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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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戻れない位置

戻れない位置に立つと、

振り返る理由がなくなる。

後悔が消えるわけではない。

ただ、比較ができなくなる。


天象庁の中で、

ソーマの席は変わっていない。

机も、端末も、

置かれている資料の厚みも同じだ。


違うのは、

そこに至る視線の向きだった。


相談は来ない。

確認も来ない。

判断結果だけが、

静かに流れ込んでくる。


「もう、

 意見を求められる段階じゃない。」

セシリアが、記録を整理しながら言う。

「決めたことを、

 受け取る場所になった。」


「それでいい。」

ソーマは答える。

「戻れない位置は、

 迷いを持ち込まない。」


午前の観測報告。

気圧の揺らぎは想定内。

雲層の伸縮も、許容範囲。

数字は、嘘をつかない。


「……空は……

 まだ……

 待てています……。」

リュミの声は、以前より静かだ。

安心ではない。

確信に近い静けさ。


「なら、

 判断は変えない。」

ソーマは即答する。

「ここで動けば、

 理由が揺らぐ。」


理由が揺らぐと、

切り離された判断は、

ただの独断になる。


昼過ぎ、評議会から非公式の連絡が入る。

助言という形を装った、

圧だ。


――慎重すぎるのではないか。

――機会を逃していないか。

――責任を一人で抱えるのは、危険だ。


どれも正しい。

正しいが、

今の位置では、

採用できない。


「危険だからこそ、

 一人に集めたんでしょう。」

ソーマは淡々と返す。

「戻れない位置に置いた以上、

 揺らさないでください。」


通話は短く終わった。

納得ではなく、

了解で。


夕方、ガルムが缶を投げてよこす。

「糖分。」

「戻れない位置は、

 体力を削る。」


「ありがたい。」

ソーマは受け取る。

「だが、

 まだ削り切れてはいない。」


屋上。

空は、少しだけ重くなっている。

不安定ではない。

ただ、

余白が減ってきている。


「ここまで来るとさ。」

ガルムが言う。

「助ける、って言葉も、

 使いづらいな。」


「助けはいらない。」

ソーマは答える。

「代わりに、

 見ていてくれ。」


戻れない位置にいる者に、

必要なのは救いではない。

判断が、

現実と乖離していないかを、

誰かが見続けることだ。


夜。

報告書を閉じる。

数字は整っている。

結論も変わらない。


待つ。

まだ、待てる。


戻れない位置は、

孤独を固定する。

だが同時に、

覚悟も固定する。


動く理由が、

現れるその瞬間まで。

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