別れと出会い
本日が休みなので徹夜してしまいました。
ブックマーク等応援ありがとうございます。
大変励みになっております。
それではお楽しみください。
おやすみなさい。
朝になった。
いつもの六時頃だろうか。
心地良さに目を開けると、二つの膨らみがあった。
視線を動かし隣にいるラフィアの顔を見る。
眠っているようだ。
昨日は満足して頂けたようで何よりだ。
残念だが、ポニョポニョする柔らかい温もりの元を離れる。
もちろん毛皮は掛け直しておいた。
着替えてから、朝御飯は何にしようかと考えながら焚火の方へ向かう。
ふと人の気配を感じた。
そちらを見ると、寝ずの番をしているジャスティンと目が合った。
【ジャスティンさん、おはようございます!】
「ああ、おはよう。今日も良い天気になりそうだよ。」
ジャスティンが返事をしてくれる。
俺は昇る太陽を見ながら言う。
【『アリステリア様』、本日も御加護を。】
それを見たジャスティンが聞いて来る。
「そう言えば、アーサーは創造神様を信仰しているんだね。」
【ええ、お世話になっているんですよ。】
と、そう言っておく。
リアルでお会いしましたと言っても、こればかりは信じてはもらえないだろう。
【川で、顔を洗ってきますね。】
「ああ、気を付けて行って下さい。」
小川に向かい顔を洗っているとアンナが後ろから近寄って来た。
「アーサー君、おはようさん~。」
【アンナさん、おはようございます。】
「今日でお別れか~、残念なんさ~。今度会ったらまた御飯作ってよね~、あんな美味しい御飯は初めて食べたんさ~。」
【機会があれば御馳走しますよ。朝御飯も楽しみにしてて下さいね。】
そう言って小川を後にする。
餌付けという実験は成功したようだ。
ふっふっふ。
さてと朝食だね。
期待されているようで皆が俺の方をチラチラと見て来る。
ふふり、皆の期待には応えないとね!
朝食は白パンを作り、鳥骨から出汁を取った鳥肉の肉団子の野菜スープを振舞った。
大絶賛された。
やはり出汁のおかげだろう。
バックパックの食材が減ってしまったが数日だし大丈夫だよね。
鉱山の町に行けば何かしら買えるだろうし・・・。
町と言うからには何か売っていてほしい。
そして食後、鉱山に向かうと言ってジャスティン達と別れる。
街道に出ると別れる時に、ジャスティン達が話しかけて来た。
「ありがとう、アーサー。君と出会えて良かった・・・また機会があったら一緒に冒険をしよう。」
【こちらこそ、是非。】
握手を交わす。
続けてダンが照れながら言って来る。
「あー、・・・アレだ。今度は木剣で良いから剣を教えてくれよな。お前の強さは本物だ。誇って良い。」
【その時は、しごきますからね。】
お互いに、ニコっと微笑んで握手を交わす。
ダンと離れるとアンナが近づいて来て耳元で囁いて来る。
『アーサー君、今度はアタシともね・・・。』
チュッ
と、頬にキスをされた。
【アンナさん、またの機会があれば、是非。】
と、ハグをした。
アンナと離れるとラフィアが抱き着いて来た。
そして唇を塞がれる。
離れると跪いて来た。
「私の小さな勇者様、必ず運命がめぐり会わせて下さいます様に。そして汝の行く道に幸運があります様に。」
そう祈ってくれた。
何処かの神殿の巫女なのだろうか?
詳しく聞いておけばよ良かったよ。
【ラフィアさん達にも幸運が訪れます様に、『創造神アリステリア様』の御加護を。】
そう言って祈っておいた。
ラフィアは立ち上がると頬にキスをして来た。
離れると俺は出発する。
お互いにそれぞれの道を進む。
南西に300mぐらい進んだだろうか?
