感情の変化
書きあがってしまいました。
書きたいことが色々と浮かんでは消え、思ったより時間が掛かってしまいました。
転移したおっさんの物語をお楽しみください。
宿屋へ帰って来た。
扉を開け中に入る。
っほ、暖かい。
と、思っていると大き目な声が聞こえる。
「あー!お兄さんが帰って来たわっ!」
リズが大声を上げたようだ。
俺の方にアリスが駆けつけて来た。
負けじとリズも突っ込んで来た。
それを見てマオまで突っ込んで来た。
ドドドーン!
「お帰りなのです、ヘファさん!」
「お兄さん、お帰り!」
「お帰りなさい!ヘファさん!」
さすがに倒れる事はない。
STRとかチートだもんね。
【あはは、ただいま。三人共、良い子にしてたかい?】
三人の頭を順番にわしゃわしゃと撫でる。
「「「い、良い子だったよ!」」」
三人から帰って来る返事がおかしい。
何かしたなと思っているとポーズをとって来る。
「それより見て見て!新しい服だよ!」
リズがくるっと回って見せる。
おお、良いじゃないか。
靴下も履いているし、これで少しは寒くないかな?
「新品の服なんて初めてなのですー!」
アリスが微笑む。
「思い切ってパンツスタイルにしたんだけど、どうかしら?」⦅チラッ⦆
「アナタもこの「キャクセンビ」でいちころよ!」⦅チラッ⦆
リズさん、マオさん誰に教わったんだい?
それに残念ながら俺はロリコンじゃないんでな。
興味なさそうにしていると「「チェー」」とリズとマオがいじけている。
気を取り直したのか体中で喜びを表現してくれる。
「すごいよね!ズボンてスースーしないもんね!」
「こんな立派なの着た事が無いよ!」
そうリズとマオが喜んでいる。
うん、微笑ましいね。
と、三人の背後に暗い影が・・・。
身長が同じぐらいだからだろうかリズとマオの頭がガシッっと掴まれる。
「ど、の、こ、が、い、い、こ、に、し、て、た、の、か、し、ら?」
地の底から聞こえるような声でルイスが呟いた。
ゴゴゴゴゴっていう擬音が目視できるようだ。
ルイスさん、顔が怖いです。
「「「キャー助けてー!」」」
【ゴメン、無理!】
即答するが、ここは宿屋の一階で他のお客もいる場所だ。
思わぬ所からギャラリーの援護射撃が。
「何だ?痴話喧嘩か?」
「夫婦喧嘩だってよー。」
「やれやれー!やっとかないと溜まっちまうぞー!」
「いやいや!溜まったらやっちまえばいいんだ!腰が軽くなるぞ!」
「「「ギャハハハハ!」」」
宿屋の一階からは冷やかす声が段々と増えて行く。
ルイスは真っ赤な顔で慌てている。
「こ、これは違うの!違うのよ!」
と、ムキになって大声を上げている。
ルイスさんそれじゃあ肯定しているような物ですよ。
そんなルイスを尻目に俺は皆に言う。
【さて、じゃあ晩御飯にしようか?】
「「「はーい!」」」
三人の元気な声が辺りに響いた。
「違うんだってば!ちょっとアンタ、この騒ぎを放っておく気!?」
ルイスの叫びも響いていた。
が、あえて聞き流した。
落ち着いた頃に晩御飯にしよう。
「アハハハ!」
定位置に座っていたベスが大声で笑っていた。
ベスが大声で笑うのはレアなんじゃないかな?
そう思いながら部屋に荷物を置き、戻ってくるとすぐに料理が並び始めた。
ルイスが頼んでくれていたのだろう、今日もオススメだった。
そういえばそれしか頼んでないな。
だがオススメが美味しいので文句はない。
まさにオススメ料理なのだ。
ルイスが脱力したかのように席に着く。
料理を運び終わった女将さんに代金を支払う。
「まいど!」
さあ食べよう!
