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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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境界の外側で起きること

境界の外では、常識が働かない。

働かないというより、参照されない。


王都の外縁を越えた先。

地図では余白として扱われる場所に、朝霧が溜まっていた。

霧は濃くない。

だが、流れが一定だ。

風に押されるでも、地形に溜まるでもなく、自分の都合で居座っている。


「……天候じゃない。」

セシリアが言った。

「数値は合うけど、理由が合わない。」


ソーマは霧の縁に立ち、足元を確かめる。

冷えはない。

湿りも薄い。

それでも、視界だけが選択的に遮られる。


「境界の外側では、

 現象が“説明を求められない”。」

ソーマは低く言った。

「だから、形を保てる。」


ガルムが周囲を警戒する。

「人影は?」


「いない。」

ソーマは即答した。

「だから、今は静かだ。」


霧の中で、音が一つだけ遅れる。

石を踏む音。

衣擦れ。

それらが、半拍遅れて返ってくる。


リュミが目を閉じる。

「……ここは……

 答えなくて……

 いい場所です……。」

「……問われない……

 空です……。」


問われない。

それは、管理の外にあるという意味だ。

境界の内では、すべてが理由を求められる。

外では、存在するだけで許される。


昼前、霧は少しだけ薄くなった。

消えない。

だが、移動した。

丘の影から、さらに外へ。


「……流れてる。」

セシリアが確認する。


「流している。」

ソーマは訂正した。

「受け皿じゃない。」

「通過点だ。」


通過点は、壊れにくい。

溜めないからだ。

だが、通過点が増えすぎると、

内側に戻る道が分からなくなる。


午後、天象庁に戻る。

報告は最小限。

霧の性質。

移動の向き。

人為的影響なし。


評議会からの反応はない。

外縁の外は、議題になりにくい。


夜。

屋上。


王都の灯りは、ここからだと境界の内側にしか見えない。

外側は、暗闇だ。


ガルムが言う。

「外は、楽そうだな。」


「楽に見えるだけだ。」

ソーマは答える。

「責任が、追いついていない。」


リュミが、静かに続ける。

「……外は……

 自由です……。」

「……でも……

 帰る道は……

 自分で……

 覚えていないと……。」


境界の外で起きることは、

内側の言葉では語れない。

だからこそ、観測は続ける。

言葉にしないまま。


外へ向かう流れは、

今、初めて“居場所”を見つけ始めている。

それが安定になるか、

さらなる移動になるかは、まだ分からない。


分かるのは一つだけだ。

境界の外は、

静かに、しかし確実に、世界を変えている。

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