振り向くとまだジャスティン達がいた。
手を振ってくれている。
大きく手を振り返す、そうこれは良い出会いだった。
改めて思う、ジャスティン達との出会いは俺に良い経験をくれた。
心から感謝を。
そしてジャスティン達は俺が見えなくなるまで手を振ってくれていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
皆でその背を見送っている。
アーサーの姿が豆粒程になると、アンナがラフィアに言っている。
「良いの~?一人で行かせちゃってさ~。」
そう言うとラフィアが微笑みながら答える。
「良いのよ、私の勇者様は次に会う時にはまた大きくなっているわ。その時が楽しみね。」
ダンが促すように言う。
「そろそろ行こうぜ。今日の夜は柔らかいベッドで寝てえ。」
皆が肯くと街に戻る準備をする。
「彼に創造神様の加護があります様に。」
僕はアーサーの事をそう祈った。
さあ、凱旋だ。
「オーガを倒せたのは君がいたからだが、今度は君を守ってみせるぐらい強くなってみせるよ。遥か先にいてくれよ。いつか必ず追いついて見せるからね、アーサー。」
彼の実力はあんな物では無いのだろう。
だが、いつか・・・あの背中に追い付いてみせる。
僕はそう心に誓い、皆と街への帰路を歩き出すのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
午前中には鉱石を掘りたいんだけどな。
走りながら考えていると前方に見えていた山が大きくなって来た。
あれが、『オーカム鉱山』か、鋼以上も掘れると良いな。
希少金属が少ないらしいけれども、頑張って掘ろう。
このまま走っていれば二時間ぐらいで着くかな?
また良い出会いがあれば幸運だなと思いながら旅を続ける。
途中で鉱石を運ぶ荷馬車とすれ違った時は挨拶をした。
御者をしている人と話す機会なので情報を仕入れようとすると止まって話をしてくれた。
話の内容を纏めるとこんな感じだ。
1、鉱石の掘れる数が少なくなって来た。
枯渇はしていないと思われるので、何が原因なのか分からない。
2、坑道のアース・エレメンタルが増えていて鉱石を掘る事が難しくなった。
3、地下二階に、何かが現れて鋼等の希少金属が採りに行けなくなった。
4、冒険者ギルドから派遣されてきた六人組の冒険者が坑道で行方不明扱いになっている。
こんな所だった、鉱山に何かあったのかな?
鉱山と言うが、宿場町のようになっているらしい。
一応、宿屋等の設備は一通りあるらしい。
情報をくれた御者さんにお礼を言って南西へ走り出す。
更に山が近付いて来た。
このまま行ければ、後一時間ぐらいだろうか?
皆に何かお土産が出来るといいんだけどなと、ルイス達の事を思い浮かべる。
ルイスは無理をしていないだろうか?
露店はどうなっているのだろうか?
責任感が強い彼女が心配だ。
アリスは元気にしているだろうか?
誰かが毛布を掛け直してくれているのだろうか?
風邪なんか引くんじゃないぞ!
リズは元気だろうな。
ちょっとやそっとではあの元気は無くならない。
マオと一緒にムードメーカーになっているだろうな。
ベスは思い込んでいないだろうか?
露店の商品が売れないのはベス達のせいではないからね?
気にしないように、また次があるよ。
マオはまたリズの世話をしているんだろうな。
今度何かご褒美を買って上げないとね。
その調子で皆を元気付けてあげてね。
俺も頑張るから皆で協力して無事でいてほしいな。
考えていると門らしき物が見えて来た。
さてと此処からは歩くか。
おっと、もうローブと剣はいらないや。
しまっておこう。
ローブは洗濯しても汚れは落ちてくれなかった。
血の付いた所が赤黒く変色して色違いの迷彩服みたいになってしまった。
仕方が無いので途中でもう一着作っておいた。
そして午前中に鉱山の町に辿り着いた。
二人いる門衛さん達に話しかける。
【こんにちは、良い天気ですね。】
「ん?兄ちゃん鉱石を掘りに来たにしては軽装だな。何をしに来たんだ?」
「やぁ、いい日よりだね。寒く無ければもっといいんだけれどな。」
そう言えば、山に近いからか寒くなっているのだろう。
【今日は鉱石を掘りに来たんですよ。】
素直に目的を言うと、まずは左の門衛さんが喋りだす。
「最近は化け物が出るってよ。三日前にも冒険者さん達が原因を調べに来たんだがね。」
右の門衛さんが引き継ぐように言う。
「地下に行くと言ったきり町に戻って来ないんだってよ。」
ふむふむ、オーカムの冒険者ギルドの冒険者達かな?