【いただきます。】
「「「いただきまーす!」」」
今夜は鳥の腿の香草焼きっぽい物と黒パンと野菜スープだった。
そろそろ黒パンにも慣れてきたかな。
ルイスは終始「違うんだからね・・・」とぼそぼそ言いながら食べていた。
ベスはその様子を見て微笑んでいるようだった。
アリスは「美味しい!」といってハムスター状態だし。
リズとマオは「「負けるもんかー!」」と大食い選手のように香草焼きの皿を重ねていた。
周りの酔客から「まだいけるぞー!」とか「がんばれよー!」とか声援が聞こえる。
二人共三皿が限界だったけどね。
「動けないー・・・。」
「もう無理です・・・。」
リズとマオがノックアウトされていた。
皆と騒がしくも美味しい食事を味わったのだった。
お代わり自由で六人分が銅貨六枚なら安い。
この宿にいる間はオススメをメインで頼もう。
そうそう、ルイスとベスも無事に服を買えたらしい。
食事の時に汁等をこぼしたりしないように気を付けて食べていた。
うんうん、二人共可愛いね。
良い買い物だったみたいだ。
リズとマオは早速汚してしまったらしく、食後ルイスに怒られていた。
「アンタ達はー!クドクド・・・!」
そう言えば、ルイスからお釣りだという事で残金を渡されたが、何かあった時に使うようにと持たせておいた。
「「「ごちそうさまでした」」」
と、締めくくって部屋に戻る。
お湯を頼むのも忘れない。
今日は汗をいっぱいかいたからね。
早くサッパリしたいや。
皆それぞれの部屋に戻って行く。
アリスは一度部屋に戻ると着替えを持ってルイスに付いて行った。
年頃の女の子の体を清めるのは同じ女の子にしてもらわないとね。
さてと、お湯が届いたら体を拭いてサッパリしよう。
しばらくするとお湯が届いたので体を拭いている。
コンコン
ノックの音だ。
【はーい?】
「ア・・・アタシだけど。」
【ルイス?どうぞー。】
ガチャっと音がして名前を呼んだ人物が入ってき来た。
「今日の・・・。」
扉が閉まる。
顔を上げたルイスと目が合う。
ボッ!
いきなり顔が赤くなった。
「な、な、なんで裸なのよ!?」
【いや、体を拭いていたんだよ、それに裸と言っても上半身だけだろう?】
人を露出狂の変態みたいに言わないでほしい。
ルイスは慌てているようだ。
すると気づいたように両手で顔を隠した。
だが視線を感じる。
【いや、両手で隠しても指の隙間からしっかり見てるじゃないか。】
「ち、違う、違うのこれは・・・その・・・。」
ルイスの声が小さくなる。
【分かったよ、ちょっと待ってて。】
急いでシャツを着る。
【もう良いよ。で、どうしたの?】
「・・・。」
まだ恥ずかしいのかルイスの声が小さい。
「あ、あのね!服とか、その・・・ありがとう・・・。」
寝間着だろうか?
ルイスも先程とは違う服を着ている。
【いえいえ、お気に召されましたか?お嬢様。】
更に顔が赤くなった。
「あ、後、今日の収穫を持って来たのよ!」
と、籠を突き出して来た。
結構重量感がある。
【ああ、ありがとう。どうだった?】
「大収穫よ。沢山見つけたわ!」
ルイスが両手を腰に当てて、胸を張る。
寝間着なので二つの山が揺れる。
ルイスも結構あるよね等と思っていると、もう恥ずかしいのは無くなったのかな?
いつもの調子に戻っているようだった。
【今日の分のポーションはこれから作るけど、上級ポーションまでを作っているんだ。】
「高品質の上級ポーションだと銀貨一枚になるけど良いの?」
ほう、相場は調べてくれたらしい。
【それで良いよ。】
「ええ、分かったわ。」
昨日酒場で調べた情報をルイスにも伝える。
「オーガ・・・。皆に南西の森には行くなと伝えておくわね。」
【ああ、頼むよ。】
話し終えると、今日の収穫してきた物を見る。
【見た感じの材料だと回復を下級三十本、中級二十本、上級を十本ずつ作って、あとは筋力強化ポーションも上級までを十本ずつ作れるね。】
「そうなの?」
そうルイスが聞いてくる。
【うん、回復系と秘薬の消耗が重ならないレシピなんだよ。】
「へー、そうなのね。」
あまり派手に売れると押しかけられて、隣近所に迷惑が掛かるかもしれない。
【あ、そうそう。後はね、リクエストを聞いてもらえると良いかなーと。】
「りくえすと?」
ルイスが首をかしげる。
【次に売るポーションの希望ね。解毒とか速度増加とかそういった感じのヤツね。】
「成程、分かったわ。」
【おっと、ちょっと待ってね。】
籠を開けて中身を見せる。
【今日作っていたロングソードだよ。五本あるんだ。】
「へー、綺麗な鞘ねー。」
ルイスは籠から一本取り上げると、片手では無理だと思ったのか両手で持ちながら振り回している。
鞘からは抜いていないので、まあ大丈夫だろう。
片手剣だけどさすがに女の子には重いかな?
