確認は大事だよね?
本日3話目です。
転移した中身おっさんの活躍をご覧ください。
よろしくお願いいたします。
・・・意識が覚醒したのか雑踏が聞こえる。
【ん?】
目を開けると街の中、噴水の脇にある縁石に腰を下ろしていた。
キョロキョロと周りを確認する。
【転移が・・・成功したのかな?】
とりあえず座ったまま周りを観察する。
中世ヨーロッパ的な街並み。
あちこちに威勢の良い声がして、露店が所狭しと建っている。
そんな街・・・規模から言うと今、俺のいる所は街の中央に近い場所だろうか?
噴水のある広場、時間はまだ早い時間かも知れない。
確かめる為にちょっと歩いてみる。
なに、時間ならたっぷりあるさ。
そんな気持ちで歩く。
その古めかしいが、喧騒の賑やかさがある街は俺の心をワクワクさせる。
これが異世界・・・俺の新たなる生きて行く世界。
そう思うと、とても嬉しく思う。
もちろんだが不安もある、だがそれを上回るような高揚した気分がある。
さて、散歩の続きだ。
ものすごく活気がある。
ほうぼうの露店から、声が上がる。
「飯を食うだって?それならウチの肉串が一番だよ!寝かせた猪の良い所だ。一本銭貨三枚、そこの旦那、後悔はさせねえよ!」
「何を言ってやがる!この林檎が一個、銭貨五枚だって?どう見ても三枚の間違いじゃねえか?」
「旦那様、花はいかがですか?綺麗な所を摘んで来ました、銭貨一枚です、買って頂けませんか?」
「まいどありぃ!またのお越しを!お待たせしましたね、奥さん。ウチの野菜は朝、畑から摘んできたものだから、みずみずしいよ!」
ちょっと歩いただけでこの熱気、活気がある。
・・・羨ましいな。
ギルドのヤツらにも見せてやりたい。
皆で毎日遊んでいたゲーム、〖ウルトラ・オンライン〗の、俺達の世界はこんなに賑やかなんだぜ?
もう会えないだろう友にそんな言葉を投げかける。
もちろん返事はないが・・・。
周りを見渡し震える。
だがこれは恐怖の震えではない。
所謂、感動したからであろう。
俺の中の期待感が膨らむ。
北にある大通りから時計回りに歩く。
北側には野菜を積んだ荷車が目立ち、東は雑貨屋が多く見える。
南側からは金属を打つ音が聞こえ、西には初めて見る魔道具屋。
じっと見ていたが、何に使うのかもよく分からないな。
通りの奥を見ると、うっすらと城門らしき物まで見える。
中央には砦と言うか城がある。
貴族様でもいるのだろうか?
そして、行きかう人々の多さ。
行商人もいるし、売り子が賑やかさをさらに上げる。
そこには説明出来ない程の活気、人々の生活感があった。
これが・・・『アリステリア』様の創造した世界。
テンションが上がる!
ドンッ!
「おっと失礼したね。」
ガシッとその腕を掴む。
【君、その鞄の中身は大切な物が入っているんだ。盗まれる訳にはいかないよ?】
「っち!」
逃げようとする男の腕をちょっと力を入れて捻り上げる。
「ギャアアアァァァ!!!」
その悲鳴を聞きつけた鎧の人が二人、駆け寄って来る。
どうやらこの街の軍の兵隊らしい。
俺の説明で、その相手がスリだと分かると頭を下げて来る。
「御協力ありがとうございました!」
そう言って敬礼しその男を二人がかりで城の方へと連れて行った。
【っふ、一つの悪は滅んだぜ?】
っぷ、馬鹿だな。
何を余韻に浸っているのか。
だが、テンションの上がっている今の俺は止められないぜ?