ギルドに顔を出しておけば良かったね。
【そうすると鋼の鉱石は・・・。】
左の門衛さんが答える。
「ああ、品薄だ。派遣された冒険者達が調査から帰って来ないと原因が分からないそうだ。」
「呪いとかオカルトチックな話まで出るようになったからなあ。」
ゴーストやレイスがいるだろう世界でオカルトチックって言われてもなあ。
【そうですか。俺は鋼の鉱石が掘れれば良いですしね。では、確認をお願いしますね。】
と、カードを見せる。
「おっし。ん?兄ちゃん商業ギルドなんだ?」
【そうですよ?何かありましたか?】
「最近だが、商業ギルドのカードで一人で入って行ったけどしばらく見て無いっていう娘がいたっけな?」
そう言って左の門衛さんを見る。
「ああ、確かにいたな。一人だったしな。あの娘も犠牲になってなければ良いけどな。」
【ん?娘?あの娘?女の子なんですか!?】
「ああ、そうだ。同じく鋼の鉱石を狙ってたみたいだったぞ?」
「兄ちゃんの知り合いかい?」
【うーん、多分知らない人ですね。】
「そうか・・・確認した。通って良し!」
そう言うとカードを返された。
ついでに門衛さんに宿屋を聞いてみると、一軒しか無く、すぐそこの赤い看板のお店ががそうらしい。
とりあえず、拠点を確保しに向かおうかな。
こうして無事に門を通った。
宿屋に向かう。
部屋が一杯って事は無いよね?
と、心配に思い看板を確認すると満員の札は張られていなかった。
よし行こうか。
ドアを開け中に入る。
おお、暖かい。
昼間なのに人が多くいて・・・しかも酒臭い。
鉱石が掘れなくて昼間から酒場になっているようだな。
あの人が店員だろうか?
とりあえずカウンターらしき所へ向かう。
【宿を取りたいのですが、部屋は空いていますか?】
男性店員が答える。
「四人部屋で良いなら、空きがあるぞ?」
【構いません。お願いします。】
「それなら一日大銅貨一枚だ。飯は、悪いがどっかで食ってくれ・・・。」
申し訳なさそうに店員さんが言う。
部屋代高いな。
けど仕方ない。
【分かりました。それでは、お願いします。】
料金を支払う。
多分だが、飲んだくれが多すぎて御飯を出せないのだろう。
飯屋も探さないとダメかな?
持ってきた食材はジャスティン達に振舞ってしまったから碌な物が無いしな。
「宿帳を書いてくれ。」
【ヘファイストスっと・・・。】
「基本、大部屋は鍵が無えから貴重品は持ち歩くこった。」
【了解です。御忠告ありがとうございます。】
まあ、バックパック頼みなんだけどね。
部屋を確認する。
一部屋に二段ベッドが二個ずつあるね。
この四人部屋の何処かで寝ればいいのだろう。
部屋は確認出来たので宿屋を出る。
とりあえず腹が減ったので飯屋を探そう。
さてと何処かな?
と、入り口から出て辺りを見回す。
鍛冶屋が多いようだが、何処も開店休業みたいな感じだな。
お、飯屋を発見したぞ。
行ってみよう。
宿屋から歩いて五分と言った所か。
ドアを開け中に入ると、昼時なのにガラーンとしている。
お客さんもカウンターに一人しかいないし眠っているようだ。
とりあえず何処に座るか。
ガラガラだったのでテーブル席を選んで座る。
そう言えば御昼御飯を食べる習慣は無いんだった。
女性店員さんが注文を取りに来た。
「いらっしゃーい。」
渡されたメニューを見る。
うーん、なんかバッテンしてあるのが多いな。
【この鹿肉の焼き物を貰おうかな。後は黒パンとスープも。】
「はーい、少々お待ち下さいー。」
気の抜けた返事だった。
これだと歓迎されていないような気になるね。
「お前さんの言いたい事を当ててやろうか?」
うお、寝てると思ってたお客さんが突然起きて来た。
ゾンビかと思ってびっくりしたじゃないか。
まあ、初対面だし挨拶をしようかね。
【こんにちは、私はヘファイストスと言う旅の鍛冶師でございます。】
そう、平静を装って挨拶をする。
「わしは『ゴート』と言う。同じく鍛冶師じゃ。」
【それでゴートさん、言いたい事とは?】
この人も昼間から酔っぱらっているよ。
鍛冶師の仕事はどうしたんだ?
