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ゲームで伝説の鍛冶師だった、元アラフォーおっさんの異世界転移奮闘記  作者: Maya
第一幕 第一章:そして始まる異世界生活
4/353

「縁」は大切にしないとね

続きです。

中身おっさんの冒険?をお楽しみください。

ハッキリと声が聞こえたのだが、俺はいきなり現れた事の方に驚いている。


そう、先程スリに会ったばかりだから警戒はしていたつもりなんだけれどね。

慌てて振り向くと、日本なら小学校の低学年ぐらいだろうか?


挿絵(By みてみん)


見た感じ七~八歳ぐらいの女の子がリンゴの籠を持っていて、こちらに差し出している。

髪の毛は長い金髪を後頭部で三つ編みにしていた。

腰ぐらいまであるかな?

整った顔立ちの女の子だ。


今の顔は煤けて頬がコケているが将来は美人さんだろうな。

目の色は空のような青色だが・・・。

なんだろう生気が感じられない目をしている。


「林檎はいかがですか?」


何かを諦めたような・・・そう生気のない目をしている。

それにこの子、一度も笑わないんだな。

籠の中の果物は俺の知っている果物の林檎・・・知っている物で良かった。

リンゴは傷んでいた。

売れ残りなのか、それとも拾った実なのか。


どちらにしても、この子の生活が楽ではない事だけは分かった。


「あの、若旦那様?」


それにしてもこの子の保護者がいるのか気になるな。

籠を見ると売れているようには見えない個数が入っている。


「若旦那様?」


おっと、長考してしまったようだ。


【おほんっ!】


と、咳払いをし思考の海から戻ってくる。


【ん?君の言っている若旦那とは・・・俺の事かな?】


若旦那様なんて言っているから誰の事か分からなかったよ。

ベンチから立ち上がりその子に近づく。

女の子と視線を合わせる為に笑顔を作り屈む。


「はい、一つ銭貨二枚なのです。いかがでしょうか?若旦那様。」


そう言えば、ずいぶん丁寧な口調の女の子だな。

そういう風に教育されているのだろうか?

自分が同じ年齢の頃はこんな口調は絶対出来なかっただろうな。


しかも若旦那様なんてくすぐったい。

あ、そう言えば俺の見た目は十五歳なんだったっけか?

服も買ったばかりで身なりも良い。

それでこの扱いか。


ん?

良い事を思いついたぞ!

思い切ってお金の価値の事をこの子に聞いてみるかな。


【購入するので代わりに、ちょっと質問させてもらって良いかな?】


「私に答えられる事であれば・・・。」


少し警戒気味になる女の子。

何を聞かれるのだろうと警戒してしまった。


【リンゴを三個買おう、そして支払いは銅貨だ。】


間髪を容れずに返事が来る。


「はい、銭貨四枚のお釣りですね。」


うん、やっぱりね。

商売をやってるから算数は出来るんだと思った。

お釣りの計算がすぐに出来るという事は基本は賢い子供なのだろう。


【そのお釣りで聞きたい事があるんだけど・・・良いかな?】


目をパチパチさせて驚いているようだ。


「はい、お答え出来る事でしたら。」


しばらく固まっていた女の子から返事が返って来た。


【実はね、()()()()()を教えてほしいんだ。】


「え?」


女の子が防御の為だろうか片手を胸に持って行く。

警戒させるような質問だったのかな?

