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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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揺らす者、揺らされる者

揺れは、必ず人の手から始まる。

自然の変化は予測できなくても、意図は読める。


期限五日目の朝。

天象庁に届いたのは、匿名ではない文書だった。

差出人は、王都評議会の一部会派。

内容は率直で、そして危険だった。


「未分類事象の早期定義を求める。」

「暫定対応は混乱を招く。」

「市民の安心を最優先すべきだ。」


名指しはない。

だが、誰に向けられた刃かは明白だった。


セシリアが文書を置く。

「……揺らしに来たわね。」

「内部から、わざと。」


ガルムが低く笑う。

「綱を揺すれば、誰かが落ちると思ってる。」

「落ちたやつのせいにできるからな。」


ソーマは、反論も否定もしなかった。

地図から目を離さず、ただ言った。

「揺れたのは、事実だ。」

「問題は、誰が揺らされるかだ。」


昼前、外縁部の数値が更新される。

変動幅は変わらない。

だが、報告の解釈に差が出始めた。


「安定している。」

「停滞している。」

「兆候が固定化している。」


同じ数値から、異なる言葉が生まれる。

それ自体が、揺れだった。


若い職員が声を潜めて言う。

「……このままだと……

 どれかに……

 決めた人の言葉が……

 勝ちませんか……?」


ソーマは頷く。

「勝つ。」

「だから、勝たせない。」


午後、評議会から説明の場が設けられた。

公開形式。

市民代表も同席する。


揺らす側は、舞台を広げた。

落とすなら、目立つ場所で。

それが常套だ。


ソーマは、一つだけ条件を出した。

「質疑は、時間制限なし。」

「要約は禁止。」


反発はあった。

だが、拒否はできなかった。

拒否すれば、隠していると見られる。


場は、重く始まった。

質問は鋭く、言葉は急ぐ。


「危険ではないのか。」

「なぜ名前をつけない。」

「誰が責任を取る。」


ソーマは、即答しない。

一つずつ、数値と経過を示す。

結論は、言わない。


苛立ちが、会場に溜まる。

それが、揺れだ。


だが同時に、別の変化も起きていた。

質問が、少しずつ変わる。


「もし、今決めたらどうなる。」

「決めない場合、何が見える。」

「待つ意味は、どこにある。」


揺らす者は、速さを求める。

揺らされる者は、答えを急ぐ。

だが、揺れに耐える者は、問いを変える。


夜。

屋上。


リュミが静かに言う。

「……空は……揺れを……覚えています……。」

「……でも……折れていません……。」


セシリアが息を吐く。

「……今日は……

 落ちなかったわね。」


ガルムが肩を回す。

「だが、明日も来る。」


ソーマは、王都の灯りを見下ろす。

揺れは消えない。

だが、揺れ方は選べる。


帳面を開く。

今日の記録は、これだけだ。


揺らす者は、速さを使う。

揺らされる者は、恐れを使う。

耐える者は、問いを使う。


ペンを置く。

綱は、まだ切れていない。

だが、擦り切れている。


明日は、決断ではない別の圧が来る。

それを、どう受けるか。

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