初めての露店
執筆終了いたしました。
今回はルイス視点で物語が進みます。
お楽しみいただければ幸いです。
朝食を食べ終えて支度をし、荷車置き場に向かう。
宿の敷地内に荷車はあった。
荷物はもう積んである。
「アイツ」はもう出発したようね。
折角アイツが作ってくれたので皆は「ブリリアントなメイド服?」と言う物に着替えている。
どうして皆のサイズがピッタリなのかは帰ってきたら聞く必要があるわね。
リズが喜んで言って来る。
「皆でお揃いの可愛い服だね!」
と、言って喜んでクルクル回っている。
マオが続けて言う。
「リボンも可愛いよー!」
そう言ってリズと二人ではしゃいでいる。
「寒かったら上着を着なさいね。それとあまり飛んだりすると下履きが見えちゃうわよ?」
そう注意をしておく。
少しだけれど二人共大人しくなったわ。
でも嬉しいのかすぐに騒ぎ出す。
このままだと、宿に泊まっている他の人にも迷惑になるかもしれない。
そろそろ出発しましょうか。
「皆、行くわよー!」
「「「はーい!」」」
皆は今日も元気ね。
荷車を引いてまだ人通りの少ない道を五人で進む。
露店を出すのは初めてね。
ここからはアタシ達だけでの行動よ。
そう、アタシ達だけの・・・だけでの仕事。
そう、今日からしばらくはアイツがいない。
宿屋を出てから十分程だろうか。
南通りを目指して進んでいると声が聞こえて来た。
「お兄さんがいないと寂しいね・・・。」
「そうだね、でも仕事だもん。仕方がないです!」
リズとマオの二人は後ろから荷車を押してくれている。
「リズ、マオ。私達だって仕事なのよ?」
「そうね・・・。」
左側を歩くベスが同意してくれる。
「ねー、ルイスちゃん。場所は何処なのですー?」
先頭を行くアリスが言う。
「アリス、知ってて向かってたんじゃなかったの?昨日説明してくれたでしょう?」
「あはは、忘れちゃったのです!」
「もう、仕方ないわね。南通りの真ん中辺りよ。分かった?」
「はーい!」
歩みを進める。
ここからだと目標の場所まで十分程で到着するかしら?
「良く晴れてるわね。」
「そうね・・・。」
ベスが返事をしてくれた。
露店の場所まではもうすぐね。
荷車を押す手にも力がこもる。
空を見ると太陽が眩しい。
中央広場の時計を見ると九時十分だった。
程なく予約してある場所に到着した。
「思っていたより狭いわね。」
場所を見た第一声がこれだった。
けれども角の支柱はしっかりしているようだし、屋根には天幕が張ってある。
三方向には木の板が張ってあり作りは頑丈そうだった。
ギルドの係の人が頑張って設営してくれたのでしょうね。
店の中には陳列する為の三段の木の棚が二個とテーブルと椅子が二脚あった。
立地はあまり良くないのだけれど、此処が初めての露店となるのね。
「さあ!商品を並べるわよ!」
「「「はーい!」」」
気合いを入れ直すと皆から返事が来た。
さあ!
作業開始よ!