だがね、お金の事は是非聞きたい。


【ちょっと遠くから来てね。お金の価値が違うので困っているんだ。】


「そんなに遠くから、成程なのです。」


うん・・・遠いんだ。

もう二度と帰れないからね。


胸に当てた手を下ろし少しは安心したのか、女の子は俺の苦しい言い訳を信じてくれたようだ。


【ちなみに銭貨十枚で銅貨一枚というのはちょっと前に分かったんだけどね。】


笑顔で人差し指を立ててみる。

女の子が微笑む。

態度から少し警戒心が薄れていくのが分かった。


「それ以外の価値なのです?」


【うん、そういう事。】


表情が少し柔らかくなった気がする。


「そうするとまずは大銅貨なのです・・・ます!」


【自己紹介がまだだったね、俺の名前は『ヘファイストス』鍛冶師で行商人だ。長いから『ヘファ』で良いよ。よろしくね。】


商品は持って無いけれども、そういう設定にしておく。


「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。私は『アリス』と言うのです。」


アリスって言うのか可愛い名前じゃないか。

お互いの自己紹介が終わった所で早速聞いてみる。


【じゃあお願いするよ、アリス先生。】


「先生なんて初めて呼ばれたのです!それではまず大銅貨からで、これは・・・。」


アリスはそう言うと道脇の砂地へと歩いて行く。

後を追う俺。

何で道端?

そう思ってみているとアリスは「絵」を描きだした。


あ!

もしかして()()()かな?

と、気付いた。

そうか、この年の子供が林檎売りなんかしているんだ。

教育するところが無いのかもしれないね。


「なので、銅貨が二十枚集まると大銅貨にしてくれるんです。」


商売をやっているのだから数字はかけるんだね。

偉いぞ、アリス。

そして同じく屈んで絵を見ていると声がかかる。


「お?この寒空に勉強とは感心じゃのお。」


と、言うしゃがれた声が右手から聞こえて来た。

そちらを見ると顔の赤いお爺さんがいた。

なんか()()()のあるお爺さんだ。


「どれどれ・・・ふむ。」


そう言って話に加わる為に近づいて来た。

しかし、お爺さんモーレツに酒臭いな!


「アリスが知っているのはこれだけなのです。」


アリスは銀貨まで身振り手振りを交えて教えてくれた。

お爺さんも微笑んで見守っている。

残念ながら小金貨は見た事が無いという事でそこまでの説明となった。


【ありがとうね、アリス。】


頭を撫でてあげる。


「ならば、わしの出番じゃな。」


その後をお爺さんが引き継いで教えてくれた。

親切な人だ。

助かるね。

基本的な事なので頭の中でメモを取る。


アリスも聞き耳を立てている。


お爺さんの話だと小金貨、金貨、大金貨、白金貨、聖金貨と呼ばれる物まであるらしい。

聖金貨って何だよ?

記念金貨とかか?

年輩のお爺さんも聖金貨は話でしか聞いた事が無いらしい。

白金貨は基本的に大きな取引で使われるらしい。

聖金貨ともなると美術品のような価値がある為、発行数も少ないのかもしれないとの事だった。


王都の大聖堂や偉い貴族様の家なんかに『ステイタス』として飾ってあるそうだ。

そんな物を飾ってあるのか?

セキュリティは大丈夫なのか、この世界と思ってしまう。

基本、白金貨以上の取引は銀行で発行されている『小切手』を使うのだとか。


ほほーと感心してお爺さんの話を聞いていると、話し終えたお爺さんが「んー」と言って掌を俺の方へ差し出して来た。


【……爺さんその右手は何だ?】


「もちろん授業料じゃ。」


そう言って銅貨一枚を請求された。

タダじゃねえのかよ、爺さん。

もうお爺さんとは言ってやらねえからな!

心の中でそう言っておく。


仕方なく銅貨一枚を渡す。


前世でも「ただより高い物は無い」って(ことわざ)があったから気を付けよう。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



銭貨10枚=銅貨1枚

銅貨20枚=大銅貨1枚

大銅貨5枚=銀貨1枚

銅貨100枚=銀貨1枚

銀貨10枚=小金貨1枚

銀貨100枚=金貨1枚

小金貨10枚=金貨1枚

金貨10枚=大金貨1枚

大金貨10枚=白金貨1枚

金貨100枚=白金貨1枚

白金貨100枚=聖金貨1枚



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



アリスと爺さんの話を纏めるとこんな感じらしい。

成程ね。

異世界の金銭感覚、侮れないね。


残ったアリスを見る。


【良く分かったよ、ありがとうね、アリス。】


「お役に立てて良かったのです。」


アリスはニッコリと笑う。


「ほっほっほ、勉学は若いうちにしときな、なあ、あんちゃん。」


そう言い残して爺さんは北側の通りへ消えて行った。

どうやら金が手に入ったので酒でも飲みに行ったのだろう。

昼間から酒臭いくせに、妙に物知りな爺さんだった。

・・・長生きしろよ、爺さん?


