昇格試験ー3
裕太達は野営準備の役割を分担して行う事にした。
マタイとファドルが薪集め、グランデとシリンダが簡易テントの政策、裕太のファミルは夕食の用意をする事になった。
最初は裕太も簡易テントの政策を行う事になっていたが料理ができるとの趣旨を説明すると夕食係に移された。
(このメニューで何が作れる……?)
裕太は目の前に置かれた食材をマジマジと見つめ考え込む。
この場にある食材は保存の効く乾パンの様なもの、人参、じゃがいも、玉ねぎーーーの様なものである。
それとたまたま薪を拾っている途中にファドルが仕留めた穴熊の様な生き物の斬殺したいである。
「カレーは無理だな、ルー無いし……」
裕太の脳裏にカレーが思い浮かんだが、いかんせんルーの作り方なんてわからないので、無理だろうとすかさず判断する。
「カレー? 聞いたことない、何処か遠くの食べ物?」
裕太の話が聞こえていたのか近くにいたフェミルが話しかけてくる。
「俺の地元の食べ物だよ、この辺では知ってる人も居ないみたいだけどな」
「それはどんな味がする? 作り方は?」
「まぁ色んな食材を入れて煮込むんだがカレールーって言う特殊な調味料を入れるんだ、まぁ味は……なんで言えばいいのかな? まぁ辛くて美味い」
「成る程、理解した、炎人族のアシュムルの様なもの?」
「さぁな、アシュムルがわからないからな、そもそも炎人族ってなんだ?」
「炎人族はレミシアル山脈内部の地下火山を勢力圏としてる種族、レミシアル山脈上部に住む私達氷人族とは対をなす者達のこと」
「ーーーえ?」
その言葉を聞いた時裕太の体に電流が通った様な感覚に襲われた。
「もしかしてフェミルは氷人族なのか⁈」
「そう、この白い肌が氷人族の証」
「だったらファミルの魔草とか持ってたりするか⁈」
裕太は無意識のうちに高揚しフェミルの肩を掴み揺さぶる。
「今は持ってない、私の部族に帰ったらあるかもしれない、でも無いと思う、需要が少ないからそもそも採取に行かないと無い……それと揺さぶるのはやめて欲しい」
「嗚呼、悪い」
裕太は腕を止め、肩から離す。
「つまりは親しい知り合いに悪魔種がいて何か病に侵されている、だからファミルの魔草が欲しいと言うこと?」
「そう言うことだ」
「私はDクラスに昇格したら一度私の集落に帰る予定だしその時に一緒についてくるといい、もしかしたらあるかもしれない」
「もしかしてフェミルの村まで連れてってくれるのか?」
「それは構わない、でも無い可能性の方が高い」
「無かったら取りに行くと言うのは?」
「やめといた方がいい、魔草の群生地はドラゴンのテリトリーで尚且つ今は発情期で気性が荒い、安全は約束できない」
「わかった、とりあえずフェミルの村まで連れてって欲しい」
「私もそれで構わない、帰り道は防寒着は持ってきた方がいい」
「嗚呼、そうするよ」
と言うかこんな運が良いことがあるのだろうか、いや一生分の運を使い果たしたのかもしれないなどと裕太は思う。
(まさか、こんな運が良いことがあるなんてな、流石に驚いた……)
その様な事を考えていた時、マタイとファドルが薪をたんまり抱え帰ってきた。
「ほら、これで一晩分の薪はあるだろ」
ファドルは一息つくと薪を地面に下ろす。
「何言ってんだ? 予備の薪を取ってくるぞ」
「えぇ、また行くのかよ……」
「ほら、行くぞ」
マタイはファドルを引っ張って再び薪採取に連れて行く。
「これで火が使えるな」
「それで何を作る?」
「うーん、スープにするにしたって味付ける物ないしな……」
「だったら良いものがある」とフェミルは懐からオレンジ色の石の様な物を取り出す。
「もしかしてこれは岩塩か?」
「うん、私の集落の側ではこれが良く取れる」
「これなら、味付けには問題なさそうだし多少はましなスープが作れるな」
「野菜切るのは私に任せて欲しい、そこは誰よりも自信がある」
裕太はそこらへんの石を集め簡易的なカマドを作る、その上にマタイが持ってきた鍋を置き火を起こす、そして沸騰したところにフェミルの切った食材を火が通りにくい順に入れていく。