「ポーションの瓶は落としたぐらいじゃ割れないはずだけれど大切に扱いなさい。」
そう言ってポーションの入っている箱を運んでいるリズとマオに注意する。
「はーい!」
「了解ですー!」
二人から返事が来る。
うん、あちらは大丈夫そうね。
そんなに大きくは無いが一箱三十本入りのケースが低級十箱、中級五箱、上級一箱、筋力強化も同じ数ですべて高品質だ。
私はベスと一緒にケースを運んでいる。
「ベス、頑張って。」
「分かっ・・・た・・・。」
慌ただしく準備をしていると時間なんてあっという間に過ぎてしまう。
「アリスは商品を渡す係を、リズ、マオは呼び込みと列が出来た時の整理をお願い。ベスは会計をお願い。アタシは接客をするわ!」
昨日アイツと打ち合わせをした通りに進める。
商品棚にもポーションを並べて行く。
高品質の上級ポーションで値段は銀貨一枚だ。
ポーションの瓶は多少の衝撃でも割れない。
けれども慎重に並べて行く。
折角アイツが作ってくれたのだから大切にしようと思う。
棚の状況によってケースから在庫を出せるようにする。
上段、下級ポーション。銅貨十枚
中段、中級ポーション。大銅貨三枚
下段、上級ポーション。銀貨一枚
すべて高品質だ。
間違えないようにアイツが瓶に目印を付けていてくれた。
相変わらず細かい所にまで気を遣ってくれるのね。
慌てずに取り出せばアリスでも間違えないでしょう。
筋力強化ポーションも隣の棚に並べる。
こちらは色も白なので回復ポーションとは間違えないでしょう。
この瓶にも同じように目印がしてある。
気遣いに改めて感謝する。
ベスが並べ終わった商品棚に商品名と値札を付けて行く。
商品の値段は決めてあるので、表示の値段でベスに任せておけば料金の間違えも無いでしょう。
値段のキリが良い数字で販売できるのは助かるわ。
リズとマオは五本のロングソードの飾りつけを終えたらしい。
「「売れるといいねー!」」
二人でそう言っている。
並べきれないロングソードは箱の中に入っている。
アイツが作った物なのだ。
品質はそこいらの露店とは比べ物にならないでしょうね。
・・・そこの所は信用している。
アイツの顔を思い出す。
フンッ、ニコニコしちゃって。
ブンブン!
違う違う!
頭の中から、ここにはいないアイツを追い出す。
視線を感じてそっちを見ると微笑んでいるベスと目が合った。
「ルイス姉・・・大丈夫・・・?」
「もちろんよ!」
ベスにそう答えてまだ人通りの少ない表の通りを見る。
冒険者さん達は依頼を受けるとその日は準備期間に当てる人が多い。
期間を取り、準備をしたうえで出発するのだ。
その為、十時からの開店でも十分に間に合うのだ。
そして十時を知らせる鐘が鳴る。
「さあ、開店よ!」
「「「おー!」」」
皆から元気な返事が来る。
心強いわね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
・・・十一時頃になったかしら?
今だにお客さんが一人も来ないのよね。
けれども、そろそろ人通りが多くなって来たわ。
お客さん来ると良いわねとベスと話していると。
「おい、高品質ポーションだってよ。」
「嘘だろう、東通りには無かったんだぞ?」
「あの子の着ていた服、フリルが可愛らしいわね。」
「そうそう、制服なのかしらね?」
そんな声が聞こえて来た。
初めてのお客さんが来てくれた!
男性二人と女性二人の四人組ね。
男性の一人はガーゴイル族の人みたい。
「「「いらっしゃいませー!」」」
アタシ、アリス、ベスで出迎える。
「「お、おう。」」
歓迎っぷりに冒険者さん達が驚いているわ。
早速声を掛ける。
「ポーションをお探しですか?」
アタシは笑顔で聞く。
「ああ、外で宣伝していたけどさ、品質はどうなんだい?」
棚を指してこう言う。
「当店の商品はすべて高品質を取り扱っております。表示の様に上は高品質の上級ポーションまでとなっております。残念ながら値段は決まっていて値切れませんが。」
冒険者さん達がザワつく。
「貴女が店主さんなの?」
女性冒険者さんが言う。
「左様でございます。」
「高品質の中級回復ポーションを見せてくれるかい?」
魔法使いらしいローブを着たガーゴイル族の人が言う。
「かしこまりました。」
振り返り棚の真ん中から黄色いポーションを取り出す。
「どうぞ、御覧になって下さい。」
そう言って笑顔でポーションを渡す。
「鑑定してもよろしいかしら?」
別の女性冒険者さんが聞いて来た。
「構いませんよ。」
安心してそう答えた。
先程のガーゴイルの魔法使いの男性冒険者がスキルを使う。
「鑑定。」
そう言ったきり沈黙してしまった。
・・・品質は問題ないわよ?