アリスの頭を撫でながら笑顔は年相応だなと思っていると、どこからか「ぐ~」と音が鳴る。

どうやらアリスの方から聞こえて来た様だ。

お腹の音かな?

お昼時で良い匂いもしているしね。


「あうぅ・・・。」


アリスの顔が熟れたトマトのように真っ赤になって涙目で俺を見上げてくる。

でも、アリスの目に光が戻って来たような気がする。

羞恥でも何でも良いけど、初めて俺を『生きている目』で見てくれた気がする。

目が合うと恥ずかしかったのか俯く。


【じゃあリンゴを貰うね。】


銅貨を一枚渡す。


「あ、ありがとうございます、ヘファイストス様。」


チャリン


アリスが釣りを返そうとした拍子に、一枚の銅貨が石畳へ転がった。


「【あっ・・・。】」


二人が同時に手を伸ばすが、アリスの方が先に拾う。

服で軽く拭いてから差し出す。


「落としたのですよ、若旦那様。」


落ちていた銅貨を、返してくれた。

改めて硬貨を受け取りアリスに差し出す。


「では林檎が三個なのです。」


アリスは籠の中を見比べ、一番傷の少ない実を三つ選んで差し出した。

売る側なら、傷んだ物から先に売ってもおかしくない。

それでも、この子はそうしなかった。


・・・お人好しと思われてもいい。

たったそれだけの事なのに、不思議とこの子なら信用できる気がした。


【ありがとうね、アリス。】


リンゴをバックにしまう。

買ったリンゴは今度大事に食べさせてもらおう。

さて、一息ついてしまったのだが・・・。

この子と別れるのに後ろ髪をひかれてしまう。


せっかくの可愛い情報源、それに信用できると思った娘なので逃すのは惜しい。

提案をしてみる。


【そう言えば、俺も御腹が空いていたんだ。アリスは美味しいお店を知らないかな?】


「え!?」


【案内の報酬はお昼ご飯だ!一緒に食べよう。】


「・・・あの、ヘファイストス様は、御昼にお昼ご飯を食べるのですか?」


アリスは驚いている。

ん?

御昼は食べないのか普通なのか?


そう言えば、昔の人は朝夕の二食だったとか何かの本で読んだ気がする。

基本的に昼飯を食べないなら、ちょっと贅沢をさせて上げようと思う。


【そうだよ、昼飯だ。アリスには恩を受けたからね。どうだい?】


そう提案すると顔を暗くして言って来る。


「私だけ贅沢をするのは皆に悪いのです・・・良かったら御店を教えますので、ヘファイストス様だけお食べになって下さい。」


そう言って遠慮している。

ふむ、此処は押してみるか。


【ああ~丁度、御腹が空いたなぁ~。美味しい昼飯が食べれる所は無いかなぁ~。】⦅チラッ⦆


芝居がかったようにチラっとアリスを見る。


【このままじゃ動けなくなりそうだなぁ~。どうしよう、誰か美味しい昼飯を食べれるお店を知らないかなぁ~。】⦅チラッ⦆


アリスはどうしようかとオロオロしている。


【一人寂しい昼飯なんか嫌だなぁ~。】⦅チラッ⦆


意地悪だったかな?