そしてまた歩き出す。
元の場所に戻った俺は今度はじっくりと観察をする。
ベンチに腰掛け周りを見渡す。
その人々の様々な人種。
『アリステリア』様の言った通りだな。
比較的に人間とみられる人種が多かった気がする。
あの首輪をしている獣人は・・・。
「このウスノロが!荷物を運ぶ事すら出来ないのか?」
「す、済まねえ、御主人。」
・・・奴隷制があるのか。
怖いね、異世界。
通りの向こうを歩く大男に思わず目を奪われた。
身長は二メートル近い。
頭には後ろへ反る二本角。
背には大きな翼。
間違いなく、ガーゴイル族だろう。
「あっはっは、上手い事言うね。こんなババアを捕まえてお姉さんだって?」
「お姉さんの野菜は歯ごたえがあっていい。久しぶりに歯ごたえを感じたいんだ。」
見かけはゲームの通り、角の生えたウルト〇マンだな。
・・・美化はされていなかったか、残念。
本当に様々な人種がいる。
すげえ・・・だが・・・来たんだな。
【『アリステリア』様、ありがとうございます。無事に着いたみたいです。】
思いを込め祈る。
そう言えば・・・何で皆は俺を見ると土下座するんだ?
これも加護って奴か?
知らない人達から土下座させる加護。
『アリステリア』様の加護ってそんな事もさせるのか?
だが・・・俺は来たんだな。
そう、ついに憧れの世界に降り立ったのだ。
ん?
何だろうか?
体が青く光ったぞ?
体に害はない様だ。
原因は何だろうか?
宿屋を取ってからでも考えればいいだろう。
今はそれどころでは無い。
【さてさて、これからはどうするか?その前に、ここはどこだ?】
MMORPGである〖ウルトラ・オンライン〗に似た世界に転移したらしい。
その中の街の一つだろう。
改めて周りを見る。
【うへぁ~・・・。】
その光景に思わず感動する。
ゲームは長年やっていたので、それなりに知識だけはある。
おっと、身の上話はここまでとしよう。
せっかく憧れた世界に転移したので、いろいろやってみたい事もあるしね。
早速、異世界物の定番!
【ステータス、オープン!!!】
と、大声を出してみる。
通りを歩いている人が何事かと一斉にこちらを見る。
街中だと言う事を忘れて大声で叫んでしまった。
さすがにコレは恥ずかしい。
顔が赤くなるのが分かる。
だが『ステータス画面』が出た。
透明な板の様な物に淡い緑色の光で『ステータス』が表示されている。
こちらを見ている人達も何やってるんだあの人は?
的な顔をしてこちらを見ている。
ステータス画面は他の人には見えないのだろうか?
これも、追々調べて行こう。
それも醍醐味だよね!
・・・醍醐味だよね?
で、肝心なステータスはっと・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ヘファイストス(Hephaistos) 男 十五歳 :神格者
称号・加護 :異世界からの訪問者 :伝説の鍛冶師
:創造神の加護 :創造神の寵愛を受けし者
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ヒットポイント:9999/9999
スタミナ :9999/9999
マナポイント :9999/9999
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
STR :9999/9999
DEX :9999/9999
INT :9999/9999
LUK :9999/9999
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
うん、使っていたキャラの名前だ。
この世界では俺は「ヘファイストス」なんだな。
成程成程、えー次はっと・・・。
ん?
まてまて、神格者?
異世界からの訪問者!?
伝説の鍛冶師はゲームでも伝説の鍛冶師だったからそれは問題はない・・・はずだ。
創造神の加護は説明を受けた。
創造神の寵愛って、なんか嬉しいな。
あの女神様を思い出し、ニヤニヤしてしまう。
おっと、次っと。
あれ?
ステータスの数字が見た事も無い数字になっている。
…………へ?
も、もう一度。
ヒットポイント「9999」!?
ゲームのステータス総量のカンスト超えてるやん!?
マナも、スタミナも・・・!?
STRやINT等もか・・・。
しかもLUKって運か?
運なのか?
これ、ゲームだと下手なボスモンスターより高いステータスだぞ?
オイオイ、『アリステリア』様、これはやりすぎではないだろうか?
もしこれがバレたら「魔物を退治」してくれとか、「ボスを退治」してくれとか無理難題を言われそうだ。
……これじゃあチートじゃないか。
でも、強い分には助かるからいいのかな?
いやいや、まだ始まったばかりだ。
前向きに行こう。
次の問題はスキルだ。
スキル画面を見る。
ほう、剣術スキルが1000か。
…………。
心を落ち着かせる為に一回深呼吸した。
再度そのステータス表示を見る。
【いやいやいや。】
1000だと!?