だってそう!
アイツが作った物なんだからね!
「おい、どうなんだよ?」
「ま、間違いない。確かに高品質の中級回復ポーションだ!」
ローブを着たガーゴイルの魔法使いの男性冒険者さんが驚いている。
他の冒険者さん達がザワつく。
ふふん、どう?
アタシは心の中で自慢げにそう思う。
「店主さん、コレは何本あるんだい?」
「回復の高品質中級ポーションは全部で150本ございます。」
ザワッ
「高品質が150本だってよ!?」
「隠れた名店を見つけたって感じよね?」
「これでエティン狩のクエストが受けれるわね!」
ザワザワ・・・
ん?
なんだろう、このザワつきは?
チラリと視線を外をに送ると店の前に人の山が出来ていた。
どういう事!?
少し焦る。
すると外から威勢の良い声がするので耳を澄ます。
「高品質ポーションはこちらですよー!ハイクオリティーの鋼のロングソードもありまーす!」
「買わないと損ですよ!高品質ポーションだよ!斬れない物はないハイクオリティーの鋼のロングソードだよー!」
リズとマオが派手に呼び込みをやっていた。
あの子達、整理を忘れてるわよ!?
「お嬢さん達の服は制服なのかい?」
「「そうですよ!可愛いでしょう?」」
と、二人でポーズをとっている。
息もピッタリね。
「ふむ、イイ・・・。」
「「イイでしょー?」」
「その服は売り物ではないのかい?」
「「売り物ではないです!」」
「うむ、残念だ。作った人とは話は出来ないのかい?」
「「お兄さんの事ー!?」」
とか聞こえて来た。
っく、さすがに健康的なリズとマオは何を着せても似合うわね。
悔しがっている場合じゃないと視線を戻す。
二人の呼び込みの効果があったのだろう。
「高品質ポーションの店だってよ!」
「他の店に高品質の在庫が無えから買っておかねえと!」
口々に聞こえてくる。
店の前はごった返した様な人の山だ。
ただ、店の入り口でアリスが列を整理してくれていた。
「並ばないと売ってあげないのです!」
と、言っているので店の前だけは列が出来ている。
助かるわ、アリス!
先程ポーションを鑑定していた冒険者さん達が私を見て言って来る。
「店主さん、コレを八本売ってくれるかい?筋力増加の中級のポーションも五本。」
そう言って来た。
売れるの!?
「御会計は、隣でお願い致しますね。」
「了解した。」
そう言ってベスの方に移動するとアリスが籠に入れてポーションを渡している。
「高品質ポーションって言ってるのはこの店か?」
「高品質の下級回復ポーションを十本くれ!」
「高品質の上級筋力増加ポーションはあるか?」
「高品質の中級回復ポーションを三本くれ!」
「斬れない物は無いって言っているロングソードは何処だい?」
「高品質の下級筋力・・・。」
「高品質の・・・。」
途切れずに次々と御客さんが来る。
「順番に対応致しますので、列に並んでお待ち下さいー!」
アタシの悲鳴が響き渡った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
呼び込みが効いたのか、はてさて制服の効果なのか午前中でポーションが全部売り切れたわ・・・。
籠を百個作っておいたけれど足りなくなって、途中から手渡しになってしまった。
棚に「完売」の札を付けた。
用意してなかったので金額を書き込む為に用意した羊皮紙に手書きだ。
ロングソードも一本売れたわ。
ロングソードを買った冒険者さんが他の冒険者さん達に自慢をしていたけどそれ以降売れていないわね。
時間は十二時三十分を過ぎた頃かしら?