【遠慮しなくて良いよ。昼飯は美味しいお店の案内料だよ。】


そう言って笑顔を作る。


【後、宿屋とかも知らないかな?俺も聞きたい事があるからね。その対価だと思ってね。】


遠慮していたアリスだけど、頼み込むと根負けしたのだろう。


「はい、そういう事なら喜んで案内させて頂くのです!」


笑顔で快諾してくれたのだった。

上手く行って良かった。

アリスがニッコリと笑う。

うん、いい笑顔だ。


目にも少し光が戻って来た。

太陽を見上げると、丁度、昼飯時なのか真上に近い所にあった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



アリスの案内のもと、二人で北通りを歩いて行く。


挿絵(By みてみん)


「着きました、ここのお勧めは安くて美味しいと評判なのです。毎日変わるお勧めの料理が評判なのです。楽しみにしてほしいのです!」


アリスに教えてもらったお店は宿屋兼食堂といった感じの所だった。

一階が昼は食堂で夜は酒場になるのだろう。

二階から上は宿屋の各部屋になっているらしい。

三階建ての建物だった。


夜は酔っ払いが騒がしそうだ。


「北通りは宿屋が多いのです。」


【そうなんだね。ほほー・・・。】


扉を開き店に入ると周りを見渡す。

身なりの良い人達で席が埋まっていた。

しばらく見ていた俺に男性店員が近づいて来た。


「へい、ようこそ「季節の巡り亭」へ。若旦那、今ならカウンターの席が空いてるぜ。」


【二名なんだけど、大丈夫かな?】


「二席なら問題ありやせんぜ、若旦那。」


席に案内され、座ると早速店員が声をかけて来る。


「あわわわ・・・。」


「御注文はお決まりですかい、御嬢ちゃん?」


【ふふ、そうだね・・・そう言えば今日のオススメは何だい?】


「今日のオススメはイノシシのサイコロステーキで、定食だと銅貨二枚ですぜ!」


爽やかな笑顔で勧めてくる。


【じゃあ、その今日のオススメを定食で二人分頼む。】


「若旦那、そっちのお嬢ちゃんも食べるんで?」


【・・・そうだが、何か問題が?】


「いえいえ、小さい子がそんなに細っこい腕をしているんでね、うちのボリュームのある物で腹いっぱいになって行ってくださいよ!」


その店員はアリスを見てニッコリと微笑む。

良い接客だね。

その言葉だけで心も満たされる。


【それはありがたいな。】


アリスの格好を見て昼を食べるのか疑問に思っていたのだろうか?

