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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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距離を置く決断

距離を置くという選択は、逃げに見える。

守ってきたものから目を離す行為だからだ。

だが、守り続けることが必ずしも最善とは限らない。


翌朝、ソーマは指示を出した。

街道沿いの定点観測を、すべて一段階外へ下げる。

茶屋の常駐はやめる。

巡回は、時間をずらす。

顔を覚えられる頻度を、意図的に減らす。


「……完全に引くわけじゃないのね。」

セシリアが確認する。


「引かない。」

ソーマは即答した。

「見える距離から、見えない距離へ移るだけだ。」


ガルムが渋い顔をする。

「何か起きた時、初動が遅れる。」


「遅れない。」

ソーマは地図を示す。

「観測点は外にある。」

「兆しは、内側より先に外側に出る。」


それは、境界を内側から見るのをやめるという判断だった。

人の輪の中で感じる重さより、

輪の外で起きる歪みを拾う。


昼前、街道。

ソーマたちの姿はない。

茶屋の主は、いつも通り湯を沸かす。

客は来る。

だが、昨日より少ない。


理由は分からない。

分からないから、固まらない。


リュミは、丘の外れで空を感じていた。

「……距離が……戻っています……。」

「……少し……息が……入りました……。」


息が入る。

それは、境界が再び“線”に戻り始めた証だ。


午後、測候院からの共有。

街道の通行量は、緩やかに分散。

特定の時刻への集中が薄れている。


「……効いてる。」

セシリアが呟く。


「効いているように見えるだけだ。」

ソーマは慎重だった。

「距離を置く判断は、誤解されやすい。」

「何もしていない、と言われる。」


夕方、評議会から短い問い合わせ。

「街道の対応体制を縮小した理由は?」


ソーマは、簡潔に答えた。

「集中が進んだため。」

「分散を優先した。」


説明は、それ以上しない。

理解されなくてもいい。

理解されない距離に、意図的に立つ。


夜。

屋上。


王都の灯りは、変わらない。

だが、街道の方向が、少し遠ざかった。


ガルムが言う。

「離れるのは、怖ぇな。」


「怖いままでいい。」

ソーマは答える。

「怖くなくなったら、近づきすぎている。」


リュミが、静かに頷く。

「……空も……

 近づきすぎると……

 壊れます……。」


距離を置く決断は、即効性がない。

成果も、見えにくい。

だが、境界を細いまま残すには、これしかない。


次に問われるのは、

離れたまま、どこまで見続けられるかだ。

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