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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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近づきすぎた日

近づきすぎる瞬間は、合図を出さない。

計画でも、衝動でもない。

ただ、いつもの一歩が、少しだけ深く踏み込まれる。


その日は、朝から人が多かった。

街道脇の茶屋に、普段は見ない顔ぶれが集まっている。

商人、旅人、近隣の農家。

理由はばらばらだが、集まった結果は同じだった。


「今日は、妙に人が来るな。」

茶屋の主が、湯を足しながら言う。

「市でもあるのか?」


ソーマは、席を立たずに周囲を見回した。

会話は軽い。

笑い声もある。

だが、空気の密度が、昨日とは違う。


セシリアが小声で言った。

「……距離、縮んでる。」

「誰かが呼んだわけじゃない。」

「でも、集まってる。」


ガルムは外で様子を見ていた。

止める気配はない。

だが、視線は鋭い。


昼前、街道の中央に即席の露店が出た。

名物でも、珍品でもない。

ただの軽食だ。

だが、腰を下ろす理由には十分だった。


「……滞留が始まる。」

ソーマは立ち上がった。

「今日は、ここまでだ。」


リュミは、露店から少し離れた場所で目を閉じていた。

「……近いです……。」

「……空と……人が……

 触れています……。」


触れている。

押してはいない。

だが、距離が消えつつある。


ソーマは、露店の主に声をかけた。

「今日は、ここまでにしてくれ。」

「夕方から、風向が変わる。」


嘘ではない。

だが、真実の全部でもない。

露店の主は肩をすくめ、片付けを始めた。


「まあ、今日は十分売れたしな。」


一つ理由が消えると、人は散り始める。

だが、全員ではない。

何人かが、その場に残った。


「……まだ、残る。」

セシリアが言う。


「残るのは、理由じゃない。」

ソーマは答える。

「感覚だ。」


その瞬間、風が止んだ。

完全にではない。

だが、流れが一拍遅れる。


リュミが、はっきりと言った。

「……これ以上は……

 近づきすぎます……。」


ガルムが前に出る。

「悪いが、今日は引き上げだ。」

「ここは、長居する場所じゃねぇ。」


強い言葉ではない。

だが、迷いがない。

残っていた人々は、顔を見合わせ、やがて歩き出す。


数分後、街道は元の通りに戻った。

露店はなく、人の流れも薄い。

だが、空気はすぐには戻らなかった。


セシリアが息を吐く。

「……一線、越えかけたわね。」


「越えたかもしれない。」

ソーマは訂正した。

「ただ、戻れた。」


夜。

天象庁の屋上。


王都の灯りは、いつも通りだ。

だが、街道の方向に、微かな重さが残っている。


リュミが静かに言う。

「……近づきすぎた日は……

 痕が……残ります……。」

「……でも……

 戻れた痕も……残ります……。」


ソーマは頷いた。

「距離は、測り直せる。」

「だが、毎回じゃない。」


今日の出来事は、警告だった。

管理しない選択は、自由を与える。

自由は、人を近づける。


次に同じことが起きた時、

同じ距離で止められる保証はない。

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