桁が一つ違うような気がする。
慌ててスキルの情報を見る。
すべてのスキルが、「1000/1000」でカンストしている。
俺の知っているゲームでは上限は特別なアイテムを使わない限り100だったはずだ。
【何で1000なのさ!?】
さすがに盛りすぎですよ、『アリステリア』様。
ガックリと地面に両膝を付く。
これは隠した方が良い情報なのではないのだろうか。
何故ならば俺はリアルでは喧嘩等を一度もした事が無いからだ。
だって怖いじゃない?
身体作りの為に小学校の六年間を空手に行ってたぐらいにひ弱なんだぜ?
実戦式では無かったので『形』を覚えただけ。
その「形」も実戦では使えないしね。
それに痛いのは嫌だし、怖いのも嫌だし、安全が一番だよね。
しかもグロ耐性なんて無いからね。
ステータスに関しては、この世界がゲームだった頃は他人のステータスを見る時は「鑑定」スキルを使わなければ出来なかったはずなので大丈夫だろう。
不安になって来た……大丈夫だよね?
試しに通りに立ってこちらを見ている黒い装束のお姉さんを鑑定してみる。
【「鑑定」。】
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
桔梗 (Kikyou) 人間/女 十六歳:雷禪の隠密
ヒットポイント:54/54
スタミナ :81/81
マナポイント :28/28
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
STR :47
DEX :76
INT :28
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
スキル
:鑑定 81.6
:隠蔽 68.7
:隠密 63.4
:槍術 66.5
:毒物 65.9
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
おお、鑑定が出来た。
さすがに装備は見れないか?
いや、タグがあるな。
装備っと・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
頭 :夜盗のバンダナ
首 :疾風のマフラー
上半身:忍びの鎖帷子
腕 :忍びの腕当て
手 :忍びの手袋
下半身:忍びの袴
靴 :消音の足袋
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
見れるね。
コレはゲームと同じだな。
しかしなあ・・・この人、スキルが物騒なのばっかりだが、大丈夫なんだろうか?
装束で顔も見えないしね。
ふむふむ、成程ね。
鑑定に成功するとステータスやスキルと装備が表示されるようだ。
一般人だからか?
ステータスが低いような気がする。
・・・ん?
いやいや、ちょっと待て!
他人のステータスが見れるじゃんか?
と、言う事は俺のステータスも見られるじゃないか!?
うーん、他人から鑑定されるのは勘弁願いたいね。
まあ、何とかなるだろう。
諦めて前向きに考える事にした。
だって分からないんだもの。
さてっと、それでは俺の装備はどうだろうか?
ふむ、腰に黒い色をした「ダガー」が一本っと、腰に「バッグ」が一つ。
まあ初期装備なら、そんな物だよね。
バッグと言っても背中に背負う物ではない。
ベルトに通して付ける皮のポシェットの様な物だ。
それに、このベルトはポーション瓶をはめ込めるようにスロットが付いている。
次に中身を確認する。
『神匠のハンマー』と『無限のつるはし』鍛冶師のアイテムみたいなのだが・・・。
うん、見た事も聞いた事も無いアイテムが入っているね。
・・・詳しくは考えないようにした。
他にも、「鉄のインゴット」が1000個と「鋼のインゴット」が1000個、後は「動物の皮」が1000枚に「木の板」が1000枚か。
アイコン表示の様になっている。
意識をアイテムに集中させるとそのアイテムの名前と個数が『視える』。
しかし、鋼のインゴットが1000個?
俺の知る限りゲームでは、そのインゴットの色による属性抵抗値の属性補正の種類はあったが、鋼とかのインゴットとかでは無かったはずだ。
アレか?
お約束のミスリルとかがあるのか?
もしあれば一気にファンタジー感が出て来るな。
これも違いが気になるね。
このバッグの中の物はゲームと同じに『スタック』するのかもしれない。
しかも重量を感じない。
ゲームの時は重量制限があったのでコレはありがたすぎる!
