無い物が「無い」と呼ばれる国
皆様、新しい物語が綴られました。
お楽しみ頂ければ幸いでございます。
それでは、お楽しみください。
蘭さん達の案内で工場に着くと早速準備をする。
不思議な事に三人とも工場までついて来た。
まあ、後ろの二人は蘭さんの護衛と世話人であろう。
鍛冶の装備を借りて、着替える部屋を拝借する。
いつもの鍛冶スタイルになる。
・・・これギルドのとは違う。
最高級品だ。
【さてと・・・おぉ!?】
部屋から出て、周りを見回すと炉や金床が素晴らしい光沢を放っていた。
この魔導炉・・・最新型じゃないか!
ミシンもあるし、これは革を縫うのにも対応した最新型じゃないか、これは凄い。
最新の鍛冶道具に研磨機などの工具も見た事が無い。
そうそうたる最新の設備らしき物がこれでもかというぐらいに並んでいる。
これだけの設備、一体いくら持ってれば整うのだろうか?
本当に「無い物が無い」と言われる国だな。
武者震いがする。
熱気が籠る・・・そう、ここは俺の戦場。
そう、ここからだ。
これは俺だけの、為に整えてくれたのだろうか?
・・・傲慢な考えを捨てよう。
ジン殿とは、そこまでの間柄ではないはずだ。
それに何故に末娘と言っていた蘭さんを案内にしたのだろうか?
俺に期待してくれているのであろうか?
それならば喜ばしい事だ。
素材を出しテーブルの上に並べる。
久しぶりの本業だ。
耐熱手袋に改めて手を通す。
遮光具も身に着けると耐火エプロンも身につける。
いつもの調子を取り戻すように、手を握るとハンマーを取り出す。
さあ・・・俺の領域だ!
まずは牙や歯の処理からだ。
最新式のアダマンタイト製の鋸で形を整えて行く。
80cm程の長さなので、この大きさならばロングソードが一本、ショートソードが二本作れるだろう。
牙を三等分にしてイメージを固めると、さっそく切断の作業へと移る。
予想通りの大きさに斬れたので研磨する事にする。
研磨機を使い、その牙を剣の形へと削っていく。
削っているのだが、流石ドラゴンの牙。
硬度が高い。
多分だが、この研磨機もアダマンタイト製なのだろう。
研磨機の方は最適化もされていないので、作業効率が悪い。
それでも少しずつでも削って行く。
段々と多く削れてきた。
最適化をして来たのかな?
段々と作業効率が上がって行く。
成竜の牙を削って一本のロングソードと二本のショートソードを作成していく。
「・・・おぉ、見事な。しかも早い。」
女媧と名乗った女性が言葉を漏らす。
何故だか分からないが、その作業をじっと見つめる目が三対。
見張られているのかな?
いやいや、初対面の人達だぞ?
考えすぎだ、ヘファイストス。
冷静になれ、お前は出来るんだ。
ただそれだけを、お前だけに出来る事をやっていけ!
集中しろ!
鍛冶場と、道具と一体になれ!
雑音が無くなると一心に作業を行う。
余っている部分の骨から、鍔や柄を作成し、取り付け、ロングソードとショートソードを作り上げる。
そう、これで良い。
ミスリルよりも軽い物が出来た。
後は装飾を施せばいいだろう。
練成はどうしたかだって?
骨や魔物から作る魔剣は効果がランダムで付くから練成は出来ないんだよ。
これも運なんだよね。
今日の俺の運勢はいかに・・・。
練成は魂の金床が無いと出来ないしね。
流石に魂の金床は無かった。
あれは特別品だからな。
あったらあったで、逆に怖い。
でもゲームの時は家に設置できたからな。
いやいや、現世ではガーゴイルだけの秘匿なのかもしれないしね。
と、呟く声が聞こえる。
『作業する事だけに集中していらっしゃるのですね。先程とはまるで別人のように・・・。』
『その様でございますね、御嬢様・・・。』
『しかし、過酷な仕事でございますな・・・。』
三人共この工場にいて、俺の作業を見つめている。
体験していなければ、この工場の中には長時間はいられないはずだ。
・・・作業を続けよう。
そしてドラゴンの牙から出来た剣を、磨き上げ、仕上げに砥石掛けする。
この砥石の作業は嫌いではない。
「武器」として生まれた物に、俺の手で新しい命を吹き込む事を実感できるからね。
うん、この剣も良い出来だ。
「・・・勉強はしたつもりでしたが、ここまでの物とは思っておりませんでした。」
「御嬢、汗がこんなに・・・隣室で涼まれるがよい。」
「御嬢様、冷えた飲み物を用意致します。」
「もう少し、見ておきたい。この方の本当の姿を。」
「無理はなさらないでください、御嬢。」
「御嬢様、少しでもよろしいので涼んでください。この部屋の道具を設置していた時とは温度が違いすぎます。」
「仕方がありません、私もそろそろ限界のようです。」
「では隣室から御覧になられてください。」
「分かりました、邪魔をする訳にはまいりません。大人しく勧めに従いましょう。」
女媧と呼ばれた武人の女の子が蘭さんを御姫様抱っこすると、愛琳さんも退出する。
女の子に無理をさせちゃったかな?
