「縁」は大切にしないとね
続きです。
中身おっさんの冒険?をお楽しみください。
アリスの案内のもと、二人で「北通り」を歩いて行く。
「着きました、ここのお勧めは安くて美味しいと評判なのです。毎日仕入れる物によって変わるので楽しみにしてほしいのです!」
アリスに教えてもらったお店は宿屋兼食堂といった感じの所だった。
一階が昼は食堂で夜は酒場になるのだろう。
二階から上は宿屋の各部屋になっているらしい。
夜は酔っ払いが騒がしそうだ。
「北通りは宿屋が多いのです。」
【そうなんだね。】
扉を開け店に入ると男性店員が近づいて来た。
お昼時なので込み合っているが、カウンター席ならば空いているとの事だったので二席頼んだ。
席に案内され、座ると早速店員が声をかけて来る。
「ご注文はお決まりですかい?」
【そうだね・・・何かおススメはあるかい?】
「今日のオススメはイノシシのサイコロステーキで、定食だと銅貨二枚ですぜ!」
爽やかな笑顔で進めてくる。
店員に注文する。
【じゃあ、その今日のオススメを定食で二人分頼む。】
「若旦那、そっちのお嬢ちゃんも食べるんで?」
【そうだが、何か問題が?】
「いえいえ、小さい子がそんなに細っこい腕をしているんでね、うちのボリュームのある物で腹いっぱいになって下さいよ!」
【それはありがたいな。】
アリスの格好を見て昼を食べるのか疑問に思っていたのだろうか?
と、考えてしまったが人の良い店員で良かった。
【それでは頼むよ。】
「はーい!オススメ定二丁ー!一つは大盛、サービスで!!」
気の利く店員だ。
注文が済んだ所で話始める。
【改めて、俺は『ヘファイストス』鍛冶師だけど行商をしている。よろしくね。そうだ『ヘファ』って呼んでね。長いから。】
「『アリス』と言います。物売りをしています。こちらこそよろしくなのです!」
うん。
礼儀正しい子だね。
さてと、食事が来るまでに色々と聞いてみるかな。
まずは地図だな。
街や世界地図の情報は喉から手が出るほどほしい。
俺はアリスに街の地図や世界地図があるかどうか聞いてみた。
「南通りに『冒険者ギルド』があるのでそこで買う事が出来るみたいなのです。」
ほほう、冒険者ギルド。
これもゲームには無かったね。
更に聞いてみるとアリスは、ギルドの事はギルドの受付で詳しく聞いた方が良いとの返事だった。
そうか、冒険者ギルドがあるなら・・・。
【もしかして鍛冶師ギルドとかもあるのかな?】
「鍛冶師や裁縫師さん達は『商業ギルド』で統一しているみたいなのです、東通りにあるのです。」
ほー、俺が入るなら商業ギルドかな。
モンスター退治なんて怖いから嫌だしね。
「後は北通りに『魔法ギルド』があるの・・・ます。」
魔法ギルドか、魔法には興味があるのでいつか行ってみたいな。
「今は素材が高くなっているらしいので、森で取れる「夜光キノコ」とかが高く売れるらしいのです。」
ほう、ゲームの時の希少素材にたしかそんなキノコがあったな。
ん?
と、言う事はアリスも商業ギルドに入っているのかな?
【アリスも商業ギルドに入ってるの?】
「いえ、私は・・・。」
ああ、そうか未成年か!
迂闊だった。
これは地雷を踏んでしまったか?
【ああ、ごめんね、言いにくかったかな?】
「いいえ、大丈夫なのです。未成年なので登録が出来ないのです。後は登録料が銀貨三枚必要なので・・・。」
俯いてアリスはそう答える。
無理に敬語を使っている様なので普通に話してねと言っておく。
年齢の事は思った通りだった、『アリステリア様』が成人年齢十五歳って言ってたしね。
ギルドの登録に銀貨三枚必要なのか、それをストリートで稼いでいると・・・。
うーん、聞いた感じでは、目標まではすごく遠いと思うな。
銭貨二枚のあの質のリンゴでは儲けなんか出ないのと一緒だ。
下手をすれば一日経っても一個も売れなくて無駄足になる日もあるだろう。
そんな事を考えていると料理が来たようだ。
「はい、おまたせ!今日のオススメの「イノシシのサイコロステーキ」だぜ!」
威勢のいい店員の声でそちらに振り返る。
「「おおー!」」
俺達は同時に声を上げた。
匂いからして美味そうだ。
「寝かせてから今朝捌いたばっかりだから美味いぞ!あとは「黒パン」と「野菜のスープ」だ。お嬢ちゃんのはサービスで大盛な!」
店員が料理をカウンターに並べて行く。
【ありがとう、本当に美味そうだ。】
「あわわ、ステーキなんて初めてなのですー!」
アリスの涎が決壊しそうだ・・・温かいうちに食べよう。
料理を持ってきた店員に多めに代金を支払う。
「若旦那、多いですぜ?」
そう言って来たが、ここはね。
【チップと思ってとっておいてくれるかい?気持ちの良いサービスをありがとう、貴方のおかげで昼御飯は美味しく食べられそうだ。】
「良いんですかい?」
そう言っていたが、念を押してお礼だよと言うと気持ち良く受け取ってくれた。
「まいど!ごゆっくりー!」
さあ!
