旅路
裕太達は廃れかけ草原と戻りかけている旧街道を進んでいた。
野獣邸を出発してからは何処までも続く草原を歩いていた。
フェミル曰く半日ほど歩けばクシア村に着くらしい。
「にしても長いなー、馬だと楽だったんだけどな」
「馬は高いから無理」とフェミルは軽く受け流す。
「ギルドから借りれないのか?」
「私用で借りられるわけがないでしょ?」
「まぁ、それもミリスの言う通りだな、にしてもこの道良く見てみると本当に廃れてるな、半分草原に呑まれてるし」
「こんなモンスターが多発する道なんて誰も使いたくないわよ、昔は整地された道がこれしか無かったから仕方なく使ってたけど」
「わざわざモンスターが多発する地帯に街道作るか……? 普通」
「この街道が作られた頃はモンスターなんて居なかったのよ、でもここの平野は北東にずっと進むと神聖リユニオン帝国領まで続いていて元々そこに複数の亜人部族やモンスターが蔓延っていたのよ」
「それがこっちに移動してきたと?」
「えぇ……大規模な兵力を展開して聖帝領内のモンスターやら亜人やらを放逐して追いやったのよ、そしたら向こうの平野はここに繋がってるんだから必然的にこの辺りに集まるでしょ?」
「なるほどな、でもそんな事してレイアール王国は聖帝に文句を言わなかったのか?」
「無理無理、聖帝の国力は膨大、レイアール王国如き中小国家が逆らえないのよ、実際この国なんて聖帝のほぼ傀儡国家だしね……」
「そんなもんなのか……まだこの世界の情勢が分からないからなんとも言えんのだけどな」
それから裕太達は2時間ほど草原を歩き続ける。
辺りは殆ど視界を遮るものは無く何処までも平地が続いている、何かあるとしたら時たま見かける樹木程度だろう。
「にしても、景色が一向に変わらないな……」
「そろそろ、休憩を入れる? 時間に余裕はあると思われる」
「えぇ、そうね、流石に私も疲れて来たわ」
ミリスはそう言うと近くにあった岩に腰を掛ける。
それを見た裕太とフェミルも歩くのをやめ座り込む。
「ふぅ、体は疲れないんだが精神的に疲れるな」
裕太は虚無に愚痴り掛ける。
「にしてもモンスターに出会さわないわね、この辺ならオーガの一体二体出てきても良いはずなのに……」
「確かに私もこの道を前通った時は何度か襲撃された、言われてみれば今回はそれがない」
「一体どう言うことなんだ?」
「分からない、でも可能性としてはドラゴン見たいな強大なモンスターが辺りにいる、だから他の奴らが近づけない……とか?」
ーーードラゴンは特殊な能力や強大な身体能力を併せ持つ巨大なモンスターである。
ドラゴンは蜥蜴に似た容姿を持っているものが多いが、蜥蜴などと侮っていい存在では無い。
その環境適応能力の高さから世界中のあらゆる厳しい環境体にも生息しており、多種多様な種族が存在しそのどれもが何かしら特殊な能力を併せ持っている。
最弱の竜種とされる獣竜でさえAクラス冒険者チームに匹敵する強さを誇っている。
更に最上位のドラゴンとなると一国を一夜にして滅ぼしたとされる黒き邪竜、更には人間と同等の頭脳を持つ聖創龍などが挙げられる。
特に聖創龍の中でもオフル=ファルデガーナ・ニンブルと言う個体は魔神の一人を討ち取ったり200年前に降臨した転移者の一団を壊滅させ今現在では大陸の外れにあると言う竜人族の大国に住まわっているという生ける伝説である。
しかしドラゴンは繁殖能力が低く個体数はそもそもそんなに多くない上、人が住う地域にはあまり姿を現すことがないのでフェミルははその可能性は少ないと考える。
確かにフェミルの故郷であるレミシアル山脈には多くの氷龍が生息しているが繁殖期を除きお互いに故意に近づく事はないのである。
「でもドラゴンと言うことは無いと思われる」
「それじゃあ、あの空にたまに飛んでる奴はドラゴンじゃ無いのか? ほら、あれとか」
「それはワイバーン、見た目はドラゴンに似てるけど力は遠く及ばない下位種、Cクラスの冒険者であれば充分に勝てる見込みはある」
「あの少し大きめの奴は何なんだ?」
「ワイバーンにも大きさに個体差が……」
フェミル青々とした空を見上げる、雲一つない青空に数体のワイバーンが旋回している。
しかしワイバーンは酷く密集し何かに怯えているかのように飛行している。
そしてその付近にワイバーンのそれより一回り大きい影が空を飛んでいる。
ソレは段々と姿が大きくなって行き、此方に急降下で迫っているのをその場にいた全員が理解する。
「嘘……あれは……ドラゴン⁈」
その巨大な影だった物は裕太達の眼前数十メートル先に風邪を巻き起こしながらも降り立つ。
その風圧は凄まじく、裕太達は吹飛ばされそうなる。
中でも特に小柄なフェミルはその場に倒れ込んでしまう程である。
暫くして風が止み、正面を見る。
ーーーそこには体長10メートル以上の巨大な身体、浅黒い艶のある鱗に鋭い目、獲物を噛み砕く為に発達した太く鋭利な二重の歯が口元にずらりと並んでいる。