まずは確かめてみよう。
皮に1000と書いてある。
試しに皮を一枚と思いながら取り出してみた。
おお、ちゃんと出てくるね。
バッグの方の表示が999になった。
バッグに入れると、スタックして1000に戻った。
うん、ゲーム通りで便利だ。
アイテムを出し入れする感じは某狸型ロボットのポケットみたいな感覚だ。
と、言う事は素材等はしばらくは心配いらないだろう。
ただ、問題が一つ。
例えば皮を手に入れるにはゲームと同じで動物を倒して皮を手に入れるのだろうか?
もしかして解体とかしないといけないのかな?
さっきも言ったけど、グロ耐性無いんだよね。
解体なんかもやった事すら無い。
ブルブル、怖い怖い・・・さて次に行こう。
子袋が二個ある。
こっちは何だろう?
一つ目の子袋を見てみると硬貨らしき物が入っている。
銅貨が1000枚と銀貨が100枚、金貨が10枚だ。
こっちの子袋にも貨幣の枚数の数字が見える。
この子袋もバッグと同じ仕組みなのだろうか?
出してみると表示が消えた。
どうやら違うようだ。
もう一つの子袋には「スペルブック」、「騎士の書」、「武士道の書」、「忍術の書」、「霊媒の書」、「神秘魔法の書」、「織成魔法の書」と、それぞれの魔法で使う「秘薬」が二十三種類が百個ずつ入っていた。
次は・・・秘薬か。
ゲームだと呪文を唱えるのにその魔法に必要な秘薬と「スペルブック」に書いてある呪文が必要だった。
『秘薬低減装備』は無いのだろうか?
低減率を100%にすると秘薬が無くても魔法が使える便利アイテムなんだけどな。
「スペルブック」には1th~10thまでの魔法が記入された『フル・スペルブック』だった。
魔法については今後にしよう。
落ち着いて調べないとね。
10thの魔法なんかを街中で使ったら大災害間違いなし。
魔王ルート一直線にはなりたくない・・・本当に気を付けよう。
確認してみると他の書物にも全部の魔法や技が記されていた。
騎士道の書には五段階の魔法。
武士道の書には五段階の技。
忍術の書には五段階の技。
霊媒の書には五段階の魔法。
神秘の書には五段階の魔法。
織成の書には五段階の魔法。
魔法や技はその対応するスクロールや技の巻物を本に書き写さないと使えないのだ。
俺の持っている物はそれを必要としない全ての技や呪文が書き込まれた本だったのだ。
ありがとうございます、『アリステリア』様。
まあ、魔法等は使用して後々確認してみよう。
そう言えば加護にストレージってあったよな?
このバッグの事だろうか?
もしそうなら、無くしたり盗まれたりしたら大変だ。
・・・詳しくは宿を取ってから調べよう。
今から検証するのが楽しみだ。
宿屋はどうするかな。
早速だが困った。
先程の貨幣の事を思い出す。
【うーむ、ゲームと違ってGPじゃないのか、価値が分からないな。】
とりあえず、この世界のシステムから勉強だな。
それに、このバッグ……どう考えても普通じゃない。
ゲームの時は背負うタイプの『バッグパック』で、アイテム数と重量制限があったはずだ。
このバッグ・・・これだけの資材や道具が入っているはずなのに、ほとんど重量を感じない。
明らかに変だ。
宿をとった時にでも詳しく検証してみよう。
今の最優先はお金の事だ。
基本は〖ウルトラ・オンライン〗と同じで良いとして、元プレイヤーとしては違いが気になる所だ。
未知の仕様を調べるのもゲームの醍醐味だったしね。
検証するのもワクワクしますな!
ここで一つ疑問が頭に浮かぶ。
そう、鍛冶場などの生産部屋と呼ばれる所だ。
ゲームでは『家』等に施設を作る事が出来たがこの世界ではどうなんだろうか?
公共の鍛冶場とかはあるのだろうか?
だったらまず鍛冶場の確認を・・・とか考えているとなんか周り中から視線を感じるんですが?
気になってしまったので何だろうと思って周りを見たら皆、俺の方を見てヒソヒソしている。
近くの人達が俺を見ているぞ?
なんだろうか?
