる。」


監査局の代表は、

少しだけ頷いた。


「つまり、

 基準は安全ではなく、

 可逆性、

 ですね。」


「そうです。」

ソーマは言う。

「危険かどうかは、

 後からでも測れる。

 戻れないかどうかは、

 今しか測れない。」


会議が終わり、

緊張がほどける。

だが、

安堵は長く続かない。


昼過ぎ。

別系統のセンサーが、

微細な反応を示した。

前例のない波形。


「……新しいですね。」

リュミが言う。


「だからこそ、

 基準を使う。」

ソーマは画面を指す。

「触れば、

 この形は消えるか?」


「……たぶん。」

セシリアが答える。

「記録は残りますが、

 状態は変わります。」


「なら、

 触らない。」


即断だった。


誰も反論しない。

それが、

基準が共有された証拠だった。


夕方。

ソーマは一人、

観測ログを見返す。

判断の痕跡が、

淡々と並ぶ。


揺れなかったのではない。

揺れるたびに、

戻ってきただけだ。


基準とは、

信念ではない。

繰り返し使われた、

判断の跡だ。


夜。

窓の外の空は、

昨日と同じように見える。

だが、

観測者は違う。


「今日も、

 何も起きませんでしたね。」

リュミが言う。


「いや。」

ソーマは首を振る。

「基準が、

 一段、

 固まった。」


それは目に見えないが、

確実に、

次の判断を支える。

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