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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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分かりやすさの代償

分かりやすい言葉は、速く広がる。

正確さよりも先に、気持ちに届くからだ。


「外縁静穏変動」。

その呼び名は、半日で王都に定着した。

掲示板に書かれ、市場で囁かれ、酒場で笑い話になる。

不安は薄まり、代わりに油断が顔を出す。


午後、外縁部の観測点から連絡が入った。

数値自体は、昨日と大きく変わらない。

だが、現地の様子が違う。


「……人が、増えています。」

報告役の声は落ち着いていた。

「見物目的の者が、数十名ほど。」


ソーマは、地図から目を上げた。

「……理由は?」


「……危険じゃないと、聞いたそうです。」

「……名前がついたから、と。」


セシリアが、短く息を吸う。

「分かりやすさが、行動を軽くした。」


ガルムが、舌打ちした。

「安全だと思った場所に、人は集まる。」

「それ自体が、条件を変える。」


外縁部に向かう途中、リュミが立ち止まった。

「……空が……少し……詰まっています……。」

「……人の気配が……重なりすぎています……。」


現地では、草地の周囲に簡易な屋台まで出ていた。

見物人が、空を見上げ、噂話をしている。

危険はない。

だが、静かでもない。


ソーマは、前に出て声を張った。

「……ここは、立ち入りを控えてください。」

「……観測の妨げになります。」


ざわめきが起きる。

誰かが言った。

「でも、安全なんだろ?」

「名前、ついたって聞いたぞ。」


その瞬間、ソーマは理解した。

説明が、行動の根拠になっている。


「安全だとは言っていません。」

ソーマは、言葉を選んで続ける。

「危険だとも言っていないだけです。」


納得しない顔。

だが、反論も弱い。

分かりやすさが先に走った後では、修正は効きにくい。


その時、風向きが変わった。

地表の温度が、わずかに下がる。

小さな変化だが、人の多さと重なって、空気が滞る。


リュミが、小さく声を上げた。

「……今は……離れて……。」

「……ここは……人の数に……耐えていません……。」


ガルムが、即座に動いた。

「聞いたな! 一旦下がれ!」

「屋台も畳め!」


強制ではない。

だが、声に迷いがなかった。

人々は、渋々ながら距離を取る。


数分後、空気の詰まりは解けた。

大事には至らない。

だが、説明できないズレは、確かに起きた。


帰路、セシリアが言った。

「……もし、もっと人がいたら……。」

言葉は、最後まで続かなかった。


ソーマは頷く。

「名前が行動を変えた。」

「それが、代償だ。」


夜。

天象庁の屋上。


王都の灯りは、今日も穏やかだ。

だが、外縁部の暗がりが、少し近く感じられた。


ソーマは、帳面を閉じたまま言った。

「明日、決断が迫られる。」

「分かりやすさを選ぶか、耐えるか。」


リュミが、静かに答える。

「……空は……まだ……待てます……。」

「……でも……人は……待つのが……苦手です……。」


期限は、残り一日。

分かりやすさの代償は、もう支払いが始まっている。

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