と、そんな風に考えてしまったが人の良い店員で良かった。

アリスが昼飯を食べられない環境だと勝手に決めつけていた軽率な自分を恥じる。


【それでは二人分頼むよ。】


「はーい!オススメ定二丁ー!一つは大盛、サービスで!」


気の利く店員だ。

注文が済んだ所で話始める。


【改めて、俺は『ヘファイストス』鍛冶師だけど行商をしている。よろしくね。そうだ『ヘファ』って呼んでね。長いから。】


「『アリス』と言います。物売りをしているのです。こちらこそよろしくなのです!」


うん。

礼儀正しい子だね。


さてと、食事が来るまでに色々と聞いてみるかな。

まずは地図だな。

俺はアリスに街の地図や世界地図があるかどうか聞いてみた。


「南通りに『冒険者ギルド』があるので、そこで買う事が出来るみたいなのです。」


ほほう、冒険者ギルド。

これもゲームには無かったね。

更に聞いてみる。


「アリスはギルドに行った事がないので、ギルドの受付で聞いた方が良いのです!」


そうか、ギルドにはいかないとな。

冒険者ギルドがあるなら当然生産系のギルドもあるのだろうな。

聞いてみよう。


【もしかして鍛冶師ギルドとかもあるのかな?】


「鍛冶師さんや裁縫師さん達は『商業ギルド』で統一しているみたいなのです、東通りにあるのです。」


ほー、俺が入るなら商業ギルドかな。

モンスター退治なんて怖いから嫌だしね。


「後は北通りに『魔法ギルド』があるの・・・ます。」


魔法ギルドか、魔法には興味があるのでいつか行ってみたいな。


「今は素材が高くなっているので、森で取れる『夜光キノコ』とかが高く売れるらしいのです!」


ほう、ゲームの時の希少素材にたしかそんなキノコがあったな。


「買うのにも売るのにも、ギルド証が必要なのです。」


【ギルド証ねえ・・・。】


「それが無いと街に出るのも大変なのです!いえ、ございます。」


【アリスさんや、無理に敬語を使わなくてもいいんだよ?】


「恩人に失礼な態度はとれないのです。」


【アリスの話しやすい言葉で良いからね?そんな事でヘファさんは怒らないぞう?】


「・・・分ったのです!」


【それでそのギルド証を手に入れるのに稼いでいるの?】


「はい、銀貨が三枚なのです!」


ギルドの登録に銀貨三枚必要なのか、それをストリートで稼いでいると・・・。

うーん、聞いた感じでは、目標まではすごく遠いと思うな。

銭貨二枚のあの質のリンゴでは儲けなんか出ないのと一緒だ。

下手をすれば一日経っても一個も売れなくて無駄足になる日もあるだろう。


そんな事を考えていると料理が来たようだ。


「はい、おまたせ!今日のオススメの「イノシシのサイコロステーキ」だぜ!」


威勢のいい店員の声でそちらに振り返る。


「「おおー!」」


俺達は同時に声を上げた。

匂いからして美味そうだ。

この匂いはニンニクだな。

期待が出来そうだ。


「寝かせてから今朝捌いたばっかりだから美味いぞ!あとは「黒パン」と「野菜のスープ」だ。お嬢ちゃんのはサービスで大盛な!」


店員が料理をカウンターに並べて行く。


【ありがとう、美味そうだ。】


「あわわ、ステーキなんて初めてなのですー!」


アリスの涎が決壊しそうだ・・・温かいうちに食べよう。

料理を持ってきた店員に多めに代金を支払う。


「ん?若旦那、多いですぜ?」


そう言って来たが、ここはね。


【チップと思ってとっておいてくれるかい?気持ちの良いサービスをありがとう。貴方のおかげで昼飯は美味しく食べられそうだ。】


「良いんですかい?」


そう言っていたが、念を押してお礼だよと言うと気持ち良く受け取ってくれた。


「まいど!ごゆっくりー!」


さあ!

食べよう!


【いただきます。】


「いただきます?なのですか?」


【ああ、これは俺の故郷で「大地などのお恵みに感謝して食事をします。神様、毎日の糧をありがとうございます。」って言う事なんだ。】


「ほへー、神殿のお祈りみたいなのですー。」


そう言えば神殿もあるんだっけか。

『アリステリア』様が困ったら来いって言ってたから、困った事が出来たら行ってみよう。


【とりあえず食べよう。】


「はい!いただきますなのですー!」


真似されてしまった、なんかくすぐったいな。

まあいい、暖かいうちに食おう!


【ほう、ニンニクが良い感じに効いてて美味いね!】


「美味しいのですー!」


猪の肉は初めて食べたけど処理が良いのか、あまり臭みが無くニンニクのパンチが効いていて美味かった。

いいぞ、いいぞ、次は黒パンとやらだ。


【固ぁっ!?】


「ゴリゴリなのです!」


周りをチラチラ見ていると、黒パンをスープに浸して食べているのが分かった。

黒パンをスープにつけて柔らかくして食べるのかな?


【はっは、でも柔らかくする方法を見つけたぞー。】


「どうするのですかー?」


【こうするんだー!】


「ベチャベチャなのです!」


【つけ過ぎだな、アリス君!】


「むー、私は女の子なのです!」


【はっは、いいぞいいぞ!】


「凄く美味しいのですー!」


【美味しいね、特に肉が美味い。熟成させていたからか?】


「お肉さんも寝るのですか?」


【寝かすの意味が違うんだがな!】


「むー、難しいのです!」


次はスープだ!


