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灰かぶりの姉  作者: 吉野
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初めての◯◯〜綾香〜


高校2年になって、初めてちゃんと彼氏が出来た。



“ちゃんと”って言うと、ちょっと違うのかもしれない。

お付き合いにちゃんとしたものと、ちゃんとしてないものがあるのか、それはわからないから。

なんせ私にとって、彼は初めての恋人(ヒト)だから。


けれど、必要以上に育った胸のせいで変な目で見られたり、嫌な思いを散々してきたので、それまで男子とまともに話した事がなかった。


もちろん、そうでない子も居たのだとは思う。

でも小学校6年の時に初めてブラを着けた頃から、みんなの視線が胸に集中するようになった。

それは、気のせいでも自意識過剰でもない。



あれは忘れもしない修学旅行の晩。

みんなでお風呂に入り、部屋に戻る途中男子グループとすれ違った。


ブラは一応着けていたけれど、なんせ寝る前、しかもお風呂上がり。

Tシャツにジャージの薄着で、身体の線はほぼ丸わかりだった。

男子の視線はあからさまに胸にくぎ付け。

しかも一部の男子に「胸でけー」「乳揺れてる!」とからかわれ、思わず唇を噛み締めたその時。



「いくら綾香ちゃんの胸が大きいからって、ジロジロ見過ぎ!」


「ちょっと~私達と綾香ちゃんと見比べないでよね」


仲が良いと思っていた子達の、半笑いのその言葉は、私にとって完全にトドメだった。


言葉だけ聞けば庇ってくれてるようにも聞こえるけれど…。

でもからかう男子をたしなめるフリして一緒になって笑っていると、そう感じた。



胸が大きいと言われても、そんなのそうなりたくてなったんじゃない。

背が高いのも低いのも変わらない。

胸の大小も、自分の努力だけではどうにもならないものだから。


だいたい、一部の女子には羨ましがられるけど肩は凝るし、制服のブラウスはパツパツだし、走ると揺れるし、ジロジロ見られるし。

その上、胸が大きいというだけでエロいとか言われるし。


はっきり言って、胸はコンプレックスでしかない。



別に胸元のボタンを必要以上に開けてもないし、スカートだって標準よりちょっと短いかもしれないけど、お尻が見えそうなほどでは決してない。

せいぜい膝丈だ。


もちろん誰も何も誘ってない。


逆にどちらかといえば、それ以降男は苦手だ。




話が逸れたけど、初めてお付き合いする事になったのは、引越ししてから同じ電車に乗るようになった他校の男子だった。



胸が大きい事のもう1つの弊害。

それが電車内で変な人に絡まれやすい事。


その時も、比較的混んでいた車内で父親よりも年配であろうおじさんに「触らせてくれたらお小遣いあげるよ」と囁かれ、咄嗟に固まってしまったのだけど。

隣にいた彼が「俺ですか?」と言ってくれたおかげで、おじさんはそそくさとその場を離れた。


「あ…りがとう、ございます!」


「いえ」


その時は会話も続かなかったし、どこの誰なのかもわからなかった。


わかったのは、やたらガタイが良くてちょっと強面だという事と。

制服の胸に刺繍されていた、校名のイニシャルだけだった。


* * *


1回意識してしまえば、彼を見つけるのはそう難しい事ではなかった。


何といっても背が高い。

そんじょそこらの高校生より、頭半分くらいは抜け出ている。

肩幅も胸板もガッチリしていて、明らかに身体をちゃんと作っている人だ。


切れ長の目は眼光鋭く、顔つきもシャープとか繊細とは遠い感じだけど…見るからに男らしい。

4日目には彼を見つけ、ちゃんとお礼を言う事もできた。



「その節はありがとうございました!

ちゃんとお礼も言えなくてごめんなさい」


「いや…」


相変わらず会話が続く事はなかった。

けれど同じ方向を向いて、ただ並んで電車に揺られているだけで、不思議と居心地は悪くなかった。



そして、顔見知りとなった彼と私は、毎朝顔を合わせるたびに挨拶を交わし、隣り合って電車に揺られるようになった。


「大地くん、おはよう」


「…おはよ」


少し照れたように短く言葉を交わすのも、もういつもの事。


会話は途切れがちだけど、尋ねたらちゃんと返してくれるし、私の胸をジロジロと不躾に見るような事を彼はしない。



何よりも不器用だけど優しい。


満員の電車で、どちらかといえば背の低い私はギュウギュウに押されて息苦しさを感じるのだけど、ふと気がつくと大地くんが真っ赤な顔して盾になってくれてる事がある。

しかも、頻繁に。


電車内だけでない。

外で会うようになると、ごく自然に歩くスピードを合わせてくれるし、車道側を歩いてくれる。


口数は少ないし無愛想だしパッと見は怖いんだけど、見た目に反して細やかな心配りをしてくれる。



それは私に限った事ではない。


妊婦さんや年配の方に、席を譲るのは当たり前。

困っている人には、時に自分が損したり約束に遅れそうになっても手を差し伸べる。



なんか良いな。

良い人だな。


そんな想いは、あっという間に恋心に変わっていった。




告白したのは私から。


彼は真っ赤な顔をして、キョロキョロと落ち着かなさそうに辺りを見回し、やがて観念したように1つ頷いてくれた。


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