食べよう!
【いただきます。】
「いただきます?ですか?」
【ああ、これは俺の故郷で「大地等のお恵みに感謝して食事をします。神様、毎日の糧をありがとうございます。」って言う事なんだ。】
「ほへー、神殿のお祈りみたいなのですー。」
そう言えば神殿もあるんだっけか。
『アリステリア様』が困ったら来いって言ってたから、困った事が出来たら行ってみよう。
【とりあえず食べよう。】
「はい!いただきますなのですー!」
真似されてしまった、なんかくすぐったいな。
まあいい食おう!
【ほう、ニンニクが良い感じに効いてて美味いね!】
「美味しいのですー!」
猪の肉は初めて食べたけどあまり臭みが無く、ニンニクのパンチが効いていて美味かった。
黒パンってマジで固くてゴリゴリするのね、初めて食べたよ。
前世の食パンが恋しいって、早くもホームシックか?
周りをチラチラ見ていると、黒パンをスープに浸して食べているのが分かった。
黒パンをスープにつけて柔らかくして食べるのかな?
黒パン文化の海外旅行に一度は行っておくべきだったね。
スープは塩味しかしなかったのが残念だった。
昆布とか鳥ガラ等から出汁を取る文化が無いのだろうか?
出汁があると美味しいのに。
前世での食事が、いかに贅沢だったか分かるね。
めったに食べない御馳走だからなのかアリスのほっぺたがハムスターみたいになっている。
【良く噛んで食べるんだよ?】
「んぐんぐ、ふぁい。」
ほっぺたを突っつきたい衝動にかられながらの昼食はとても穏やかでそして美味かった。
前世ではこんな事は記憶に無かった。
久しぶりに食べた『心温まる』食事だった。
こんなちょっとした事が凄く嬉しい。
アリスに感謝だな。
娘がいたらこんな感じなのかな。
あれ?
今更父性でも目覚めたのだろうか?
でも、今の俺は十五歳なんだよね。
あ、しまった。
先に食べ終わってしまった。
思ったよりもお腹が空いていたのだろう。
【ごちそうさまでした。】
そう言って、まだモグモグしているアリスを見ている。
自然に微笑んでいる自分がいる。
ゆったりした時間が流れているのが心地良い。
こういう時間は貴重だよね。
前世では感じられなかったなぁ。
十分程遅れてアリスが食べ終わる。
口の周りが肉汁だらけだったのでさっき買ったハンカチで拭いてあげる。
「ありがとうなのです!」
アリスは大満足だったらしい。
最後にお水を飲みほして・・・。
「ぷはー!美味しかったのですー!」
そう言ってニッコリと笑顔を作る。
この笑顔に勝るものは無いよね。
しかし、あの大盛がこの子の小さなお腹に入ってしまった。
凄く不思議!?
食事が済むと店員に挨拶する。
【御馳走様、美味しかったよ。】
そう言ってアリスと店を出る。
「また寄ってくだせえよ!」
と、威勢の良い返事が聞こえた。
二人で通りに出るとアリスが興奮気味にお礼を言って来る。
「御昼御飯なんて贅沢をしたから、今日は頑張らないとなのです!ヘファ様、ありがとうございました!」
ふんす!
と、鼻息でも聞こえそうな気合いの入れ方だった。
俺にも少しは心を開いてくれたのかな?
話し方からだんだんと緊張と共に丁寧さが消えてきた。
【御昼御飯は贅沢なのかい?】
そう聞いてみる。
「食べるのは、貴族様とかお金持ちの人達だけなのですよー!」
ほう、そういう物なんだ。
さて、お別れなのだが凄く後ろ髪を引かれる感じがする。
ここでアリスと別れるのが寂しいと思う自分がいる。
そう、折角出来た初めての『縁』だしね。
丁度良いのでアリスに相談して手伝ってもらおう。
【さて、アリス君、提案があるのだがね。】
「もう、私は女の子なのです!それで、提案てなんですかー?」
ぐぬぬ、この言い回しはダメだったか?
まあ中身おっさんだしね。
勘弁してもらおう。
【提案と言うのはだね、良い考えがあるのだけど、どうかなって事。】
「良い考え?なのですかー?」
うんうんと肯きながら話を続ける。
【アリスは物売りを続けるの?】
「はい、それしか出来ないのです・・・。」
彼女は肯定するがしょんぼりとしている。
この歳の子がしょんぼりするのは俺の心が『もやもや』するね。
【えっとね。もうちょっと儲かる事をしないかなー?っていう考えがあるんだけれど。】
「儲かるのですかー!」
彼女の目が輝いて見えた。
俺も大概だけれど変なヤツに騙されるなよ?