ゴートさんがカウンターからこちらに移動して来る。
「それは、鋼の鉱石の事じゃろう?」
【当てられてしまいましたね。それで、どう言う状況なのでしょうか?】
ゴートさんが対面に座る。
「鋼の鉱石はこの町の重要な資源じゃった。じゃが一の月程前から、鋼が掘れる地下二階に化け物が住み着きおったと言う話じゃ。」
ほう、化け物ね。
興味をそそられる話だ。
と言う事は、その状況をクリアにしないと鋼の鉱石が掘れないと言う事か。
【噂は聞いておりますが、話の信憑性はどうなんですか?】
「信じる信じないは兄ちゃんの勝手じゃ。わしにも、それだけしか分からん。」
そう言って手に持った酒瓶を見ている。
っく、この世界の爺さんキャラは!
前にアリスとお金の話をした時の爺さんを思い出す。
【お姉さん、ワインを一本追加でお願いします!】
「おぉ、若いの、話が分かるじゃないか。」
まあ、許容範囲の出費としておこう。
【それでどうなんですか?】
「続きはワインが来てからじゃの。」
っく、しっかりしてるじゃないか爺さん。
注文が来るまで考える。
1、冒険者は六人組で三日前から帰って来ていないようだから下手したら全滅しているという事。
2、地下二階に化け物が住み着いた。地下二階でないと鋼の鉱石が掘れない。
3、後は商業ギルドの人が一人で探索していると。この人も無事かどうか分からない。
うーん、とにかく探索しないと駄目って事か。
期日に帰れるか不安になって来た。
後は爺さんの情報次第なんだけど、この人大丈夫だろうか?
「御注文お待ちー。」
お姉さんが注文したワインを持って来た。
爺さんはワインを引っ手繰るとグイグイとラッパ飲みをしている。
爺さんを尻目に料金を支払う。
まあ・・・食べるか。
下がって行くお姉さんのお尻を見ていると。
「兄ちゃんも好き物だな。」
そう言われてしまった。
否定はしないが。
さて、食べようかな。
肉の匂いは良いな。
だが食べてみると塩味が薄い。
いや薄すぎる。
病院食でも、もう少しましだぞ?
もっと塩を使っても良いだろうに。
さすがに薄すぎるのでバックパックから塩を取り出し少し掛ける。
うん、マシになったけれどこのクオリティで普通なのだろうか?
オーカムの宿屋の方が十倍マシだった。
とりあえず腹に入れる。
俺が食い終わった頃を見てゴートさんが言って来る。
「ここだけの話じゃが、地下に『メタル・エレメンタル』が沸いてるかもしれんらしい。この事から儂は地下に『魔力だまり』が出来ているのではないかと思っておる。」
「魔力だまり?」
聞いた事が無いな。
「魔力だまりとは魔物が発生する魔力の溜まっている場所の事じゃ。」
【ふむふむ、ではそれを何とかすればメタル・エレメンタルはいなくなると?】
「そういう事じゃの。」
成程、と言う事は冒険者達が最低でも鋼の武器を持ち、使いこなせていなければ無事な訳はないか・・・メタル・エレメンタルは鋼そのものだから鉄の武器では歯が立たないだろう。
ゲームの時は生産キャラで苦労した記憶があるな。
掘ってると出て来るんだよね。
「鉄鉱石が少なくなったのは、魔力だまりが地脈に影響しておるからじゃろうな。」
【成程、地脈ねぇ。】
そうなるとやる事は決まった。
探索からだな。
地下二階の何かと、魔力だまりを調べないと前に進めなさそうだ。
しかし、本当にメタル・エレメンタルが沸いてくるのだとしたら、鋼の鉱石の塊だからウハウハじゃないか?
と、考えを纏めた俺は席を立つ。
ゴートさんが「行くのか?」と問いかけて来る。
【もちろん、では、行って来ます。】
そう答えて支払いを済ませ、店を出る。
御日様は昼を少し傾いた頃だったのでまだ時間はある。
念の為、ランタンを買うかな。
道具屋を探す。
何故ランタンかって?