行動が怪しかったか?
そういえば広場のど真ん中だったっけ?
服装は普通に黒のスーツなんだけどな・・・。
ん?
あれ?
ちょっと待って!!!
そう言えば……まさか!?
〖ウルトラ・オンライン〗ではこの黒のスーツは結婚式や式典の時だけに着ていたはずだ!
しかもこれは課金アイテムで超高級品だ。
前世で買った時も一着で5000円の課金をした物だ。
それに服の設定では大貴族様の為に仕立てられたって書いてあったはずだ。
まさか、この服のせいで……大貴族様とかと間違われているのか!?
散歩の時には土下座され、道を空けられる。
その恰好でステータスオープンとか大声で言って……奇行を繰り返し……。
これだ!
見られているのは、俺に違いない!
『アリステリア』様、迂闊ですよ。
いやいや、気付かずに馬鹿をやっていた俺のせいだ!
さすがにこれは目立つ!
俺は大貴族ではないんです!
急いで何とかしないと!
噴水がある所から離れ街を走り回る。
この場合は裁縫屋か?
何処にあるんだ!?
ぜーぜー、いや、チートのおかげで体は軽かったしスタミナも減って無いんだけどね。
お約束と言う事で。
街の中を色々探し回ったんだけどゲームと違って街の中だけで地図が必要だな。
そう言えば『地図作成』のスキルもあったな・・・。
ま、まあ後で地図を探して無かったら使おう。
だが、さすがリアル。⦅ニヤリ⦆
地図の一枚にしてもやりがいがあるぜ。
散歩の時に気付いたのだが、この街は城らしき建物を中心として東西南北にそれぞれ大通りがあるようだ。
街の形はほぼ円形で、それぞれの通りの先に門が設置してあり城壁が周りを囲んでいる感じだ。
南には港があり大型の帆船が泊まっているのが見える。
そして走り回って街の形を大体把握した辺りで、やっと裁縫屋を見つけた。
最初の噴水広場から南に向かうと、すぐだったのに色々と探してしまった。
何という事だ。
走り回ったので余計に目立ってしまった。
だって俺を見るとその辺の人は土下座するんだぜ!?
流石の超高額課金アイテム、『大貴族専用タキシード、シルクハット付き。パーソナルカラーは黒です!』
急いで一番近くの店のドアを開き入店する。
カランコローン~♪
ドアに鳴り物が付いていて音がした。
「これはこれは、ようこそ、いらっしゃいました旦那様。何かお探しの物はございますか?」
出迎える男性店員が目の前で跪いて入店した俺に挨拶をする。
丁寧に跪いている所悪いんだけど服!
服をくれないかな?
ああ、思考がまとまらないぞ!?
早歩きで男性店員の方に「ツカツカ」と音を立てて歩み寄る。
【普通の服を下さい。】
「え?」
慌てる男性店員を急かす様に両肩に手を当てて掴む。
そして揺する様にもう一度言う。
【普通の服を下さい!】
「あ、はい……かしこまりました?」
男性店員が俺の勢いに驚いている。
その様子を見て俺は少しクールダウンした。
勢い凄かっただろうな。
ごめんね、名前も知らない男性店員さん。
しかも、思わず「普通の服」と言ってしまった。
なんだよ普通の服って、もうちょっと言い方があるだろうに……。
と、髪を「わしわし」と梳いていると。
「お似合いの服なのによろしいのですか?」
そう聞かれる。
【ええ、普段着が欲しいので。】
「普段着……で、ございますか?」
男性店員は俺の恰好を見て上客とでも思ったのか色々と話をしてくれる。
どうやら今日は一の月十の日らしい。
寒い訳だ。
一の月、つまり元の世界の一月の事だろう。
一の月が寒いと言う事は前世と同じ季節の感覚かな。
一の日から五の日まで新年祭と言う祭りをやっていたそうだ。
この世界の人は一の月になると一歳年齢を取ると言う事らしい。
例えば十二の月に生まれても一の月が来れば一歳になるらしい。
一の月は誕生月に当たるので、裕福な家庭では子供にプレゼントが配られるらしい。
ふむふむ、やはり今は一の月なんだな。
そう言えばゲームの時は新年のアイテムとか貰ってたな。
おっほん、話を戻そうか。
ここ『ニュー・オーカム』の街は、雪はほとんど降らず冬でもそこまで寒くは無いとの事だ。
駆け出しの冒険者から中級の冒険者が集まる街らしい。
ニュー・オーカムか。
ゲームではなかった街の名前だな。
初心者の街っていう感じかな?
