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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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兆しのない兆し

兆しがない、という状態ほど判断を鈍らせるものはない。

人は変化を探す。

変わらないものは、背景として処理してしまう。


王都南の低地。

畑は耕され、用水路は澄み、子どもたちの声が遠くで響いている。

昨日と同じ。

一週間前と同じ。

問題は、その「同じ」が続きすぎていることだった。


「……数値は、安定しすぎてる。」

セシリアが端末を見ながら言う。

「揺らぎが、ほとんどない。」


「それは良いことじゃねぇのか。」

ガルムが首をかしげる。


「自然なら、ね。」

セシリアは画面を指でなぞった。

「でもここ、人の出入りも作業もある。」

「完全な均一は、むしろ不自然。」


ソーマは、用水路の脇にしゃがみ込んだ。

水面は穏やかだ。

風が吹いても、波が立つまでにわずかな遅れがある。


「……反応が、遅い。」

ソーマは言った。

「遅れすぎてる。」


リュミが目を閉じる。

「……空が……ためらっています……。」

「……動く理由を……失っている……。」


その言葉は、兆しの欠如を正確に言い表していた。

何かが来る気配ではない。

来るはずだった流れが、止まっている。


午後、天象庁で過去の記録を洗い直す。

南の低地に大きな災害はない。

小さな揺らぎはあったが、必ず自然に戻っている。


「戻る、が前提だった。」

ソーマは資料を閉じる。

「今回は、戻る途中の痕跡がない。」


若い職員が、不安そうに言った。

「……つまり……

 悪くなってないのに……

 良くもなってない……?」


「そうだ。」

ソーマは頷く。

「変化が、消えている。」


それは、危険の形としては地味すぎる。

説明も難しい。

市民に伝えれば、過剰反応を招く。

黙っていれば、手遅れになる可能性もある。


夕方、評議会への定期報告。

南の低地については、付記のみ。

「顕著な異常なし。ただし、経過観測を要す。」


それ以上は書かない。

書けない。


夜。

屋上。


王都の灯りは、相変わらず安定している。

だが、ソーマの視線は南へ向いたままだ。


「兆しがない場合、どうする。」

ガルムがぽつりと言った。


「兆しがないことを、兆しとして扱う。」

ソーマは答えた。

「騒がず、でも外さない。」


リュミが、静かに息を吐く。

「……空は……問いを……出しています……。」

「……答えを……急がないで……と……。」


ソーマは頷いた。

急がない。

だが、見逃さない。


兆しのない兆しは、

気づいた者にしか意味を持たない。


それでも、気づいた以上、背を向けることはできない。

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