浪漫だからですよ!
道具屋を見つけたのでランタンを二個と油を多めに買っておく。
バックパックへ入れ、さてと行くかな看板を頼りに坑道へと向かう。
二十分程だろうか?
しばらく道を進んで行く。
辺りが岩肌の露出している岩山になってきた。
・・・うーん、霞掛かっていてあまり良く先が見えない。
そんな中、道沿いに歩いていると開けた場所になり、鍛冶の設備があるのか誰かが槌を振るっている「カーンカーン」という音が聞こえてきた。
誰かいるのかな?
と、思って道沿いに音の方へ向かって歩いて行く。
話声も聞こえて来た。
やっぱり誰かいるな。
用心の為にバックパックからフードつきローブと相棒を取り出し装備する。
音が近くなって来たのと同時に気づいたのだが、前方に霞がかった巨大な洞窟が見えてきた。
あれが坑道に繋がっているのだろうか?
見ながら歩いていると音の発生源も見えて来た。
高炉と金床、水桶があるようで誰かが使っている。
更に近づくと数人いるみたいだ。
「武器が壊れたから!」
「碌に手入れもしてないヤツが良く言う!」
等と言い争う声も聞こえてきた。
近づいて行くと六人組の冒険者らしき男女と、ハンマーを持っていかにも鍛冶師です的な小柄な女の子が言い合いをしているようだ。
「あんな数のアース・エレメンタルだぞ?鉄製の武器なんかすぐに壊れちまうよ!」
「だから定期的に修理しに来いって言ってるでしょう?鉄の武器なんかじゃすぐに耐久力が減ってしまうのよ!」
「俺のハルバートもボロボロになっちまった。」
「これ以上は無理なんじゃないか?」
「依頼失敗のペナルティの方が怖いわよ?最悪ランク下降よ?下水道のネズミ退治なんかもう嫌よ!」
「誰だよ!アース・エレメンタルなら余裕だって言ったのは!」
「だから鋼の武器ならそんなに壊れないのよ!アンタ達はその為に調査に来たんでしょう?」
「ふん!誰がその鋼の武器の金を出すと思ってるのかね?」
「その前に鋼が無いじゃないか!?」
「それを調べるのが、アンタ達の仕事じゃないの!?」
等々。
うん、すごい勢いで言い合ってる。
係わらない方が良いな。
そのまま横をすり抜けようとすると、鍛冶師の女の子に声を掛けられたようだ。
「ねえ!貴方もそう思うでしょう?」
突然のスルーパス。
あまりにも華麗で、俺は声を掛けられたのか分からなかった。
そのまま洞窟に入りそうになる。
「ちょっとアンタ!無視するなんて酷すぎるんじゃない?」
シミだらけのフード付きのローブを着て更にフードを目深に被って怪しさ満々の俺の事ですか?
【えーっと、俺の事?】
「そうよ!アンタの事よ!」
冒険者達をかき分け「ツカツカ」とこちらに近寄ってくる。
【話が全く見えないんだけれど?】
女の子は側に寄って来ると小さな声で囁いて来た。
『協力して、お願い。』
と、右手を掴まれ、泣きそうになった女の子に囁かれた。
むう、極力揉め事は避けたのだが・・・。
『アリステリア様』、これも『縁』なのでしょうか?
『ふぅ、何をすれば良いんだい?』
仕方がないので協力する事にした。
女の子から事情を聴く為、他の奴らには聞こえないように囁く。
手を引かれて冒険者達の方へ連れていかれる。
「・・・貴殿は、何者だ?」
リーダーらしき冒険者君が前に出て来た。
【ヘファイストスと申します。以後、よろしくお願い致します。】
胸に手を当てて御辞儀をする。
「下民に名乗る名など、持ち合わせてはおらんのでな。」
ぐぬぬぬ。
名乗らないので仮に『冒険者A君』としておこう、が問いかけて来た。
うーん、何て言えば良いんだろうと迷っていると女の子がとんでもない事を言って来た。
「アタシの「弟子」よ!」
【・・・え!?】
「「「・・・え!?」」」
胸を張っている所悪いんだけれど、悪い意味で皆の視線が集まっているぞ?