名前こそ違うが、ゲームの時は初心者さんや新規さんがお世話になっている街があったのだが「過疎化」していたので人は少なかった。
だが、窓の外を見ると所狭しと往来に人がいっぱいだ。
これらの人達とも交流を持てるのだろうか?
落ち着いた所で店内を見渡している。
あれは時計か?
確認すると十二針の時計だった。
今は十一時頃のようだ。
これも聞いてみるか?
お?
鏡もあるぞ!
流石の裁縫店!
服を売っているだけはある。
鏡の前に立ち、写る自分の姿を見る。
黒髪、黒目の自分が写っている。
うわー、マジで記憶にある十五歳ぐらいの俺だ。
身長は165cmといった所だろう。
この頃からあんまり身長が伸びなかったんだよね。
前世と違いもっと伸びるかもしれない。
・・・これからに期待だね。
サイズを合わせてもらって服を選ぶ。
「最近は寒いですから、こちらの様な物は如何ですか?」
男性店員がグイグイ勧めてくる。
女性店員さん達が一品ずつ持って俺の前に来る。
ううむ、俺は大貴族ではないんだけどね。
「いかがですか、ボウラの皮を使ったコートでございますよ。やはり・・・こちらもお似合いでございます。」
【……うん、凄く良いね。】
「次の服を持って来たまえ。」
「はい、店長。」
フード付きで防寒で防水の毛皮のコート、羽付き帽子、チュニック、マフラー、手袋、布が厚めの長袖シャツ、内側に毛皮の付いている長ズボン、靴下と防水の皮のブーツ、等々。
勧められるままに買う。
着てみると、良い仕立てなのが分かる。
良いね!
流石の店員さん。
ピッタリじゃないか!
それらを着た鏡に映った自分を見る。
うん、マシになったぞ。
これで土下座はされまい。
後はゲームの時のように「布」を買っておこう。
布はハサミで切る事で、バンデージにもなるし服も作れるからね。
拠点について落ち着いたら一通り自分で作ってみよう。
後は・・・念のために染料と染タブを買っておく。
これ以上いると余計な物まで買ってしまいそうだ。
いや、やらかしてしまった。
まあ、良いか。
とりあえずは……こんな所かな?
特別価格で、全部で銀貨十枚でとの事。
まあ、相場なんか分からないので言いなりなんだけどね。
うーん、お金の価値が分からんな、困った。
出迎えてくれた男性店員に聞いてみるかな?
【済みません、銅貨は何枚で銀貨になるんでしょうか?】
「え?」
「「「え!?」」」
【え?】
その何気ない質問のせいで俺に注目が集まる。
秒針だけがカチカチと音を鳴らす。
静かになった店内で、何故か気まずい空気が流れて来た。
「あ、あんな上等な服を着ていたのに、貴族様ではないのですか?まさかとは思いますが、お金が無いんですか!?」
男性店員がそう言うと店内の店員さん達の様子が変わる。
まあ言わんとしている事も分かる。
だって大貴族スタイルから一般人スタイルですよ?
そりゃあ疑うわ~。
俺だって疑う。
【いやいや、お金はある、ホラ!ホラ!】
と、言って取り出した金貨を見せる。
あからさまに安心した表情になった男性店員さんに、そんな事も知らないのかというような顔をされた。
ぐぬぬ、良いじゃんかよ教えてくれたってさー。
これ以上変な客だと思われるのも嫌だったので、この質問は保留だ!