【鋼のハイクオリティーだから「小金貨三枚」で売りに出してみて。張り紙は派手にしても良いよ。斬れない物は無いとか書いても良いかもね。】
ギルドで出会った不思議なあの人に聞いた金額で売りに出してみよう。
売れると良いな。
【小金!?、わ、分かったわ。でも切れない物は無いなんて書いて大丈夫なの?】
小金貨と聞いて両手で「大事そうに」持つようにしたな。
ルイスのこういう所は可愛いくて微笑ましいよね。
【そうそう、もし剣の切れ味を試したいって人が来たらこうやって見てもらって。】
と、言ってメモ書きに使っている羊皮紙を二枚持ってくる。
「そんな物でどうするの?」
【やるのはルイスだけだからね?他の子は危ないから。】
「わ、分かったわ。」
羊皮紙を一枚渡す。
【一緒にやってみよう。】
そう言って一緒に鞘から剣を抜く。
刀身が綺麗だったのか「綺麗・・・」とルイスが呟いた。
【剣をね、こうやって持つんだ。】
「・・・持つのね?」
【うん、それで羊皮紙を乗せる。】
「・・・乗せる。」
片手で持っているルイスの手が震えている。
やはり片手では重いようだ。
そして羊皮紙の隅っこを持ち、剣の上をそのまま移動させる。
スッ
音もせずに羊皮紙が斬れた。
ルイスが何が起こったのか分からないといった顔をしていた。
そう、羊皮紙が剣に触れただけで斬れたのだ。
「え!?嘘!凄いわ・・・。」
ルイスから呟きが聞こえる。
【ハイクオリティーだからこんなもんかな。】
「いえいえ、すごい切れ味でしょう!?」
切れた羊皮紙を見ながらルイスが言う。
俺はそうかな?
と、言って頭を掻く。
「凄い物を見たわ・・・ん?という事はもしアンタがいない時にお客さんが来たら私がやる事になるのよね?」
と、ルイスが言う。
【そうなるね。まあ、斬れ味を試したいっていう人が来たらだから。】
「わ、分かったわよ。他の子には危なくてやらせられないものね。」
諦めたようにルイスが言う。
二本の剣を鞘に納め、籠に入れる。
【そうだ、剣の修理もやるってふれ込んでおいてよ。その際は武器を一~二日お預かりする事。それと俺達の宿屋の場所も教える事。もしかしたら宿の宣伝になるかもしれないからね。】
「分かったわ。」
ルイスは返事をしてくれる。
【数がそろったら露店を出すから、気持ちだけでも準備しておいてね。】
「でも、これが売れるとすごい金額になるわよね?」
【そうだね、売れたら帰りに銀行に寄って、口座を作って入金しておかないとね。】
銀行は衛兵の人もいるし安全だからね。
「そうだねー・・・じゃないわよ!?」
あれ?
なんか急に元気が無くなったぞ?