俺は、誰かの弟子になった覚えは無いのだけれど、その対応はアウトだろう?
と、思っていると女の子に足を踏まれた。
あっ!
痛い!?
【そ、そうでした、「師匠」!】
と、慌てて答える。
うわぁ、冒険者さん達は疑いの眼だ。
当然だよね。
「ふむ、そんなに言うなら、この者のハルバードを修理してもらえるかな?」
冒険者A君が、勝ち誇ったように言う。
「修理ならアタシがやるわよ!」
「いや、弟子なんだろう?修理ぐらい・・・なあ?」
そう言うと仲間の冒険者達を見回す。
「そうよ!出来るはずだわ!!」
「出来るだろう?」
「出来ないはずがないよな。」
「壊れそうなんだ、頼むよ・・・。」
冒険者達に、口々に言われ泣きそうになって歯ぎしりしている女の子。
うーん、女の子の戦況は不利か。
と、でも思っているんだろう?
【師匠、私にお任せ下さい。すぐに対応致しますよ。】
そう俺が言うと、女の子が「え!?」と言って驚いている。
冒険者君達は出来るはずが無いと思っているのだろう。
口々に出来る訳が無いと言ってくるが無視してハルバードを奪い取る様に受け取る。
【少々お待ち下さいね。】
俺はそう言って金床の方へ向かって行く。
まあ、女の子は泣かせちゃ駄目だよね?
鉄製のハルバードを鑑定をしてみると最大耐久値が「十六」しかなかった。
修理して使っても五~六回叩けばかなりの確率で壊れてしまう可能性が高い。
ちなみに最大耐久値は俺の経験上の話だが、鉄や鋼の武具で255みたいだ。
俺は255の物しか作っていない。
いや、正確には、俺が作るとチートスキルの恩恵で耐久値が最大値だろう255になってしまうらしい。
【このハルバート最大耐久値が十六しか無いので打ち直さないと駄目ですね。時間が掛かるので少々お待ち下さい。】
そう言うと冒険者A君が言って来る。
「修理も出来ないのですか、これだから下民は・・・。」
そう煽って来たのでサラッと受け流す。
【修理するより難しい事ですよ?その分、時間とお金は掛かりますが。】
と、言って女の子の肘を肘で打ち付けサインを送る。
サインに気づいたのだろう。
女の子が胸を張って言う。
「アタシの弟子ならこのぐらいは簡単よ?」
女の子は無い胸を張ってそう答える。
作業に集中したいので少し離れて見ていて下さいと言うと、冒険者A君達も仕方ないという様に洞窟の脇に座り込んで此方をチラ見しながら何かを話し込んでいる。
ふと気付いた。
坑道内はアース・エレメンタルが大量にいるはずだ。
冒険者A君達が戦っている?
ジャスティン達より強そうには見えないんだけどな。
ハルバード君は皮手袋の上からでも分かったが豆のない綺麗な手をしていた。
・・・不安だがまあ良いか。
さて、始めますか。
女の子が小声で囁いて来る。
『巻き込んでしまってごめんなさい。打ち直しはアタシがやるわ。』
と、言って来たのだが見られているのを感じていたのでこう答えた。
『あの人達がこっちを監視していますよ?よろしいんですか、師匠?』
そう言うと女の子は冒険者達の方に視線だけを向ける。
「・・・困ったわね。」
【このぐらい大丈夫だよ。まあ、どーんと任せてみなさいな。】
「わ、分かったわ。」
そう言うと女の子は少し離れた所から俺を見ている。
さあ、やってやろうじゃないか!
神匠のハンマーと鉄のインゴットをバックパックから取り出す。
まあ、スキル頼みなんですけどね?
そうしてハルバートを作製し始めた。
約一時間後。
うん、狙った通り鉄製のハイクオリティーのハルバートが出来た。
耐久値も最大耐久値の255の物だ。
ん、作ったばかりのハルバートが青く光っている。
光が収まったと思ったらその後、俺の体も青く光っている。
誰かに鑑定を掛けられたかな?
鑑定って断らないと、掛けちゃ駄目なんじゃなかったっけか?
見ると女の子が信じられないとでも言う顔をしていた。
ああ、この子が掛けてたのか?
