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灰かぶりの姉  作者: 吉野
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5年ぶりの再会


営業本部長、矢野聡一郎


営業1課より、主任・北条 智。

以下、江藤 和希、門馬 直人、田嶋 翔。


技術部より主任・今西 悠香、営業補佐兼任。

以下、主任補佐・野口 航平。


総務部より原沢 美里。


経理部より国枝 那月。




発表されたプロジェクト「Zero」のメンバーを目にした瞬間、口がポカンと空いてしまった。


北条さんも今西さんも、名を連ねるとは聞いていたけれど。

まさか…そこに航平まで参加しているなんて。



——聞いてない!


いや、本部長にしたら私にそんな事を言う必要、ないのだろうけど。

よりにもよって、初顔合わせの日にそれを知るだなんて。



プロジェクトに参加するにあたって、私の籍は経理に残したまま、席だけ新しくプロジェクト用に区切られたスペースに移動する事になっていた。


特に引き継ぐ事などはないので、デスク周りは綺麗に片付け、持っていく備品や私物などはダンボールに片付けてある。

後はZeroのスペースに運び込むだけだ。



なの、だけど…。


今更ながら、航平とこれから毎日顔を合わせる事になると言う事実が、完全に動きを止めてしまった。


「あれ?国枝さんまだ行かないの?

確か9時半から初顔合わせ兼ミーティングじゃなかった?」


経理部でも最古参の、課長がそう声をかけてくださった。

時計を見ると、9時12分。

時間に余裕がある訳じゃないけど…。




——行きたくない!


今更だけど、そんな悪あがきのような事を考えてしまう。

往生際が悪いとゆづに叱られそうだけど…それでも、今から航平に会うという心の準備は、まだ出来ていなかった。



「これだけいる人の中から選ばれたんだから、頑張っておいで」


「…はい、行ってまいります」


けれど事情を知らない課長に促され、しぶしぶ経理のスペースを離れる。



なんせ現役営業本部長の肝いりで始まる新プロジェクトだ。

別に社運がかかっている訳でも、何でもないけれど注目度は抜群だ。


ダンボール箱を抱えて歩く私に、視線が集まっている気がする…のは、自意識過剰だろうか。



「国枝さん、おはようございます。

総務の原沢です。

台車に荷物乗せてください、一緒に行きましょう」


総務の脇を通る際、中から出てきた女性に声をかけられる。



「原沢さん、あなたもZeroの…」


「ええ、よろしくお願いします」


備品と思しきファイルや紙類の箱を避け、スペースを作ってくれたので、お言葉に甘えて台車に荷物を乗せてもらう事にする。


「ありがとう、こちらこそよろしくお願いします」



聞けば原沢さんは私の1つ下で、入社してからずっと総務にいたのだという。

経理と総務は隣のスペースで、交流は殆どないものの毎日視界には入っていたのに…彼女の事を全く認識していなかった。

というか、彼女に限らず誰に対しても興味がなかったという事なのだろう。


自分の視野の狭さに恥じ入るばかりだ。



人事や経理、総務のフロアから、エレベーターで1つ階を上がる。

そこは営業のフロアであり、Zeroのスペースが置かれる事になっていた。



「ナツ!原沢さん、こっち!」


何故か、エレベーターを降りたところにゆづがいた。


営業3課の脇を通り、台車を押す原沢さんの後をゆづと並んで歩く。

新しく作られた、キャビネットで区切られたスペース。

あの奥まった所がZeroのスペースなのだろう。


「ゆづ、どうしたの?」


「んー?何が?」


何故人事部の彼女がここに居るのか、訪ねたのにすっとぼけた顔でシレッと返すゆづ。


伊達に付き合いが長い訳ではない。

こういう時のゆづは決して口を割らない事を、身を以て知っているので問い質すのは後だと表情を引き締める。



「お!いるいる、みんな揃ってるね」


楽しそうなゆづの声に、そちらに目を向けると…。


そこには5年間、片時も忘れた事のない航平がそこに居た。




その瞬間、時が止まった気がした。



——変わってない…。

のに、一回り大きくなった気がする。


雰囲気も以前はもっとシャープで、どちらかといえばとっつきにくい感じだったのに。

今は人当たりの良さそうな、それでいてどこか一歩引いて人を観察しているような目をしている。



私の視線に気がついたのか、航平が顔を上げた。


視線が、絡み合う。

実に5年ぶりに顔を合わせた。


目に見えない火花が、チリチリとぶつかっている気がする。




——目が、逸らせない。

こんなにも、会いたかったのか。

こんなにも…。



「野口さん、お久しぶりです。

こちら、総務の原沢さん。

原沢さん、こちら技術の野口さんです」


そんな私達の間に割って入るように、ゆづが互いを紹介する。

私の事を紹介しないゆづに、原沢さんは不思議そうな顔をした。



「あ、初めまして。

原沢です、よろしくお願いします」


けれどソツなく挨拶する原沢さんに、ぎこちなく頭を下げると、航平はこちらを向いた。


「な…」


「お久しぶりです、野口さん。

これからよろしくお願いしますね」


我ながら頑なというか、木で鼻を括ったようというか。


もう少しまともに話せないのかと思うけど、名前で呼ばれるのだけは避けたかった。

何としても…。



今、名前で呼ばれたら、みっともなく泣いてしまう。


航平が本当に戻って来たのだと…今更ながらに実感した。

と同時に、胸の奥に押し込めて見ないふりをして来た5年分の想いが、今にも溢れそうになって密かに焦る。


出口を求めて暴れる感情が爆発しないよう、両手をきつく握りしめ、深呼吸して何とか落ち着こうと試みる。


でないと…何を口走るか、自分でもわからなかった。




——ここは職場。

そんな事をしている場合ではないのだと、自分に懸命に言い聞かせる。



声が震えないよう、細心の注意を払い頭を下げる。

意地でも目は合わせなかった。

でないと、目が潤んでいるのがバレてしまうから。


台車に乗せてもらったダンボールを抱えあげ、瞬きをして涙を散らす。

そして他のメンバーの方へ歩きだした。



後ろで、ゆづのため息が聞こえた気がしたけど、断固として聞こえないふりをした。


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