着ていたスーツと靴はいつか使うかもしれないのでバックにしまっておく。
高級品だしね。
うーん、初めての買い物だったんだがなあ。
これだと得をしたのか損をしたのか分からんね。
お金の価値の確認が第一だなあ。
代金を支払い。
【ありがとう。】
そう言い残して店を出る。
「ありがとうございましたー。」
「「「ありがとうございましたー!」」」
男性店員さんや女性店員さん達から声が掛かる。
カランコローン~♪
ドアを開けて外に出るとヒューっと寒風が吹いている。
店の中は暖かかったんだな。
「あっはっは~逃げろ逃げろー!」
「待てー!捕まえてやるぞー!」
この寒さでも子供達は元気に走り回っていた。
……子供は風の子ってか?
元気だな。
歩きながら考える。
何度も思うがお金の確認は最優先だな。
無駄に使いたくないし、もしかしてだがボッタクられたりするのも気分の良い物ではない。
そうか、物価も知らないといけないな。
誰か教えてくれる人はいないだろうか?
そう思っていたのだが、肉の焼ける良い匂いがする。
昼時なので辺りには色々と、美味そうな匂いが漂っている。
ちょうど腹が減ってた所だ。
腹に何か入れよう。
露店の様子を見ると、交渉をしている様子があちらこちらで窺える。
右の露店から声が聞こえる。
「これなら銭貨三枚だよ」
「高いよ。この質を見てみろ!どう考えても銭貨二枚だろう?」
周りでそんなやり取りが聞こえて来る。
ほうほう……成程成程、基本値切るのか。
値切らなかったが、さっき買った服は適正な値段だったのだろうか?
心配になるが買ってしまった物なのでしょうがない。
実際、値切った事なんか無いからね。
前世での二十%引きの焼き鳥とかあった事を思い出す。
懐かしいな。
しかし『銭貨』は聞いた事が無いな?
とか思っていると左側の露店から威勢の良い声が聞こえる。
「らっしゃい、らっしゃいよぉー!焼きたての肉串、一本銭貨三枚だよー!」
肉串とは焼き鳥みたいな物の事かな?
昼時の御腹様に匂いが響く。
腹が減っているし試しに買ってみるか。
銭貨とやらの価値を実感させてもらおう。
初めての値切りにちょっと緊張する。
【店主、肉串を二本くれるかな?】
「あいよ!銭貨六枚だよー。」
愛想の良い店主とやり取りをする。
【それなら、四本買うのでオマケしてくれないかな?】
「ならオマケして銭貨十一枚にするぜ、あんちゃん。」
【銭貨十枚にならないかな?】
初の値切り、銭貨の価値は分からないけれどもこのぐらいでどうだろうか?
「くっそ!負けたぜ、兄ちゃん、もってけ泥棒!」
してやられたぜ!
と、言う店主の視線を感じながら。
【支払いは銅貨からで大丈夫かな?】
と、店主に確認をする。
「ああん?おまけして銭貨十枚だ、それなら銅貨一枚だろう?」
ふむ、成程ね。
【そうでしたね、では銅貨一枚で。】
肉串が入った紙袋を受け取り銅貨を一枚渡す。
「まいどありー、また来てくれよ!」
威勢の良い声で挨拶が帰って来る。
【ありがとう!】
そう言って露店を後にする。
銭貨十枚で銅貨一枚らしい。
ふむ。
肉串を食べ歩きながら考える。
【モグモグ……焼き鳥だなこれ、ちなみに俺は『タレ派』なんだよね。】
残念ながら塩味しかなかった。
しかも薄い。
塩等の調味料は貴重なのかな?
まあ良い。
追々調べれば良いか。
これで銭貨と銅貨の価値は分かったしね。
金貨があるんだし他のお金の価値も気になるな。
一つは確認出来たがお金の価値の謎は深まるばかりだ。
早い所、調べて安心したい。
食べ終わると肉串が四本じゃもの足りないのか余計に腹が減った。
周りを見ると店の側にゴミ箱のような物が設置されていたので食べ終わったゴミを入れる。
ベンチに座り、辺りを見回して『銀行』か『両替商』があれば良いんだけどなあ、と考えていると後ろからいきなり声を掛けられた。
「若旦那様、リンゴを買っては下さいませんか?」
そう、それは突然だった。
警戒していた俺の後ろから突然声が掛かったのだ。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
次話でお会いしましょう。
お疲れ様です。