黙って掛けた鑑定の件はスルーして女の子にハルバートを持って行く。
【師匠、出来上がりました!】
出来上がったハルバードを跪いて仰々しく渡してみる。
すると胸ぐらを掴まれてグイッと引き寄せられた。
そして小声で囁いて来た。
『ねえ、貴方。今、自分が何をしたのか分かっているわよね?』
と、言って来た。
『さあ、何の事やら?』
そう囁き返す。
『覚えておきなさいよ!後で詳しく聞かせてもらうからね!』
そう言ってハルバート引ったくり渡しに行く。
まあ、鉄製だしハイクオリティーぐらいは良いよね?
結果を待っていると、代表してだろうか?
冒険者A君がこちらに来る。
「貴殿を疑って悪かったね。済まなかった。他の者達の装備も見てくれないか?もちろん貴殿の師匠と一緒にだ。代金はちゃんと払う。パパが・・・。」
最後の方は小声でヒソヒソ言ってきた。
パパって・・・この子、一体何歳なんだろう?
冒険者登録が出来ているので十五歳以上なんだろうけど・・・。
貴族様だからずいぶんと甘やかされて育ったんだろう。
ルイスの爪の垢でも煎じて飲ませたいね。
等と思っていると声が掛かる。
「どうしたのかね?ははあ、この鎧かい?平民にはこの鎧が金貨何枚か分かるまい?」
下民から平民にランクアップしたな。
鎧の事なんか聞いてないしね!
なんか自慢して来たのでとりあえずシカトだ。
【ええ、分かりませんね。とりあえずそのパパ様に請求をすれば良いのですね?】
「ああ、そのように頼むよ。」
また小声で言って来た。
他の人に聞かれないように面子を守りたいのは分かるけど支払いは大丈夫なんだろうな?
冒険者A君のパーティーメンバーの装備を女の子と一緒に手直しして行く。
これだと壊れますよ?
と、言う物以外は修理した。
壊れそうな物は作り直さないといけないので、許可を得て作成する。
作製をしていると、女の子が俺の作業を見逃さないように目を皿のようにして見ている。
更に、二時間後一本のロングソードと一本のメイスを打ち直した。
両方ともハイクオリティーだ。
型が無かったので、一から手作業で打ったのだけれどハイクオリティーが出来た。
スキル様のおかげだね。
「鑑定してハイクオリティーかどうか調べよ。」
武器を受け取った冒険者A君が魔法使いであろう女性冒険者さんに鑑定をするように言う。
目の前に作った本人がいるのにそれは失礼ではないだろうか?
なあ、冒険者A君よ?
「「鑑定」・・・はい、確かに両方共にハイクオリティーです。」
「これで攻略できるな!」
「やっと俺にふさわしい武器が出来たぜ!」
「これで安心して、土野郎をぶっ叩く事が出来る!」
「やっと進めるんですね。良かった。」
等々、声が聞こえて来る。
冒険者A君に代金を伝えるとオーカムに帰ったらパパが払うので待ってくれと再度言われた。
【君のパパって何処のどちらさんなのかな?】
と、聞くと偉そうにふんぞり返って言って来た。
「『レガイア・フォン・オーカム』と言うんだ。オーカムの騎士団長をしているんだぞ!凄いだろう?」
ああ、フォンっていう事は本当に貴族様なのね。
まあ、名前が出たので本人に請求すればいいか。
心配になったので請求書を作ってサインをさせておいた。
くっくっく、良く見ないで無記入の証書にサインしやがった。
後で後悔しても遅いからな。
と、薄ら笑っていると女の子が「うわー」って言う表情でこっちを見ていた。
さてと、話の内容からすると他の子達は貴族様の取り巻きか何かかな?
まあ良い。
しかし、彼らにここの調査は無謀すぎるから止めてほしいな。
そう思って女の子の方を見ると、思案顔をしている。
何も変わった事はしていないはずだけどな?
