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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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切り離される判断

切り離しは、突然行われるものではない。

準備され、正当化され、静かに実行される。

その過程で、誰も「切った」とは言わない。


天象庁の朝会は、予定通り始まった。

議題は三つ。

気流安定域の更新、観測精度の報告、そして――今後の判断体制。


最後の議題に入った瞬間、空気が変わる。

誰もソーマを見ない。

資料だけを見る。


司会役の職員が、淡々と読み上げる。

「意思決定の迅速化を目的とし、

 一部判断を責任者裁量に一任する案が提出されています。」


文言は中立だ。

だが、含意は一つ。

結果は、個人の判断として扱う。


「異論はありますか。」

形式的な問い。

視線は交わらない。


セシリアが一瞬だけ顔を上げる。

言葉を探し、やめる。

ここで声を出せば、

線を越える。


「……では、承認とします。」


決定は、音もなく落ちた。

何かが終わったわけではない。

ただ、切り分けが完了しただけだ。


会議後、廊下でガルムが低く言う。

「来たな。」


「来た。」

ソーマは頷く。

「想定通りだ。」


「悔しくないか。」


「悔しい。」

「だが、

 この形でなければ、

 待つ判断は持たなかった。」


昼、評議会から追補の文書が届く。

署名欄は一つ。

ソーマの名前だけが入る。


責任の明確化。

透明性の確保。

説明責任の所在。


どれも正しい。

だからこそ、拒めない。


午後、若い職員が書類を運んできて、

一瞬だけ足を止めた。

「……何か、手伝えることはありますか。」


「今はいい。」

ソーマは微笑む。

「自分の仕事を、

 丁寧にやってくれ。」


それが一番の支えだ。

だが、

それ以上を求めないのも、役目だった。


夕方、リュミが観測室から戻ってくる。

表情は静かだが、

声が少し揺れている。


「……空は……

 変わっていません……。」

「……でも……

 人の判断が……

 先に……

 切られました……。」


「空が変わっていないなら、

 問題はない。」

ソーマは答える。

「切られたのは、

 判断の置き場所だ。」


夜、報告書を書き終える。

異常なし。

安定継続。

判断は保留。


署名を入れる。

名前が、重い。


切り離される判断は、

孤独を確定させる。

だが同時に、

迷いを減らす。


誰に向けて説明するのか。

誰が責任を負うのか。

その曖昧さが消える。


代わりに残るのは、

一人分の重さだけだ。


屋上に出ると、

夜風が強くなっていた。

星は、わずかに瞬いている。


ガルムが言う。

「ここからだな。」


「ここからだ。」

ソーマは空を見上げる。

「切り離された判断は、

 戻らない。」

「だから、

 最後まで使い切る。」


世界は、

まだ壊れていない。

それが、今の答えだ。

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