まだ二時間ちょっとなのにものすごく疲れたわ。
もう動きたくないわよ。
アタシとベスが机に突っ伏している。
精神的にまいっていたので、まだ元気なリズとマオにお昼御飯を買いに行ってもらった。
あの二人に任せると今日も肉串かしらね?
値引きは大丈夫かしら?
そう思いながら机に突っ伏している。
「いらっしゃいませなのですー!」
アリスのお客さんを呼び込む声が聞こえる。
「っく。」
笑顔を作り顔を上げ立ち上がる。
すると誰かが店舗に入ってきた。
「魅力的な店員のお嬢さん、すまないがこのロングソードを見せてくれないかな?」
「いらっしゃいませ、こちらは当店の自慢の商品でして・・・。」
・・・雰囲気で分かる!
衛兵風の恰好をしているが『貴族様』だ。
貴族!
嫌な思い出が頭をよぎる。
心臓がドキドキする。
何も考えられない。
どうしよう、どうしよう・・・。
体が震える。
その様子を見たベスが立ち上がって手を握って来た。
視線を移す。
ベスが視線で「ルイス姉・・・大丈夫だよ・・・。」そう言ってくれている。
一瞬「アイツ」の笑顔が頭をよぎる。
大丈夫、私はあの頃の私じゃない。
震えが止まったので、剣を見せてくれと言っている貴族様の様子を窺う。
身長は結構高い。180cm以上はありそうね。
年齢は・・・うーん、見ただけでは分からないわね。
銀髪の短い癖っ毛をしている優男風の人。
騎士物語にでも出てきそうな美形ね。
そして従者だろうか、もう一人男性がいた。
赤い色の短髪が炎の様に見える人で、同じ色の髭も生やしている。
こちらは身長がさらに高く190cm以上だろうか?
筋肉で鎧が弾けそうな体をしている。
背中に大きな斧を背負っているのが見えるわ。
「かしこまりました。」
そう言って、飾り付けてある剣の所まで、ベスと一緒に歩いて行く。
と、手を握っていたベスが会計の場所に戻って行く。
心細くなったが勇気を振り絞って貴族様に剣を差し出す。
「こちらの剣ですが、よろしいでしょうか?」
と、両手で掲げるように剣を手渡す。
「ふむ、抜いてみても?」
「結構でございますよ?」
貴族様が手渡した剣の柄に手を伸ばす。
シュランッ!
綺麗な音がして鞘から抜かれる。
「おお、これは鋼か!素晴らしい剣だな!」
貴族様が驚いている。
「お嬢さん、失礼は承知だが鑑定を掛けさせてもらっても?」
「構いませんよ。」
「鑑定。」
しばらくすると貴族様の表情が変わる。
驚いているようだ。
「この街では、鋼のハイクオリティーは貴重だぞ!」
とか言っている。
冷静そうに見えたのだが、今は剣の事で興奮している様だった。
「左様でございます、当店の専属鍛冶師が心を込めて鍛え上げた逸品でございます。」
「もしや、貴女の店では『ドワーフ』が鍛冶師をしているのか!?」
「いえ?人間の鍛冶師でございますよ?」
剣を日差しに当てながら眺めている貴族様がそう言って来たので答える。
「成程。と、なるとさぞや名のある鍛冶師の鍛え上げし剣なのだろうな。もしや「黒玉の鍛冶師」殿かな?」
「いや違うだろう。あの方は使い手を選ぶ。それにドワーフだったはずだ。更に言うなら露店に並ぶ様な剣は作らないだろうよ。」
貴族様がそう言うと筋肉質の従者さんらしき人がそう答えた。
すると貴族様が名乗りを上げて来た。
「おっと、名乗っていなかったね。可憐なお嬢さん。私は『レガイア・フォン・オーカム』、このオーカムの街で騎士団長をしている。『レガイア』と呼んでくれたまえ。」
アタシに向かって作法に乗っ取ったであろう御辞儀をして来る。
作法なんて分からないけれど頭を下げる。
ん?
姓が『オーカム』?