翼と腕が遂になっているワイバーンとは違い、腕と翼が別々に存在すると言う生物学的にありえない構造も持っており、目の前のそれがドラゴンであると何よりも強く証明している。
「嘘……でしょ……?」
ミリスとフェミルはその光景に酷く驚愕していた、そして同時に死を覚悟する。
数多の英雄が万全の準備を整え挑み、儚くも敗れ去って行くのがドラゴンである、Bクラス相応の実力しか持たずましてや代償で魔力が枯渇している自分では只死を待つしか無いのである。
「黒龍……何で? この辺りには生息していないはず……」
フェミルは青ざめ酷く震える。
この中でもドラゴンの恐ろしさを一番知っているのはフェミルだ、フェミルは両親や知人を何度もドラゴンに殺されているし殺されかけてもいる、それ故にドラゴンに対する恐怖心は人の数倍も高い。
そして目の前にいるドラゴンは黒龍と呼ばれる龍種である。
主に大陸の中央部や人類生存域の北側に広く分布しており、小規模な町程度なら単騎で滅ぼす事すらできる力を持つとされ、Aクラス冒険者チーム程度なら勝ち目なし、Sクラスの冒険者でもサシでやり合うかはかなりキツい。
「グォォォォオオォォン‼︎」
黒龍は耳をつん裂くような咆哮をあげると最も先頭にいたミリスに鋭い鉤爪を振り下ろしてくる。
「……ッ……⁈」
ミリスは突然の出来事に咄嗟に手を構える、しかしその程度で竜の爪を防ぐことなどはできない、それ同時に刹那の時間に死を直感する。
「危ない‼︎」
剣を構えた裕太はすかさず振り下ろされた鉤爪とミリスの間に滑り込む。
それと同時に剣と鉤爪が合わさりキィンと渇いた音が走り、剣が真っ二つに折れる。
剣は数十メートル先までグルグルと空中を旋回し地面に突き刺さる。
それから察するに凄まじい衝撃だったのだろう、だが不思議なことに裕太は手が痺れたとか痛みがあるとかそう言う感覚は一切無かった、まるで小枝と小枝が軽くぶつかった程度にも感じてしまう程だった。
ーーーそしてそれがあの事を確信する。
「裕太‼︎ 早く逃げて……‼︎ 勝てる相手じゃない‼︎」
「いや……行ける‼︎ 言っただろ? 転移者の力が覚醒したかもしれないって」
「で、でもそれは……何の根拠もない可能性でしょ⁈」
「だけどさっきの攻撃で分かったんだよ、恐らく俺はこいつに勝てる……うん、多分、ね?」
裕太は後半少し自信が無くなり、目の前の巨大で凶悪なそれに戸惑ったがあの感触を思い出し再びそれ以上の自信が湧き上がる。
(行けるはず……いや……行ける、倒せる‼︎ 根拠は無いが俺の体と心がそう言っている‼︎)
「グガァァァァ‼︎」
黒龍は再び咆哮をあげると今度は裕太に向かって突進してくる。
裕太は強烈な突進を正面から受け止める。
これが軽自動車程度ならペシャンコになっていただろう、しかし裕太はびくともしない。
ドラゴンは距離を取り滞空する、恐らくは裕太は只者ではないと理解し様子を伺っているのだろう。
「さてと……」
裕太は徐にステータスを開く。
lV50
筋力277 体力308
魔力150 知力24
俊敏力196 精神力120
HP500 MP980
火系魔法90 支援系魔法90 死霊系魔法90 爆発系魔法90 回復魔法70 支援スキル90 攻撃スキル90 マーシャルアーツ90
自動HP回復 自動NP回復 異常状態耐性 ダメージマイナス補正 即死耐性
「これって相変わらずやばいよな……そりゃあドラゴンの攻撃も跳ね返すわ」
インビンシブルではステータスに10も開きがあれば一対一で勝利する事は難しい、たった1ポイントが物を言うゲームである。
裕太はドラゴンのステータスを確認すると裕太の半分にも達しておらず70〜80の間程度である。
単純に考えればここまでのステータスがあれば町の一つや二つは滅ぼすことは容易いだろう、しかし裕太には遠く及ばない。
「グォォォォオオォォン‼︎」
滞空する黒龍は咆哮すると裕太に向かい急降下する。
裕太はそれに向かい折れた剣を構える。
(取り敢えず……何か強そうなスキルは……?)
裕太は刹那の間にそう考えていると脳裏にあるスキル名が浮かんでくる。
―――その名は滅龍波斬、恐らく名前の通り龍特攻の効果があるのだろう。
そして裕太はその言葉に身を任せ、口に出す。
「滅龍波斬」
その瞬間、折れた剣に膨大なエネルギーが裕太の体から剣に移り変わって行くのを感じとる。
裕太は力を込め剣を振り下ろす。
それと同時に剣から赤黒い禍々しい衝撃波が放たれ黒龍に命中する。
「グガァァァァ‼︎……ツッ……」
波動は黒龍の鱗を容易く切り裂き、そのまま真っ二つに切断する。
血が、内臓が、砕けた骨のかけらが辺りの草原を赤く染め上げて行く。
「嘘でしょ……? 黒龍を一撃で葬るなんて……‼︎ まさか裕太が本当に転移者だったなんて」
「有り得ない……裕太にこんな力が……? これはSクラス……ううん、SSクラスの冒険者でも足りない…………英雄」
フェミルの脳内に英雄と言う言葉がスッと浮かび上がる。