すべての作業が終わったので着替えていると、終わった頃には空には月が登っていた。
夢中になっていて気付かなかった。
冒険者A君達はこのまま此処で野営をするらしい。
四日目の野営だと言う。
そう言えばと疑問に思い町に連絡は入れているか聞いた所、誰も連絡はしていないとの事だった。
成程、町に連絡を入れないので、行方不明の扱いになっているのだろう。
俺はそこの所を冒険者A君に遠回しで注意しておく。
『報、連、相』は大事だよね。
さて、探索は明日にしてこのまま宿屋に帰ろうと思っていたのだが、後ろから「ガシッ!」と肩を掴まれた。
「さあ、アンタのした事を教えてもらうわよ?」
鍛冶服を普段着に着がえた女の子が怖い顔で立っていた。
振り向かずに答える。
【な、何の事だか分からないな?】
そんな感じに惚けて手を振り払い、そのまま町に戻る道を走る。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
女の子はそう言うと鞄を持って追いかけてくる。
「逃げれるとでも思っているの!?」
そんな事を言いながら追いかけて来たので無視してしばらく走る。
「ちょっと、まち、なさい、よ・・・」
女の子のスタミナが切れたのかどんどん離れて行く。
うーん、夜だし女の子を一人歩かせるのはまずいよね。
と、思って足を止める。
そう、俺は紳士だからね。
女の子が追い付いてきたが「ぜーぜー」言っている。
ほとんど一日中仕事してたから疲れたのだろうな。
追跡から逃げるチャンスかと思い交渉してみる。
【夜も遅いし、続きは明日にしよう。】
そう言うと女の子が息も絶え絶えに答える。
「わ・・・分かった・・・わ。」
そう言って来たので一緒に町に帰る。
町に着いた後、そう言えば宿屋は一軒しか無いんだったなと思っていると宿屋に着くなり女の子の大声が聞こえる。
「幽霊じゃないわよ!馬鹿にしてるの!」
とか聞こえて来たが、連絡を入れないからそうなるんだよと軽く突っ込みを入れ予約してあった部屋に行く。
時計を見るともうすぐ二十一時三十分だった。
部屋には二人ばかり寝ているようだ。
なら空いている所を使えばいいのかなと思い、空いているベッド潜り込む。
すると「ドスドス」と大きな足音が近づいてきた。
「お邪魔するわよ!」
そう言って、さっきの女の子が部屋に入ってくる。
寝ている人も何事かとベッドから顔を出す。
「アンタ!アタシから逃げられると思わないでよね!」
俺を指さし大声で言って来た。
うーん、迷惑は考えてほしいよね?
【お嬢さん、ここは大部屋なので大声は控えて下さいね。】
そう言って叱ると謝って来た。
「ご、ごめんなさい。」
以外に素直じゃないかと思っていると明日が不安になるような事を言って来る。
「明日、覚えてなさいよ!」
そう言って空いているベッドへ逃げ込んだ。
どうやら同じ部屋に当たったようだ。
不運だ。
大量に汗をかいていたのでさすがに気持ちが悪い。
せめて体を拭きたいと思い一階に降りお湯を頼む。
相変わらず酔っ払いだらけな一階を眺めていると、お湯の用意が出来たらしいので料金を支払って部屋に戻る。
ベッドが濡れると嫌なので二段ベッドの間の床の上で体を拭う。
うん、気持ち良いね。
素っ裸で全身くまなく拭いていると視線を感じる。
視線だけを向けると顔を真っ赤にして毛布に包まった女の子が覗き見ていた。
体を拭き終わると新しい服に着替える。
【ふう、さっぱりした。】
そう言って桶を一階のカウンターに持って行く。
部屋に戻ると顔を赤くした女の子が部屋を出る時と同じ姿勢で固まっていた。
【・・・ずいぶん堂々と見るんだね。】
と、言うと女の子と目が合った。
「!”#$%&!!!」
言葉にならない悲鳴のような物を上げながら毛布に包まる。
サッパリしたので俺もベッドに戻って今日の事を思い返していると、しばらくすると静かになった。
女の子も寝たのだろう。
一階から酔っ払いの声が聞こえて来るが眠れない程ではない。
『アリステリア様』、明日は良い事があります様に、そう祈ってから眠りについたのだった。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
次話 女の子の正体(仮 でお会いしましょう。
それでは今後ともよろしくお願いします。
11月23日 追記
ポイント100達成! 皆様のおかげです。
今後も頑張りますのでよろしくお願いします。