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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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動かない選択

動かない選択は、

何も選ばないこととは違う。

起き得る全てを一度見渡したうえで、

今は触れないと決める行為だ。


天象庁の空気が、

わずかに変わっていた。

足音が増え、

報告書の回転が早い。

だが内容は、

依然として安定している。


安定しているからこそ、

人は疑う。

この静けさは本物か。

それとも、

見逃しているだけか。


「不安は、

 情報が足りない時じゃなく、

 多すぎる時に増えるのよね。」

セシリアが、

机に資料を積みながら言う。


「比較できるからだ。」

ソーマは視線を上げない。

「可能性が多いほど、

 動いた方が良く見える。」


だが、

動いた結果は、

比較できない。

一つの現実として、

固定される。


午前の会議では、

あえて発言を減らした。

補足もしない。

結論だけを確認する。


「……今日は、

 反論しませんね……。」

リュミが小さく言う。


「反論は、

 流れを変えたい時に使う。」

ソーマは答える。

「今日は、

 流れを観る日だ。」


外縁の観測データは、

相変わらず緩やかだ。

変化はある。

だが、

介入を必要とする種類ではない。


「……空は……

 触られたがっていません……。」

リュミの言葉は、

感情ではなく、

状態の報告に近い。


昼過ぎ、

一件だけ異常値が出た。

瞬間的な歪み。

継続性なし。


監視室がざわつく。

判断を求める視線が、

自然とソーマに集まる。


「記録して、

 放置。」

即答だった。


「……それだけ?」

誰かが聞く。


「それだけ。」

ソーマは繰り返す。

「意味が続かない歪みは、

 現象じゃない。」


動かない選択は、

説明を求められる。

なぜ動かないのか。

なぜ今なのか。


だが、

全てを説明し始めた瞬間、

判断は防御になる。


夕方。

屋上に風が出た。

冷たくはない。

重さもない。

ただ、

方向だけが定まっている。


「この風さ。」

ガルムが言う。

「逆らったら、

 疲れるやつだ。」


「だから、

 逆らわない。」

ソーマは空を見る。

「動かない選択は、

 負けじゃない。」


それは、

勝敗の土俵に上がらない、

という決断だ。


夜。

街の灯りは、

今日も同じ配置で瞬く。

誰も気づかないが、

同じ夜は一つもない。


動かないことで、

世界は勝手に進む。

進ませる余白を、

残すこと。


それが、

今の役割だった。

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