【塩味だけか?】


「暖かくて美味しいのです!」


【出汁があれば美味くなると思うんだよな・・・。】


「出汁なのですかー?」


【そうそう、昆布とかさ・・・。】


前世での食事が、いかに贅沢だったか分かるね。

めったに食べない御馳走だからなのかアリスのほっぺたがハムスターみたいになっている。


【良く噛んで食べるんだよ?】


「んぐんぐ、ふぁい。」


ほっぺたを突っつきたい衝動にかられながらの昼食はとても穏やかで、そして美味かった。

前世ではこんな事は記憶に無かった。

久しぶりに食べた『心温まる』食事だった。

こんなちょっとした事が凄く嬉しい。


アリスに感謝だな。


先に食べ終わってしまった。

思ったよりもお腹が空いていたのだろう。


【ごちそうさまでした。】


そう言って、まだモグモグしているアリスを見ている。


【ふふ・・・良い顔をしている。】


アリスを見て自然に微笑んでいる自分がいる。

ゆったりした時間が流れているのが心地良い。

こういう時間は貴重だよね。

前世では感じられなかったなぁ。


「んぐっ・・・んぐっ・・・。」


十分程遅れてアリスが食べ終わる。

口の周りが肉汁だらけだったのでさっき買ったハンカチで拭いてあげる。


「ありがとうなのです!」


アリスは大満足だったらしい。


「ぷはー!美味しかったのですー!」


最後にお水を飲みほして、そう言ってニッコリと笑顔を作る。

この笑顔に勝るものは無いよね。


しかし、あの大盛がこの子の小さなお腹に入ってしまった。

凄く不思議!?


食事が済むと店員に挨拶する。


【御馳走様、美味しかったよ。】


そう言ってアリスと店を出る。


「また寄ってくだせえよ!」


【ああ、またこの子と来るよ!】


「ありがとうございやしたー!」


と、威勢の良い返事が聞こえた。

二人で通りに出るとアリスが興奮気味にお礼を言って来る。


「お昼ご飯なんて贅沢をしたから、今日は頑張らないとなのです!ヘファ様、ありがとうございました!」


ふんす!

と、鼻息でも聞こえそうな気合いの入れ方だった。

俺にも少しは心を開いてくれたのかな?

話し方からだんだんと緊張と共に丁寧さが消えてきた。


【昼飯は贅沢なのかい?】


そう聞いてみる。


「食べるのは、貴族様とかお金持ちの人達だけなのですよー!」


ほう、そういう物なんだ。


さて、お別れなのだが凄く後ろ髪を引かれる感じがする。

ここでアリスと別れるのが寂しいと思う自分がいる。

そう、折角出来た初めての『縁』だしね。


この子は信頼できるので頼み事をしてみても良いな。

丁度良いのでアリスに手伝ってもらおう。


【さて、アリスさんや、提案があるのだがね。】


「提案てなんですかー?」


【提案と言うのはだね、良い考えがあるのだけど、どうかなって事。】


「良い考え?なのですかー?」


うんうんと肯きながら話を続ける。


【アリスは物売りを続けるの?】


「はい、それしか出来ないのです・・・。」


彼女は肯定するがしょんぼりとしている。

この歳の子がしょんぼりするのは俺の心が『もやもや』するね。


【えっとね。もうちょっと儲かる事をしないかなー?っていう考えがあるんだけれど。】


「儲かるのですかー!」


彼女の目が輝いて見えた。

俺も大概だけれど変なヤツに騙されるなよ?

