世界を分けて受け止める
分ける、という選択は逃げではない。
一つで抱えきれないなら、抱え方を変えるだけだ。
丘陵の周囲に設けた小さな受け皿は、目立たない。
杭も、結界も、看板もない。
ただ、地形の癖に合わせて流れが散るよう、わずかに整えただけだ。
「……効いてる。」
セシリアが数値を見て言う。
「中心部の滞留が減って、周辺に分散してる。」
「一気に抜かないのが肝だ。」
ソーマは地図を畳む。
「抜けば反動が来る。」
「分ければ、世界が勝手に処理する。」
ガルムが周囲を見回す。
「人が近づかねぇのも、助かるな。」
「近づく理由がないからな。」
ソーマは答える。
「派手な対策は、注目を呼ぶ。」
「静かな調整は、日常に溶ける。」
昼過ぎ、南の低地からも報告が入った。
均一だった数値に、わずかな揺れが戻り始めている。
危険ではない。
むしろ、自然に近い。
リュミが静かに言う。
「……空が……動き出しました……。」
「……止められていた……
息を……取り戻しています……。」
ソーマは頷いた。
「止めるより、通す方が楽な時もある。」
夕方、評議会への定例報告。
結論は出さない。
だが、変化は隠さない。
「分散処理により、局所的負荷は低減。」
「新たな危険域は確認されず。」
それだけで十分だった。
誰も、追加の指示を出さなかった。
夜。
屋上。
王都の灯りは変わらない。
だが、南の方角の重さが薄れている。
ガルムが言う。
「世界を分けるってのは、
ちょっとずるいな。」
「賢いとも言う。」
セシリアが答える。
リュミは空を見上げ、微笑む。
「……世界は……一つでも……
受け止め方は……一つじゃ……ありません……。」
ソーマは、その言葉を胸に置いた。
すべてを管理しようとしない。
すべてを救おうとしない。
ただ、壊れない形を選ぶ。
今日のやり方は、記録に残らない。
再現も難しい。
だが、世界は確かに軽くなった。