そう言えば、まだお話をしていないね。
これが終わったらお話をさせて頂こう。
今は作業に没頭するのみ。
そして竜の歯の作業に取り掛かる。
今度は槍の穂にするのである。
歯を加工をして、長さ十cm程の穂にしていく。
成竜の歯は多少の事では折れない程の強度がある。
硬度は鋼とミスリルの中間程のはずだ。
鑢掛けをした後に砥石掛けをする。
その穂、鎬、区を総称して穂先と呼ぶ物に加工して行く。
無論、中茎と呼ばれる部分も作る。
この中茎の部分と目釘で槍を柄に固定するのである。
直径三cmほどの太さの木製の柄に取り付ける。
竜の牙の長さがギリギリで中茎の部分が多少短くなったが問題はない。
後は短い歯を削って石突を作り柄にはめ込む。
長槍は三十本作れた。
余った部位で短槍も作った。
これで鍛冶スキルも最適化され始めたのだろう。
次は槌だ。
こちらは骨製なので軽く振るえるのが特徴だ。
だが、骨で出来た槌はあまり人気が無い。
何故かと言うと、「軽い」からである。
頑丈なだけなのだ。
問題があるとすればその軽さであろう。
槌は重さにて殺傷力が変わるので、ドラゴンの物とは言え不人気なのである。
今回は少なくても良いだろう。
槌は八本作れた。
前世では「ハンマーピック」と呼ばれる物だ。
牙の形が加工しやすいものだったのでこのハンマーをチョイスした。
武器を一通り作ると次は竜の革製品である。
ドラゴンの皮で作る外套などだ。
フロスト・ドラゴンの皮なので炎に強いと言う事が最大の売りである。
それに何と言ってもドラゴンの皮である。
レザーアーマーにしても軽くて頑丈で、高級品なのだが人気がある。
ただ、作るのには採寸が必要であろう。
一般的な物にするのもありだが、やはりオーダーメイドの品とでは比べようがない。
フィット感が違うからね。
それに多少の隙間が出る事によって、戦っている最中に集中力を乱しかねない。
少しの事だが、それ程の重要な物なのである。
今回は残念だが外套を作れるだけ作る事にした。
それでも十分であろう。
残った皮はそのままで売ってもらうのが良いかもね。
出来上がった武器を鑑定してプロパティーを鑑定書に起こす。
ふぅ、このぐらいかな?
鑑定スキルを起動。
鑑定書を作りサインをする。
エクスィ・スィデラスの第一席となってから初めてのサインだな。
これで名前も売れてくれればいいのだがね。
ふう、終わった。
あ!?
夢中になっていて忘れていた!
結構長い時間集中してしまった。
・・・ヤバイ、気付かなかったが八時間も経っている。
皆の事を放っておき過ぎた。
慌てて支度を整えていると蘭さん達がどうしたのかと聞きに来てくれた。
「ヘファイストス様、いかがなさいましたか?」
【ああ、妹達をかまってやれてなかったんです。あれから八時間も経っているんで、大丈夫かなと。】
「そちらは、お父様が相手をなさっているはずです。気になさらなくても大丈夫なはずですわ。」
「・・・これだけの武器を作るのに八時間しか経っていないほうが恐ろしいですぞ、ヘファイストス殿。」
「水分は取っていたようですが、お食事をなさいませ。」
グゥ~・・・
食事という言葉に俺の腹が鳴る。
目の前にハムサンドが置かれる。
ハムサンドか・・・ルイス、作れるようになったのかな?