街の名前と同じと言う事は領主様!?
いや、でも確かもっと御年輩だったはずよね!?
笑顔が引きつりそうだけれど出来る限り平静を繕って挨拶をする。
「これは領主様でいらっしゃいましたか、今までの非礼をお詫び申し上げます。」
と、言って頭を下げた。
「がははは!領主じゃねえんだよ、嬢ちゃん。その息子さ。あ、俺は『アレックス・オーゼム』と言う。『アレックス』で良い。一応騎士だ。よろしくな!」
赤髪の騎士さんが挨拶をすると「レガイア様」がこちらを見ている。
「店主のルイスです。こちらこそよろしくお願いします。」
顔を上げなんとか笑顔で答える。
「ルイス嬢、試し切りは出来ないかな?」
「この場所では危険ですので、試し切りになるか分かりませんが、試されるならこちらを。」
私がそう言って一枚の羊皮紙を持って来る。
「羊皮紙を斬るのかね?」
「ただ斬るのではなく。」
そう言って剣を受け取ると片手持ちで地面と水平にし刃を上に向ける。
「ご、御覧になっていて下さいませ。」
片手だと女の私には剣が重い、緊張もしているのだろう、剣がカタカタと震える。
「・・・お嬢、俺が持つぜ。」
無理をして構えていると、アレックスさんが見かねてそう言って剣を持ってくれた。
「ありがとうございます。それでは、御覧下さい。」
ザワついていた人だかりが静かになる。
剣の上に羊皮紙を置く、そしてゆっくりと引いて行く。
スッ
音もなく羊皮紙が切れた。
「「「おおおー!」」」
いつの間にかギャラリーが100人ぐらい集まっていた。
凄い歓声だったわ。
「凄い切れ味だ!」
「ロングソードなのか!?」
「有名な鍛冶師が打ったんだってよ!」
「鉄じゃなくて鋼だってよ!」
見ていた人達は大騒ぎだ。
「鋼のハイクオリティー、しかもこの切れ味で小金貨三枚なのかい?」
「左様でございますよ。」
レガイア様がそう言って来たのでアタシは答える。
「「黒玉の鍛冶師」殿でもこんな物は打てねえだろうよ・・・。」
二人が驚いていると、全身を毛皮着きの、アイツが言っていた「スタッドアーマー」だろうか?
を、着こんでいる冒険者さんが側に寄って来て声をかけてくれた。
「お嬢さん、剣を一本売ってくれるかな?」
そう言ってくれた。
試し切りを見ていてくれたのだろう。
続けて同じ様な鎧を着こんだ他の冒険者さんも一本売ってくれと言って来た。
え?
小金貨三枚ですよ?
良いんですか?
剣を渡し会計であるベスの方へ案内をした。
引き継いだベスが修理と手入れの話をしてくれている。
その後も同じように試し切りを見ていた二人の冒険者さん達が一本ずつ買ってくれた。
アイツはやっぱりすごいヤツだったんだと内心で喜んでいる。
場が落ち着いた所でレガイア様がアタシに近寄って来た。
レガイア様がたたずまいを直しアタシに言う。
「失礼、ルイス嬢。残りのロングソードを「オーカム家」で買い上げるので、この素晴らしい剣を打った鍛冶師殿を紹介してはくれまいか?」
と、少し深刻な顔で言ってきた。
「は、はい!?ロングソードは三十一本も在庫があるんですけれどよろしいのですか?」
「ああ、構わない。全て買い取ろう。」
「あ、ありがとうございますー!」
アタシの思ったより大きな声が辺りに響いた。
だって全部売れたのよ!?
今日は驚きの連続だ・・・アタシの心は持つのかな。
と、思っていると通りの隅で肉串を食べているアリスとリズとマオの姿が見えた。
しゃがんでいるので下履きが見えそうだった。
あの子達は後でお仕置きね。
そしてアイツに何て報告しようかと考えている私がいた。
完売よ!
