レミシアル山脈
数日後ーーー。
平野を歩き続けた裕太達の目の前に巨大な山脈が姿を表す。
なだらかな傾斜の高さ8000メートル強のその山は横にどこまでも広がりあたかも行き先を邪魔をするかのように見える、裕太の目にはそれが山脈ではなく巨大な丘に見えるだろう。
高さ4000メートル付近まではかろうじで森になっており、高くなればなるほど木々はまばらになっていき一定の地点で岩肌が露出したゴツゴツとした山岳地帯へと変貌している。
「これがレミシアル山脈か……なんで言うか馬鹿でかい丘みたいだな」
「私もはじめて見るけどここまでおおきいとは思わなかったわ、よくよく考えてみればここひとつで生態系が形成されてるんだから当たり前だけど」
「まだ到着したわけではない、ここから上まで登る」
「それで上まで登るのにはどんくらいかかるんだ?」
「普通に登ったら二日三日はかかる、でも裏道を使えばもっと早く着く」
「裏道?」
「うん、レミシアル山脈内の洞窟を通って行く」
「なるほど、それじゃあ早速そこまで案内してくれ」
「うん、わかった」
三人はフェミルを先頭に道なき道を進んで行く、そうすると山脈の入り口にあたる部分に洞窟がある。
「ここから上に登れるのか?」
「上まで繋がっているルートがある、山脈上部を通って行くのはモンスターもでるし時間も掛かるしあまり効率的ではない」
三人は洞窟の奥へと進んで行く。
洞窟の内部は暗く、そして湿っぽい。
ミリスが下位級の魔法、灯を唱え辺りを照らしながら進んで行く。
「そう言えば裕太、剣は折れていた」
「嗚呼、確かにそうだな」
「なら丁度いい、ここをずっと先に進むと炎人族の町がある、そこで武器を調達すると良い」
その話を聞いてミリスが口を開く。
「炎人族ってあの炎人族?」
「うん、そう」
「へぇー、山脈内部に住んでいるって噂は本当だったんだ」
「なぁ、炎人族ってなんなんだ、フェミルみたいなのの逆バージョンか? ってか洞窟の中に住んでんのかよ……」
「だいたい当たっている、山脈内部には巨大な空洞がいくつもあって、蜘蛛の巣状に広がっている洞窟に行くつも連結している、炎人族はその空洞内に集落を作ってて
そして彼等はドワーフと肩を並べるほど鍛冶に秀でている」
「成る程、そこでこの剣の代わりの武器を作って貰えって訳だな」
「でも炎人族は認めた相手以外には武器は作らないんでしょ? 鍋はともかく」
ミリスの記憶が正しければ炎人族は鍋やフライパンはともかく武器は認めた相手にしか作らないと言う風習がある。
昔武器を大量に発注しに行った商人が余りにも無礼な態度だったらしく切り殺されたと言う話は有名だろう、鍛冶の腕だけではなく頑固さもドワーフに劣らないのである。
「そこは問題ない、炎人族に仲の良い知り合いがいる」
「氷人族と炎人族は仲悪いイメージあっんだけどそこのところはどうなのよ?」
「それはただの噂、実際は仲は悪くない、むしろ良い、氷人族は鉄を精錬できないから炎人族から相当量輸入してるし」
「そうなのね、ずっと仲が悪い物だと思ってたのに……実際は全然違うのね」
「世の中なんてそんなもん、悪魔種の混血の貴方ならよく分かってるはず」
「そうね、それもそうだったわね」
ミリスはそう言い苦笑する、よくよく考えればそんなの自分が最も知っていた事だ。
そして三人は20分程度足を進めると開けた空間へと出る。
高さが平均して50メートル、奥行き800メートル、横が100メートル程度の巨大な地下空洞だ、地下空洞内は壁や床がぼんやりと発光しておりそこまで暗い訳ではない、フェミル曰く発光石と言う特殊な鉱石が多様に含まれているかららしい。
おそらくフェミルの言っていた山脈内部に無数にある巨大空洞の一つだろうと察する。
空洞内部は三段の崖のようになっていて、裕太達が出てきた洞窟の穴がある上段はかなり狭くちょっとした広場程度の広さしか無く中段へと降りる石造りの階段だけがある。
中段は最も広く空洞内の七割を占める、石造りの家が並び赤髪の緑眼の人種がちらほらと見え、端の方には畑のような物が見受けられ見たこともない赤い大きな実がたくさんついた野菜が植えられていた。
人口的には100〜200人程度だろう。
下段は溶岩で満たされており炎人族の住居群を紅く照らしている。
「ここが炎人族の町なのか?」
「そう、正直暑いから余り長居はしたくない」
「そんな暑いか?」
洞窟の道中と比べればかなり気温は高く少し暑いと感じる程度で日本の夏に比べれば大したことはない程度だ。
「氷人族は繊細……」
フェミルはほんのりと怒りの感情をあらわにし愚痴るように裕太に言う。
「少し機嫌を悪くしたか? ごめん、悪気はなかったんだけどな」
「別いいけど、早く下へ行こう、熱気は高いところに篭る……」
「嗚呼、それもそうだな」
三人は石造りの階段を降りていった。