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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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動かなかった結果

動かなかった結果は、遅れて届く。

即座の手応えはない。

だからこそ、見落とされやすい。


外縁の外での観測を始めて、五日。

大きな異常は起きていない。

だが、同時に「何も起きていない」とも言い切れなかった。


数値は安定している。

霧は出るが、溜まらない。

遅れは出るが、広がらない。

それらが同時に起きている。


「……整いすぎてる。」

セシリアが、記録を見ながら言った。

「自然にしては、偏りがない。」


「動かなかったからだ。」

ソーマは答える。

「余計な刺激を与えなかった。」

「流れが、自分で最適化を始めた。」


最適化。

人がやれば管理になる。

世界がやれば、循環になる。


昼前、外縁の観測点。

風は弱い。

雲は高い。

だが、空間の反応は、以前より速い。


ガルムが小石を放る。

石は落ちる。

音は、ほぼ同時に返る。


「……戻ってきたな。」


「“遅れ”が薄れている。」

ソーマは頷いた。

「静寂が、割れたままではなかった。」


リュミが目を閉じる。

「……空は……

 落ち着いています……。」

「……通るものが……

 通った……

 後です……。」


通った後。

それは、痕跡が残らないという意味ではない。

馴染んだという意味だ。


午後、測候院からの報告。

外縁近くの複数地点で、

微細なズレが同時に解消。

方向性も一致している。


「……収束?」

セシリアが問いかける。


「違う。」

ソーマは否定した。

「均衡だ。」

「閉じていない。」

「流れている。」


均衡は、壊れやすい。

だが、壊れにくくもある。

誰かが触れなければ、だ。


夕方、評議会から連絡。

封鎖見送りの判断について、

「結果が出たのか」という問い。


ソーマは短く返した。

「出ていない。」

「ただ、悪化もしていない。」


それ以上は書かない。

数字を並べない。

成功だと名付けない。


夜。

屋上。


王都の灯りは、少し柔らかく見えた。

外縁の暗がりも、深さを失っている。


ガルムが言う。

「動かなかったのに、

 戻ったな。」


「戻ったわけじゃない。」

ソーマは答える。

「通り過ぎた。」


セシリアが腕を組む。

「評価されない仕事ね。」


「評価されると、

 次に真似される。」

ソーマは静かに言った。

「真似されると、

 同じ結果にはならない。」


リュミが、空を見上げる。

「……空は……

 覚えています……。」

「……押されなかった……

 ことを……。」


動かなかった結果は、

世界に一つの記憶を残した。

ここは、押さえつけられなかった場所だと。


それが、次に何を呼ぶかは分からない。

だが少なくとも、

今日の世界は、壊れずに進んだ。


そして、それで十分だ。

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