【どうかしたの?】
「いえ、ちょっと考えたら怖くなっちゃって・・・。」
ルイスが両手で自分の体を抱きしめる。
「今までと金額が違いすぎるのよ・・・。」
【金額って?】
「アタシ、小金貨なんて見た事無いもの!?」
【ああー。】
まあ、今まで銀貨も見た事が無いっていう子もいたからね。
「貴方はどうしてそんなに冷静でいられるの?」
ルイスは不安そうだ。
金貨を持っていますとは言いだせない雰囲気だな。
【んー、皆が幸せになれば良いなーとか思って、必死になってるだけなんだけどね。】
心から出た事をそのまま言葉にしてみる。
【俺はそれで頑張れるからね。】
そう言っていると、俺の顔を見ていたルイスが良い笑顔で言って来る。
「ッハー、真面目に聞いた私が馬鹿だったわ。」
元気が戻ったみたいだ。
「じゃあ、ポーションの方はよろしくね。」
【了解、作っておくよ。】
ルイスがドアの方に歩いて行く。
「じゃあ、また明日ね。」
【うん、お休みルイス。】
「お休みなさい・・・。」
扉を開けて出て行く。
なにか言いたげだったな。
今度それとなく聞いてみるか。
体を拭く続きをしようかと桶にタオルを付けようとする。
あらま、お湯が冷えちゃったよ。
しょうがない。
下も拭かないとだしもう一度頼むか。
ちなみに、一緒の部屋のアリスは、体を拭いた後にルイス達の部屋でリズとマオと一緒に、文字の書き取りをしているはずなのでもう少し時間があるはずだ。
今日はベス先生か。
さて、アリスが戻って来る前に体を清潔にしておこう。
ポーション作りはその後だな。
そうして部屋を出て一階にお湯を頼みに行くのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
しばらく後のルイス達の部屋。
書き取りが終わり、アリス達はそれぞれの部屋に戻って行った。
良い時間だったので明かりを消してベッドに入った。
それから一時間ぐらいたっただろうか?
私はまだ眠れていない・・・。
隣ではベスが眠っている。
私も眠らないと。
でも眠ろうとしても眠れない。
いろいろ考えてしまうのだ。
そう、「アイツ」の事である。
出会いは最悪と言っていい物だった。
「私がどんな嫌な事を言っても笑顔で一人の人間として対応してくれた。」
アリスが懐いていたので、簡単に信用してしまった。
「あんなヤツ・・・。」
出会って二日しか経っていない。
「知らないんだからね・・・。」
私の方が年上なのに何故かすごく安心感があるのよねアイツ。
「今日はギルドで一日中「剣」を作ってくれていたのよね。」
ハイクオリティーですって、あんなに切れるとは思わなかったわ。
やっぱり凄い人だったんだ。
「でも売れたら大金よね?大金は持ち歩くのは怖いわ。」
帰りに銀行によって口座に入金しておくね。
「細かい所にも気を使ってくれる。」
今着ている寝間着もアイツから貰ったお金で買った物だ。
「久しぶりに体を拭いたから、サッパリしていて気持ちが良いわ。」
アリスはともかく、すでに皆も懐いているようだ。
「美味しい御飯も、お腹いっぱい食べられるようになった。それに御昼御飯なんて贅沢もさせてもらえた・・・。」
三の月までしか持たないと思っていた生活だった。
「最悪・・・私が体で稼ぐしかないと思っていた。」
下級娼婦になっている自分を考えてみる。
「嫌だ!もう下働きをしていたあの頃には戻りたくない。アタシ達は奴隷じゃないのよ!」
アイツだけだ、アタシ達を「女扱い」しないのは。
いろいろ考えてしまう。
ハア、寝よう。
なんであんなヤツの事ばかり考えちゃうんだろう。
そういえば結構、体付きが凄かったわね。
一日中ハンマーを振っているんだものね。あのぐらいの体でないと駄目なのかも。
ボッ!
月明かりの中でも、顔が赤くなっているのが分かる。
ブンブン!
「思い出しちゃダメ、思い出しちゃダメ・・・。」
頭の中からイメージを追い出す様に頭を振る。
無心よ・・・。
そう無心!
落ち着くのよ!
頭の中から雑念を振り払う。
そう、やれば出来るのよ。
ふぅ・・・。
眠らないと明日がきついもの。
寝よう。
・・・
・・・・・・
眠れない。
みんなアイツのせいよ!
冷静になれないルイスはベッドの上を動き回っているので、布ズレの音がすごく響くのが分からなかった。
そう、ここは二人部屋、隣のベッドには目を細めたベアトリクスがいる。
一部始終を聞いていたベスは、そんなルイスを微笑ましく思っていた。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
キャラを魅力的に描くというのは難しいですね。
もっと精進いたしますので応援よろしくお願いします。
ブックマークとイイネ!が楽しみになってしまいました。
それでは次話 今日は蛇行運転・・・? でお会いしましょう。