と、言ったら驚くだろうか?
喜んでくれるだろうか?
そう思うと自然と笑顔になる。
閉店の時間には、まだ時間があったけれど売り物が無くなったので店の前に「完売」の札を出しておいたわ。
もちろん手書きよ。
レガイア様が屋敷に使いを出して、剣を運ぶ馬車を呼んでいるらしい。
その間に事情を説明しておく。
「その・・・申し訳ありませんが、当店の鍛冶師の『ヘファイストス』は今、鉱石を掘りに行っているので、宿に帰って来るのには三~四日後になると思われますが・・・。」
残念だが本当の事を言うしかない。
だがそう伝えるとこう返答してくれた。
「その鍛冶師殿とは直に話をしたい。その際は貴女も御一緒にいらして下さい。ささやかですが、晩餐を用意してお待ち致しますよ。」
と、言われた。
貴族屋敷で晩餐!?
アイツはともかく、アタシまで!?
そんなアタシの心配をよそにベスが近づいてきた、ロングソードの代金の計算が終わったらしい。
ロングソードが残り三十一本だったので、なんと金貨九枚と小金貨三枚になったの!
目の前が白くなったわ。
気を取り直したアタシがレガイア様に料金を言うとアレックスさんが支払ってくれた。
どうやらお金を預かっているのはアレックスさんなのだろう。
支払いが済むと店舗内に戻る。
「金貨なんて初めて見たわね・・・。」
そう言ってベスとキラキラしている金貨を見ている。
しばらく見ていると、どうやら馬車が到着したらしい。
従者の人だろうか?
荷物を積み込み始めていた。
積み終わると、レガイア様が確認の為に再度言って来る。
「鍛冶師殿の予定もあるだろうから四日後の十八時までに二人で屋敷に来てほしい。」
そう言われたのだが、アタシがこのお金達をどうしようかとオロオロしていると、それを見たレガイアさんが大声を上げた。
「そこの衛兵!」
ちょうど巡回をしていた衛兵さん達を呼び付けたのだ。
呼ばれた衛兵さんが二人駆け寄って来る。
「「これは団長!何事でしょうか?」」
「職務中御苦労、耳を貸してくれるかな?」
「「はっ!」」
『それでだな、彼女達は大金を持っているのだ。君達に銀行までの護衛を命ずる。』
耳を貸す様に言われた衛兵さんに小声でそう言ってくれた。
大金なので気遣ってくれたのね。
衛兵さん達が敬礼をして命令を聞いてくれたみたい。
「「了解致しました!」」
と、元気良く答え、敬礼する衛兵さん達。
「では、ルイス嬢。四日後、屋敷でお待ちしております。」
「またな、嬢ちゃん。」
何事も無かった様にそう言って、レガイア様とアレックスさんは馬車と一緒に屋敷の方へ帰って行った。
「ありがとうございました!」
そう言って頭を下げ二人の背を見送る。
その背が遠くに見えるようになる。
しまった、アイツの許可も無く約束を取り付けてしまった!
「どうしよう、勝手に受けてしまったわ。さすがのアイツでも困るわよね?」
アタシが困っているとベスが近づいてきた。
手を握って来る。
「商売も上手く行ったし・・・ヘファさんとルイス姉なら大丈夫よ・・・。」
と、親指を立てて元気づけてくれた。
そこに、アリスとリズとマオが近づいて来た。
「大丈夫なのですー?」
「ルイス姉、御昼御飯だよ?」
「食べれば元気が出ますよ?」
アンタ達は先に食べていたでしょう!
と、思って顔を見ると三人共心配顔だった。
「フウッ」と溜息をつくと三人を抱きしめ、これでもかと順番に頭を撫でる。
落ち着いたアタシにリズが肉串の入った袋を差し出してくる。
冷めてしまった肉串をベスと食べる。
意外と美味しかった。
緊張で気づかなかったけれども、お腹は正直だった。
食べていると少し元気が出て来た。
話を思い出し纏めてみる。
もしも、アイツを召し抱えたいとかの話だったらとアタシは不安になる。
でも、アイツにはチャンスかもしれないわよね?
