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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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待つことに耐えられない声

待つことは、行為ではない。

だから、人は耐えられなくなる。

何もしていないように見える時間ほど、心を削るものはない。


天象庁に、はっきりとした変化が現れたのは、その翌日だった。

数値でも、天候でもない。

声だ。


廊下の端で、誰かが言い争っている。

会議室では、予定より長く議論が続いている。

内容はどれも同じだ。

「いつまで待つのか」「判断基準は何か」「責任は誰が取るのか」。


セシリアが、書類を抱えたまま立ち止まる。

「……空気、変わってきてる。」

「焦りが、形になってる。」


「限界は、世界じゃない。」

ソーマは静かに答える。

「人の側だ。」


昼前、正式な要請が一つ届いた。

評議会の一部メンバーからの、個別の面談希望。

内容は明示されていない。

だが、目的は分かっている。


「説得、ね。」

ガルムが低く言う。

「待てなくなった連中だ。」


「責めない。」

ソーマは席を立つ。

「待てないのは、

 普通の反応だ。」


面談は、小さな部屋で行われた。

人数は二人。

どちらも、慎重派として知られている人物だ。


「最近の安定は評価している。」

その一人が、前置きとしてそう言った。

「だが、現場から不満が出始めている。」

「何も決まらない、という声だ。」


ソーマは頷いた。

否定しない。

遮らない。


「平穏が続いている今こそ、

 次の一手を示すべきではないか。」

もう一人が続ける。

「方向性だけでも。」


「方向性を示すと、

 人はそこへ走ります。」

ソーマは静かに返した。

「今は、走らせない方がいい。」


「だが――」


「待てない声が出ているのは承知しています。」

ソーマは言葉を重ねた。

「それでも、

 待てないから決めるという判断は、

 一番危険です。」


沈黙が落ちる。

反論はない。

だが、納得もない。


面談は、それ以上進まなかった。

結論は出ない。

だが、圧力は確かに伝えられた。


午後、天象庁に戻ると、

若い職員が珍しく苛立った様子で声をかけてきた。


「……正直に言っていいですか。」

「いつまで、この状態が続くんですか。」


問いは、真っ直ぐだった。

責める響きはない。

ただ、疲れている。


ソーマは、少し考えてから答えた。

「分からない。」

「だが、

 終わらせるために待っているわけじゃない。」


「……じゃあ、何のために。」


「壊さないためだ。」


若い職員は、言葉を失い、

やがて小さく頭を下げて去っていった。


夕方、リュミが屋上で空を見ていた。

声をかけると、彼女は振り返らずに言う。


「……待てない声が……

 増えています……。」

「……空じゃなく……

 人の……

 中で……。」


「それでも、

 空はまだ待てる。」

ソーマは隣に立つ。

「だから、

 人の声の方を、

 聞き続ける。」


夜。

王都の灯りは、どこか落ち着かない。

眠らない光が、焦りを映している。


ガルムが言う。

「待つのが仕事ってのは、

 一番きついな。」


「きつい仕事ほど、

 誰かが引き受けないといけない。」

ソーマは答える。

「待てない声は、

 必ず大きくなる。」

「だが、

 それに合わせて世界を動かしたら、

 次はもっと待てなくなる。」


待つことに耐えられない声は、

これからも増える。

正論として。

善意として。

責任感として。


それでも、

世界の速度を決めるのは、

声の大きさではない。


ソーマは、今日の記録を閉じた。

異常なし。

だが、

人の側に、兆しあり。


次に問われるのは、

待つことを選び続けた者が、

どこまで孤独に耐えられるかだ。

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