目の前に出された思い出の物を頬張ると、蘭さんが話しかけて来る。
「ヘファイストス様は、どのようにして鍛冶師としての研鑽を積まれたのですか?」
【もっ・・・もっ・・・んぐっ、鍛冶は独自の物なのですよ。それなので師匠はいません。】
「御師匠様がいらっしゃらないのですか?」
【そうです、もっ・・・もぐ、それなので皆さんに話すと、とても驚かれます。】
「・・・これが、独学でございますか?」
【ええ、独学です。】
「「「・・・。」」」
【皆さんに、この事を話すと同じように無言になりますよ。】
「どれだけの研鑽を積めば・・・。」
「これで、その武具を使いこなす事が出来る程の、その個人の武とは・・・。」
「錬金や細工、その他の事もこなせるとは・・・。」
【良く御存じですね、皆さん。】
「御嬢様の、婿候補の事は調べさせて頂いております。」
【ごほっ!?む、婿候補!?】
危うくハムサンドを吐き出すところだった。
ジン殿、嫁候補とは聞いておりませんよ?
「左様でございます。やはり、お父様から御話は伺っておりませぬか?」
【初耳ですね、蘭さんはそれでいいんですか?】
「蘭と、御呼びくださいませ、ヘファイストス様。」
【いえいえ、そう言う訳には・・・。】
「蘭と、御呼びくださいませ。」
【初対面の相手を呼び捨てにするなど。】
「蘭と、御呼びください。」
圧が凄い。
【初対面で呼び捨てなどは出来ませんよ。】
「貴方様にはそう呼んで頂きたいのでございます。」
【ええとですね。】
「呼んで頂けなければ、こちらにも考えがありますの。」
【考え?】
「はい、お父様に貴方がたの持ち込み分を、安値で卸すようにお願い致しますわ。」
【ジン殿がそのような事を聞くような、器の小さい人物には思えないのですが?】
「・・・。」
【・・・。】
「では「蘭さん」と、御呼びいただけますでしょうか?」
【それならば結構です、蘭さん。】
「・・・必ず「蘭」と呼ばせて見せますわ。」
この子ちょっと強引で怖いね。
【では、蘭さん。嫁とは?】
「もちろん、貴方様の嫁の事で御間違いはないかと?」
【初耳でございますが?】
「左様ですわ、お父様にはかの者に認められたのならば自由にしなさいと言われておりますの。」
聞いておりませんよ、ジン殿。
【認められたらと言うのは・・・?】
「もちろん、貴方様に認められたらでございます。」
「おい、ヘファイストス。まさかとは思うが、御嬢が気に入らないとでも?」
【美しい方だと言うのは分かります。が、それ以上の事は・・・いささか強引な所しか分かりませんね。】
「・・・。」
「ヘファイストス様、御無礼の程、お許しくださいませ・・・御嬢様、少々急いているようです。」
「愛琳、貴様までそのような事を!」
「落ち着きなさい、女媧。そうですね、愛琳の言う通り、急いていたようです。」
「御嬢・・・。」
【はい、お互いを知るのに時間は必要であると、俺は考えております。】
「分かりました、では、私の事も知って頂きたいのです。」
【それは構いませんが、時間を頂けますか?】
「分かりました、作成されました武具を他の部屋に移しましょう。後程お父様に見て頂ければよろしいですわ。女媧、頼みます。」
「御任せください、御嬢。」
【では、その間に支度を整えますね。】
「先程の部屋をお使いください。」
「御案内を致します。」
【よろしくお願い致します。】
こうして無事に作成物を納めた。
皆は蘭さんの言うように、ジン殿がもてなして下さったようだ。
その日、皆でそろって食べる夕食はとても美味しかった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます!
まずは、いつものから!
評価、イイネ、ブックマーク等々。
皆様には感謝しかございません。
ノロノロ運転になったのは、ひとえに拙者の不徳の致すところでございます。
拙者のせいではありますが、物書きでお金を稼いでいる訳ではありません。
その為、これだけは言わせて頂きたい。
御仕事優先!
次の話も意欲作成中ですので少々お待ちください。
では、次話、「ジーナと「ルリア」」で、お会い致しましょう。
それでは、御疲れ様でした。