そうすると、この生活も・・・。
考えているとベスが言って来た。
「ルイス姉・・・顔が青くなっているわよ・・・大丈夫・・・?」
自分の顔を触り「え?、本当?」と言っていると皆が心配そうに声を上げる。
「「「本当です。」」」
不安が顔に出ていたのだろう。
その不安を吹き飛ばす様に、この子達はー!
と、皆を抱きしめる。
今日は大成功だったわよね?
あ!
帰りに銀行に入金しないといけないわね。
と、気を取り直し皆で片付けをしてから、待たせてしまった衛兵さん達と銀行へ向かった。
売り上げはいくらになったのかも気になったんだけれど、それ以上に何故か心地良かった。
空になった箱と現金の入った袋を乗せた荷車を引いていたら、やり切ったとの思いで心の中がいっぱいになっていた。
足取りも軽く北通りに向かう。
銀行へ行き入金する為だ。
しばらくして、無事に銀行に着き、中に入ろうとすると二人の衛兵さんが挨拶して来る。
「「自分達はここまでであります、お気をつけて!」」
敬礼をした衛兵さん達はそう言って南通りへと去って行った。
「ありがとうございました。」
そう言って衛兵さん達を見送る。
そしてリズとマオに荷車を任せて銀行内へ入る。
「入金」と書かれたカウンターの前に順番に並び待っていると感じの良い女性が対応してくれた。
身分証を求められたのでギルドカードを手渡す。
「担当の『レヴィア』と申します。本日はご利用ありがとうございます。ルイス様でございますね、それでは入金致しますので現金をお願い致します。」
と、言われたのでパンパンの皮袋を合計三十二個を持って来る。
荷車から三人で何度かに分けて持って来た。
これ、アリスには重いのではないだろうか?
「ルイスちゃん、重いのですー!」
「頑張って、アリス!」
レヴィアさんが何事もなくお金を袋ごと魔道具へ入れる。
結構重量のある袋を片手で持っている。
見かけに寄らず力持ちなのね。
しばらくすると金額が出て来るみたいね。
待つこと十分程かしら?
もっと長く感じるわ。
そうすると売り上げ金額が出た。
「全部で銅貨6000枚、大銅貨900枚、銀貨60枚、小金貨18枚、金貨9枚、でございますね。」
レヴィアさんがそう言って来た。
うーん・・・。
正直倒れそうだった。
いや倒れたかったわ。
右を見るとベスが固まっている。
左を見るとアリスがどうしたの?
と、言う顔でアタシを見ている。
「これで入金を致しますが、高額の入金の際は手数料を頂きますので御了承ください。手数料は一律で大銅貨一枚です。両替も出来ますので必要な際は御利用下さい。」
レヴィアさんがそう言っているが、アタシはいっぱいいっぱいだ。
「お願いします!」
「かしこまりました。それではそのまま入金させて頂きますね。」
と、言ってギルドカードを鉄の板に置いたの。
ジッと見ていると魔法陣が板から上がって来たわ。
魔法陣が無くなったわね。
「これで入金が完了致しました。何かご不明な点はございませんでしょうか?」
「お願いします!」
「お客様、そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ?」
「お願いします!」
・・・
気まずい空気が流れたがレヴィアさんは微笑んで対応してくれた。
「かしこまりました、またの御利用をお待ちしております。御来店ありがとうございました。」
私の顔は真っ赤になっていただろう。
途中から「お願いします!」としか言っていなかった記憶しか無いわ。
震える手でカードを受け取り括りつけてある皮紐を首にかける。
もちろんカードは服の下に入れているわ。
一日にして凄い御金持ちになってしまった。
うん、夢ね。
これは夢と思っていたが、両手から伝わる温もりが夢では無い事を教えてくれた。
右手のベスがいつになく寡黙だ。
きっとアタシと同じように考えが纏まらないのだろう。
左手のアリスは何があったのか分からなかったのだろう。
でも、笑顔だった。
重い足を何とか動かし、二人を伴って銀行から外に出る。
外で待機していたリズとマオが近づいてきた。
「「どうだったのー?」」
と、聞いてくるが答える気力が無い。
「お金が沢山手に入ったの・・・。」
ベスが二人にそう言ってくれた。
「良かったねー!」
「やったね!」
「頑張ったのですー!」
リズが言うとマオが指を鳴らして喜んでいる。
アリスも喜んでいる。
皆、頑張ったわね。
しかし今日は驚きの連続だわ。
アイツのせいね!
