出身ー3
裕太達は食事を終え宿へと帰っていた。
帰り道ミリスを起こそうとしたがミリスはピクリとも動かず結局ミリスを担いで宿まで戻る事になった。
「着いたぞー」
裕太はミリスをベットへと下ろす。
ミリスの顔を覗いてみると酒に酔い頬が少し赤くなり熟睡していた。
「にしても、酒に酔った感覚がないな、もしかして俺って酒に強いのか?」
「いや、あそこの店の酒はあんまりアルコールが強くない、実際私もそんなに酔ってないし」
「なんでミリスはそんな酒で酔っ払うんだよ……弱すぎだろ」
「多分この人にあまりお酒を与えないほうがいい」
「たしかに、それには同感だ、それと明日はどうするんだ?」
「明日はクシア村に向けていく、それと結構距離あるからなるべく朝早く出発する」
「クシア村か……それなら少し前に依頼を受けに言ったぞ、確かあの先には街道が続いてない気がしたが」
「しばらく街道から外れて進んで別の街道で進んで行く」
「にしても、明日は早いんだろ? もう寝た方がいいんじゃ無いか?」
「それは私も思ってた、それじゃあ私とミリスが同じ寝台で寝る」
「そうしてくれると助かる、仮に俺が同じ床に入って朝起きたらまた変態扱いされるからな、勿論ほんとうにそう言うわけじゃ無いからな⁈」
「うん、知ってる、多分……被害者」
「ふぅ……よかったフェミルにまで嘘偽りのことを信用されてる方思ったよ,この人のお陰で,全く……悪い奴ではないんだけどさ」
「それは話しててわかった,でも何かを照れ隠ししてるような、そんな感じ」
「照れ隠しか……まぁ何かあるのかもな,思い当たる節も無くもないし、とりあえず、今日のところはもう寝よう」
「うん、それじゃあ……お休み」
そう言うとフェミルは蝋燭の灯を消す。
神聖リユニオン帝国ーーー聖都、エル=ファミリアに位置し、リユニオン帝国の唯一の方の執行機関、聖王庁。
聖王庁は0.462 km²の広大な空間を埋め尽くすように作られた巨大な複数の城である。
中心の大聖堂から放射状にそれぞれの機関ごとに一国の王の居城と言われても疑わない程の巨大な城が割り振られている。
聖王庁はそのような17の城から構築されている、その中でも全ての最終的な判断を下す権限を持つ四聖者に与えられた城であるミ=ラーシャ城は他の物が玩具に見えるほど立派なものである。
その豪勢さや聖者としての激務の為、聖者達は基本的にそのミ=ラーシャ城に住まう場合が殆どだ。
勿論四聖者の一人であるネフェリア・ハァザーも例外では無い。
ミ=ラーシャ城の一室に作られたネフェリア専用の部屋に二人の姿があった。
一人は白を基調としたベールの付いた修道服ともドレスとも言えぬ様な独特で美しい服を纏った金髪の小柄な半盲目の少女ーーー彼女こそが四聖者の一人ネフェリア・ハァザーである。
そしてもう一人は茶髪の長髪に白銀の鎧で身を固めた眼鏡をかけて知的な印象を受ける女騎士である。
「ネフェリアの送り込んだ第3課は現在レイアール王国に向け南進中らしいですよ」
女騎士はネフェリアを呼び捨てでそう呼ぶ、普通国家の最高権力の一角であるネフェリアを呼び捨てで呼ぶなどあり得ない行為である、だがネフェリアもその事を気にしている様子は無い。
「そうなの、分かったわ……それで、ウォルターはあの未知のモンスターをどう思うの?」
ウォルターと呼ばれた女騎士は返答する。
「私も目に来て事ないしわかりませんけど、数体程度ならなんの造作も無く蹴散らせると思います……ただ未知数故どうかはわかりませんけどね」
「千人斬りと言われた貴方がそう言うなんて珍しいわね」
「いえ……それは過去の話です、今はネフェリアに使える只の剣ですし」
「もしかしてまだあの事について思い詰めてるの?」
「当たり前です‼︎ ネフェリアが視力を失ったのは私のせいです‼︎」
「そんな事ないわ、ウォルターは何も悪くないもの、それに私も完全に盲目になった訳ではないし、ぼんやり輪郭くらいは見えてる訳だし、ね? それに私が聖王になればどうにでもなるじゃない」
「で、でも‼︎ 失ったのはそれだけではありません‼︎ 私は私が愚かなせいでネフェリアは……」
「はいはい、この話はお終い、そこまで悲観しなくてもいいから、私とて全てを失ったけどこの地位も膨大な魔力も変わりには到底なら無いけど慰めて程度には手に入ったしね」
ウォルターは暫く黙り込み、何かを考え込む、そして数秒の間をおいてその答えを出した様だった。
「すいません……この話は以後しないようにします」
ネフェリアはこのくだりを何回やった事かと心の中で呟きため息を吐く。
「にしても他の聖者達の連中は転移者の事で手一杯見たいね、そのおかげで私達が行動し易くなると言うものよ」
「はい、苦労して召喚した甲斐がありましたね、しかしあのまま放置すれば国が一つ消え去る可能性もありますよ?」
「そこは問題ないわ、最悪あれらがなんとかする筈だし……それとだけど、もうすぐ私は発掘都市のシルフ=バァファルへ向かうわ」
シルフ=バァファルはエル=ファミリアから南に500キロ離れた位置にあるレイアール王国の国境付近にある都市で人口は十万を超える。
シルフ=バァファルは発掘都市と言われている名の通り、地下に旧文明の遺跡が広がってりその発掘作業を生業とするもの達が集まり形成された都市である。
「しかしどうやって言い訳を付け聖王庁を抜け出すのですか?」
「そこをどうにかするのが私の仕事よ」
「確かにそうですね、護衛はこの私にお任せ下さい」
「勿論そのつもりだわ、正直貴方一人だけで十分だと思うけど?」
「いえ、私一人ではカバー出来ません、私以外に騎士団からAクラス相当を数名護衛に付かせた方が賢明でしょう」
「そうね、その時はよろしくね?」
「えぇ……」
彼女はもう二度とあのような失態を犯してはならないと心に強く刻む。