と、心配になる。
【もちろん、最初は頑張らないと駄目だけれどね。良かったら、俺と一緒に商売をしないかい?】
「一緒なのです?ヘファ様と?」
【そう、一緒にね。後ね「様」じゃなくて良いよ。】
「分かったのですー!ヘファさん!」
素直でよろしい。
なんとか「さん」に落ち着いてくれたようだ。
こんな子供から「様」付けなんてくすぐったいしね。
「何をするのですかー?」
【危ない事はしないよ?俺の作ったアイテムを売るのさ。】
アリスは驚いているようだ。
「ヘファさんはアイテムを作れるのですかー!?」
【うん、武器や防具、はてはポーションまで作れるんだ。】
「すごいのですー!」
キラキラした目で俺を見上げて来る。
だがチートスキル頼りの言葉、使えるかどうか分からない。
実験しておけば良かったと後悔する。
そう、だがこの出会いは『アリステリア様』の御慈悲なのだ。
「縁」を大切にと言う事は過剰すぎるスキルはこう使うのが正解だろう。
この世界に来てからの折角の「縁」なのだ。
【アリス、手伝ってくれないかい?】
「・・・。」
アリスが俯く。
【アリス?】
「せっかくなのですが駄目なのです・・・。」
暗くなった顔で言う。
【どうしてだい?】
視線を合わせる為に屈み、笑顔で聞く。
「実は・・・。」
アリスの話では他にも同じ境遇の子が四人いて、五人でグループを作って商売をやっているらしい。
良くある事らしく、神殿が引き取って働かせるという事はあるようだが、十二歳になった頃に、商人等に奉公に出されるらしい。
奉公と言っても十二歳から十五歳までの成人年齢になるまでは無給なんだそうだ。
正し、衣食住は一応保証されている。
場合によっては、怪しいお店に連れていかれる事もあるらしい。
奉公先が幸せな所ならば良いが、奴隷同然の扱いをされる場合が多いらしく十二歳になったら仕事を求めてほとんどの人が施設の外に出て行くらしい。
成人年齢が十五歳からなので未成年が働くのはとても大変なのだとか。
給料は支払われず残飯が出ればいい方だとか、胸糞の悪くなるような話だった。
それが嫌ならストリートで生きていくしか無いとの事だ。
ストリートではそれこそ「採取」した物を売って生活をするしか無いのだろう。
住んでいる所も木枠で作られた家らしき所で、雨が降れば雨漏りのしない所で体を寄せ合って過ごすらしい。
冬には凍死者や餓死者がたくさん出るようだ。
アリスは今は八歳だが七歳からこういう生活を送って来ているらしい。
聞いてみると、グループの子達が四人共神殿を出て行くので頼み込んでついて来たらしい。
そうなのだ。
アリス達にとっては『日常』であり『現実』だったのだ。
俺は両親もいたし、平和な日本の家庭で生まれたのでこんな事は思いもよらなかった。
淡白な両親は仕事人で旅行等で外出する事も無かったし、家族旅行なんて一度しか無かった。
物心ついた頃から食事は一人だったし、誕生日なんかも祝ったりして貰え無かったが、アリスの状況を思うと十分に幸せだろう。
だからなのか、こんな話を聞いた後じゃあ、俺の中の『もやもや』した物が消えない。
この『もやもや』は解消しないとぐっすりと眠れないよね。
【アリスの話だと五人の保護者はいるのかな?】
「保護者なのです?」
【うん、そうだね。例えば守ってくれる人とかの事だね。】
「ルイスちゃんがいるのです!ルイスちゃんは凄いのですよ!字も書けるのです。」
アリスは自分の事のように胸を張って言う。
【じゃあ相談なんだけど、その子達にも手伝ってもらうっていうのは駄目かな?】
俺はこの子達がどんな扱いを受けても大丈夫なようにするのが「もやもや」を消すのに良いと思った。
他人から見れば偽善だけどやらないではおけなかった。
「ルイスちゃんに聞いてみないと分からないのです。」
【なら、ルイスちゃんにお話をさせてもらえないかな?】
アリスはしばらく考えていたが纏まったのか大きく肯いた。
どうやら、ルイスちゃんと会わせてくれるらしい。
「この時間なら「東通り」にいると思うのです。」
そこは歩きで二十分ぐらいらしい。
【そっか、じゃあ、お話に行こうか。】
「はいなのです!」
アリスが元気に返事をする。
【アリス、案内よろしくね。】
「任せて下さいなのです!」
もう一度、元気の良い返事が返ってきた。
アリスの目の陰りは消えていた。
この空のように澄み切った晴れた色をしている。
俺がこの目の光を守れる希望になれればいいやと思いつつ目的地へ向かう。
さてと、ルイスちゃんとやらと交渉だね。
俺も気合いを入れなきゃな。
腹ごなしにお散歩って感じだけれども、上を見ると太陽は真上より少し傾いただけだった。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
まだまだ続きますのでお楽しみください。
よろしくお願いします。