そして最後に削った岩塩を料理に加え完成だ。
「単純な料理だけど野営でこれが食べられるんだから上出来か?」
「うん、これくらいの出来なら上出来」
裕太は横に目をやるとシリンダとグランデが丁度簡易テントを製作していた頃だ、簡易テントは持参した布にあたりの適当さサイズの木の枝で支えた物だ。
そして丁度日も沈んできた頃で薪を集め終えたマタイとファドルも帰ってきた頃だ。
「おっ夜飯出来てんじゃん」
マタイとファドルが鍋の元に集まる、シリンダとグランデも作業を終えてくる。
「なんだこれ? 野菜と肉をお湯で茹でただけか?」
ファドルが不満そうに言う。
「ちゃんと塩で味は整えてあるよ、それに調味料が少ないんだよ、我慢してくれ」
「塩か……たしかに出来は悪くさなそうだしな、取り敢えず皆んな食べようぜ」
「そうだな、取り敢えず人数分に分けるぞ」
裕太はお椀に均等になる様によそい全員に配る。
その頃にはもう完全に夜になり焚き火の明かりがそこ一帯だけを薄明るく照らしていた。
「いただき」
最初にスープに口をつけたのはファドルだった。
「うんっ、塩で茹でただけかと思ったら丁度よく塩気が効いてて野菜も肉も柔らかいな……」
次に口をつけたのはマタイ、その次はグランデだった。
「確かに、ファドルが作ったスープよりは何倍もうまいな」
「少し塩は強めな気もするが疲れた体には丁度良いな」
「へぇ、そんな美味しいの?」とシリンダを口を付ける。
「美味しい……塩加減も絶妙でお店で食べる物に匹敵するかも」
どうやらスープの評価は概ね好評の様だった。
「フェミルは飲まないのか?」
裕太はフェミルがスープを口にしてないのを見て問う。
「氷人族は熱いものを食べられない、だから少し緩くなってから食べる」
「嗚呼、そうか」
本当は暖かいうちに食べてもらいたかったが種族的問題ならば仕方がないだろう。
「そういえばここのみんなは元々知り合いだったのか?」
「俺とファドルは元々同じパーティでな、他の皆んなは裕太と同じく先程出会ったんだ」
「なるほどな……」
裕太はふと気になりステータスを確認してみる。
全員のレベルは5〜10未満と言ったところでそこまで高い高いわけではない、フェミルがレベル17とかなり高い事以外は特に気になることは無かった。
「そう言えばフェミルちゃんは何で冒険者なんてやろうと思ったんだ?」
ファドルはスープをすすりながらフェミルに問いかける。
「外の世界を知りたかった、氷人族は閉鎖的で外に出たがらない、だから外の世界を知るには自分で行かないと行けない、それとついでに移住先になりそうな場所も探してる」
「なんで移住先なんか探してんだ?」
「最近ドラゴンの発情期の活動が活発化していていくつかの集落が飲まれてる、だから発情期の間どこか逃げれる場所を探してる、後神聖リユニオン帝国の特殊部隊も散発的だけど集落を襲撃しに来てる」
「まぁドラゴンは分かるがなんで聖帝の特殊部隊が村を襲ってんだ?」
「おそらく私達氷人族を非人間種と指定した……まぁ私達も迫害した側かされた側かの二択で言えばした側だからなんとも言えない」
裕太はその話を聞いて少しだけ不快感を覚える。
(あの国って何考えてるんだ? 人間以外の種族を片っ端から滅ぼそうとしてるのか? あんまりその国とは仲良くは出来なそうだな)
それからしばらくして食事を全員が食べ終わった頃だった。
「そろそろもう寝よう、とは言っても交代で二人で交代ずつで睡眠をとるでもいいか? 一応この辺はモンスターが出るしな」
「俺とマタイが組むとして後はどうする? 野営の時の係でいいと思うが……」
「それでいいと思うわ」
「んじゃ、最初に俺とファドルで構わないか?」
「それじゃあ、その次に俺とフェミルでいいよな?」
「裕太がいいなら私は構わない」
マタイはよしっと言うとその場を立ち上がる。
「それじゃあ最初の見張りは俺らに任せて寝てな、時間になったら起こしとくから」
「嗚呼、頼む」
裕太とフェミル、シリンダ、グランデはマタイとファドルの二人を置いて簡易テントへ向かっていった。




