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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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動かない空の理由

動かないものには、必ず理由がある。

問題は、それが自然なのか、抑え込まれているのかの違いだ。


王都南の低地での観測は続いた。

風向、湿度、地表温度、魔力密度。

どれも数値としては正常域に収まっている。

だが、変動の「揺れ幅」だけが、不自然なほど小さい。


「……均一すぎる。」

セシリアは、複数日のデータを重ねて言った。

「自然現象なら、必ずノイズが出る。」

「ここは、ノイズが削られている。」


ガルムが眉を寄せる。

「削られてる、ってのは……誰かがやってるのか?」


「誰か、とは限らない。」

ソーマは首を振った。

「仕組みの可能性もある。」


現地での再確認。

畑の端、用水路、家屋の影。

特別な装置は見当たらない。

だが、歩いていると、足元の感覚が微妙に狂う。


「……反発が、ない。」

ソーマは足を止めた。

「踏み返しが、遅れる。」


リュミが目を閉じる。

「……空が……押し返していません……。」

「……受け流して……います……。」


受け流し。

それは、防御でも固定でもない。

力を逃がす、という選択だ。


セシリアが思考をまとめる。

「……流れを止めているんじゃない。」

「……流れを、別の場所に逃がしている。」


「逃がし先は?」

ガルムが周囲を見回す。


ソーマは、地図を取り出した。

南の低地を中心に、線を引く。

線は、王都の外へと伸び、さらに遠くへ続く。


「……残滓ざんし領域。」

ソーマは、低く言った。

「ここは、境界に近い。」


セシリアが息を吸う。

「……つまり……世界のノイズが……吸われてる……?」


「可能性が高い。」

ソーマは頷いた。

「自然な変化が、ここを通らずに抜けている。」


それは、異常の形としては静かすぎる。

だが、放置すれば歪みは蓄積する。

逃がされた分だけ、どこかで溜まる。


夜、天象庁。

報告書には、初めて明確な仮説が書き込まれた。


「南部低地は、魔力・気象変動の緩衝域として機能している可能性あり。」


結論ではない。

だが、方向は示された。


リュミが、屋上で空を見上げる。

「……空は……疲れています……。」

「……流し続けると……どこかで……溢れます……。」


ガルムが腕を組む。

「溢れたら、どうなる。」


「……場所は……選べません……。」

リュミの声は、はっきりしていた。


ソーマは、帳面を閉じた。

今回は、言葉を残さない。

仮説は、紙より先に行動で確かめる必要がある。


動かない空は、静かな親切かもしれない。

だが、親切は長く続かない。


逃がされたものが、

次にどこへ行くのか。

それを確かめる時が来ている。

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