と、心配になる。


【もちろん、最初は頑張らないと駄目だけれどね。良かったら、俺と一緒に商売をしないかい?】


「一緒なのです?ヘファ様と?」


【そう、一緒にね。後、「()」じゃなくて良いよ。】


「分かったのですー!ヘファさん!」


素直でよろしい。

なんとか「()()」に落ち着いてくれたようだ。

こんな子供から「様」付けなんてくすぐったいしね。


「何をするのですかー?」


【危ない事はしないよ?俺の作ったアイテムを売るのさ。】


アリスは驚いているようだ。


「ヘファさんはアイテムを作れるのですかー!?」


【鍛冶の仕事だけじゃなく、薬なんかも作れると思う。】


「すごいのですー!」


キラキラした目で俺を見上げて来る。

はっはっは、もっと称えたまえ、アリス君。


だが、確かめた事も無いチートスキル頼りの言葉、使えるかどうか分からない。

実験しておけば良かったと後悔する。

そう、だがこの出会いは『アリステリア』様の言っていた『縁』なのだ。

「縁」を大切にと言う事は過剰すぎるスキルはこう使うのが正解だろう。


この世界に来てからの初めての縁なのだ。


【アリス、手伝ってくれないかい?】


「・・・。」


アリスが俯く。


【アリス?】


「せっかくなのですが駄目なのです・・・。」


暗くなった顔で言う。


【どうしてだい?】


視線を合わせる為に屈み、笑顔で聞く。


「実は・・・。」


アリスの話では他にも同じ境遇の子が他に四人いて、五人でグループを作って商売をやっているらしい。

良くある事らしく、神殿が引き取って働かせるという事はあるようだが、十二歳になった頃に、商人等に奉公に出されるらしい。

奉公と言っても十二歳から十五歳までの成人年齢になるまでは無給なんだそうだ。

ただし、衣食住は一応保証されている。


場合によっては、怪しいお店に連れていかれる事もあるらしい。


「大人は怖いのです・・・特に貴族様は怖いのです。」


奉公先がまともな所ならば良いが、奴隷同然の扱いをされる場合が多いらしく十二歳になったら仕事を求めてほとんどの人が施設の外に出て行くらしい。

成人年齢が十五歳からなので未成年が働くのはとても大変なのだとか。

給料は支払われず残飯が出ればいい方だとか、胸糞の悪くなるような話だった。


「それなので頑張って果物を売っているのです!」


アリスは今は八歳だが七歳からこういう生活を送って来ているらしい。

聞いてみると、仲良くしているグループの子達が四人共神殿を出て行くので頼み込んでついて来たのだそうだ。

こんな子供が・・・。


「皆と一緒が良いのです!」


俺は両親もいたし、平和な日本の家庭で生まれたのでこんな事は思いもよらなかった。

淡白な両親は仕事人で旅行等で外出する事も無かったし、家族旅行なんて一度しか無かった。

物心ついた頃から食事は一人だったし、誕生日なんかも祝ったりして貰え無かったが、アリスの状況を思うと十分に幸せだろう。


「皆も頑張っているのです!」


だからなのか、こんな話を聞いた後じゃあ、俺の中の「もやもや」した物が消えない。

これは解消しないとぐっすりと眠れないよね。


【アリスの話だと五人の保護者はいるのかな?】


「保護者なのです?」


【うん、そうだね。例えば守ってくれる人とかの事だね。】


「それなら、ルイスちゃんがいるのです!ルイスちゃんは凄いのですよ!字も書けるのです。」


アリスは自分の事のように胸を張って言う。


【じゃあ相談なんだけど、その子達にも手伝ってもらうっていうのは駄目かな?】


俺はこの子達が、どんな扱いを受けても大丈夫なようにするのが良いと思った。

他人から見れば偽善だけどやらないではおけなかった。


「ルイスちゃんに聞いてみないと分からないのです。」


【なら、ルイスちゃんとお話をさせてもらえないかな?】


アリスはしばらく考えていたが、纏まったのか大きく肯いた。

どうやら、ルイスちゃんと会わせてくれるらしい。


「この時間なら「東通り」にいると思うのです。」


そこは歩きで二十分ぐらいらしい。


【そっか、じゃあ、お話に行こうか。】


「はいなのです!」


アリスが元気に返事をする。


【アリス、案内よろしくね。】


「任せて下さいなのです!」


もう一度、元気の良い返事が返ってきた。


アリスの目の陰りは消えていた。

この空のように澄み切った晴れた色をしている。

俺がこの目の光を守れる希望になれればいいやと思いつつ目的地へ向かう。


さてと、ルイスちゃんとやらと交渉だね。

俺も気合いを入れなきゃな。


腹ごなしに歩くには丁度いい時間だった。

ここまで読んで下さってありがとうございます。

まだまだ続きますのでお楽しみください。

よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
【】表記は自分もちょっと読み辛い…というより違和感を感じます。 例えば『スターウォーズでダースベーダーのあの特殊な声を文で表す』といった理由ならカッコの表記を変えて表すのも十分に分かりますが、同じよう…
主人公のセリフは、この先も【】表記なんですかね? 理由があるならいいですが、正直とても読みづらい。
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