アイツのせいにする事しか今の私に出来る事は無かった。
疲れたわ。
もうベッドに寝っ転がりたいわね。
けれどもまだ仕事があるのよ。
「もうひと頑張りしましょうか・・・。」
疲れた体と心に鞭を打って商業ギルドへ向かった。
三人は元気で晩御飯の話をしているみたい。
アタシとベスだけは足どりが重かったわ。
皆で荷車を返しに商業ギルドへと向かった。
受付に行くと担当をしているというナナリーさんに会う事が出来た。
一部がものすごく目に留まった。
・・・アタシより凄く大きかった。
アイツは大きい方が好きなのだろうか?
珍しい奴だわと思いつつ、大きくなってきた自分の胸も見る。
これ以上大きくならないでねと思う。
アイツに、あの人に嫌われたくないのよ。
そんな事を考えているとナナリーさんが話しかけて来る。
「貴女が「ヘファイストス様」の「商売」のパートナーさんですねー。」
「商売」を強調して笑顔で言われたので不思議に思いながら謝っておく。
「あの人がいつも迷惑をかけて済みません。」
そう言って頭を下げる。
「気になさらないで下さい。いつもの事ですので。ふふっー。」
気さくな人なのかなと思っていると顔を寄せて小声で聞いてきた。
『露店で何かございましたかー?』
アタシも小声で返す。
『ああー、色々とー、あはは・・・。』
その様子を見たナナリーさんが厭きれた様子で言って来る。
「ヘファイストス様ですものねー。」
「そうなんですよー。まさか完売するとは思わなくってー!アハハ・・・。」
「え!?か、完売ですかー!?」
ナナリーさんが固まっている。
さすがに驚くわよね。
「ええ、完売です。」
アイツから露店に何を出すのかを聞いていたのかもしれない。
「そ、それはおめでとうございますー!」
「ありがとうございます!」
「やっぱり只者じゃないですねー。」
ナナリーさんがそう言っているのが聞こえた。
「こちらでも何かやらかしてるんですか?」
「色々と、その何と言うか、規格外的なー?」
その後もアイツの事を二人で話したの。
同じ境遇の話し相手が出来て嬉しかったわ。
荷車の返却処理が終わる。
「また、お話をしに来て下さいねー。」
ナナリーさんがそう言ってくれたので返事を返す。
「また来ます。ありがとうございました。」
そう答えるとギルドの時計は十六時二十分だった。
しまった、ギルドに来てから三十分近くも経っている。
外にあの子達を待たせているんだったわ!
急いでギルドから出た。
皆は退屈だったのだろう。
「「「長かったねー。」」」
そう言われたので謝る。
「ごめんね。」
ふう、今日は心身共に疲れたわ。
さっさと宿屋へ帰りましょう。
今日はぐっすりと眠れそうね。
皆で晩御飯は何だろう?
と、喋りながら宿への帰り道を歩いて行く。
一の月の風は冷たかったけれど、心の中はかつて感じた事のないほど暖かかったの。
私はこれからもこんな日々が続くとい良いなと思っていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
ブックマークも増えて喜んでおります。
次話 初めての冒険(仮 でお会いしましょう。
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。