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第六話 緊急会議

 日が暮れたところで、用事があるからと言ってジャンヌを宿に送り届け、俺達は城に急いで戻る。


「送り狼になるかと心配したぞ」


 エマが言うが。

 

「何を言ってる。そんな度胸も無いし、アレは相当なくせ者だぞ。絶対に、タダの司祭なんかじゃあ無いな」


 俺は腕組みをして言う。


「ふむ。確かに言われて見れば、前にうちの里に来た司祭よりはずっと賢そうだった」


「だろう? リリーシュがうっかり布教を許可しそうになったときには目の色を変えてほくそ笑んでたしな。アレは外交官か、それ以上のクラスだ」


「なるほどな。参謀クラスか?」


「だろうね」


 聖法国のトップでもおかしくないレベルだが、さすがに国のトップが護衛もろくに付けずにうろつかないだろう。

 俺はそう思ったが、エマが付け加えて言った。


「となるとアレは護衛だったか。少し後ろに腕の立つ男が二人、尾行していたぞ」


「うえ、トップの可能性もあるかなあ」


「あれが?」


「ま、とにかく、緊急会議だ。エマ、君も盟友と名乗ったからには、参加してもらおう」


「分かった」


「レム、みんなをアンジェリカの執務室に呼んできてくれるか」


「うん!」


 俺、エマ、レム、ローク、リリーシュ、アンジェリカ、そして国王とクロフォード先生も執務室に集まった。


「では、本日、聖法国の司祭が私に接触してきたので、ラドニール王国としてかの国にどう対応すべきか、話し合いたいと思います」


 そう言って俺が司会をやらせてもらうことにする。


「うむ。いずれ勇者に接触してくるだろうとは思っていたが……ユーヤよ、招聘(しょうへい)されたのか?」


 国王が聞く。


「いえ、それについてはまだ何も。まずは個人的な親睦を図りたい様子でした」


「なるほど、やはり一筋縄ではいかぬ相手のようだ」


 国王がため息をついた。まあ、いきなりやってきて「ちわーす、聖法国っす。レッツカモン!」なんて言ったら、たいていの人は断るよね。知らない国だし。

 そこはジャンヌも手順を踏める相手の様子。宗教家が周りからどう見られているか、知っているタイプだ。


「ええと、お父様、やっぱり、ユーヤは聖法国に取られたらまずいわよね?」


 リリーシュが確認を取る。


「当たり前だ。勇者というだけでもこちらの切り札なのに、その上、有能な軍師と文官だぞ? ユーヤが自分で望むなら致し方ないが、余はラドニールにおいて、この者はもはや重臣クラスだと思っている」


「そんなに……」


 随分と高く評価してもらったが、ま、勇者という肩書きがあるからな。


「身に余る光栄、ありがとうございます」


 一礼して感謝。


「うむ。私も陛下と同じ考えです。して、我が国の外交方針ですが」


 クロフォード先生が白いあごひげを撫でつつ話を進めた。


「ええ。現在、ラドニール王国は竜人族と防衛条約を結び、関係も良好な状態です。一方、竜人族と聖法国は……」


 アンジェリカがそこまで言って、竜人族であるエマの顔色を窺う。


「ハッキリ言って国交断絶、険悪な関係だ。あちらはどう思っているかは知りませんが、こちらとしては二度と入れたくない人物です」


 エマが説明するが、思った以上に悪いな。ただ、国では無く人物と言ったのは含みがあるし、その人物はジャンヌのことでは無いだろう。


「それは、ジャンヌのことなの?」


 リリーシュが聞いた。


「いや、あの司祭もあまり好きになれないが、前にうちの里にやってきた司祭のことだ」


「相当な無礼を働いたそうですね」


 すでにアンジェリカや皆にもその話はしている。


「その通りです。里の長老衆の心証は最悪と言って良いでしょう」


 エマが頷いた。


「では、ここで仮定の話ですが、ラドニール王国が聖法国と攻守同盟を結んだ場合、竜人族とラドニールの関係が著しく悪化することになるかと思います」


 俺は言う。

 外交でも友情でも、全員と仲良くできればそれは理想的だろう。

 だが、現実には、どうしてもそりが合わなかったり、敵対している者達がいる。

 敵を援助するような者だと、それまでどんなに仲良し同士であったとしても、今までと同じ関係ではいられないだろう。

 あちらを立てればこちらが立たず、八方美人で行こうとするとかえって上手く行かず、信頼すら傷つきかねない。


 エマの表情が難しく歪んだが、ラドニール王国が聖法国と自分達以上に仲良くするのはやはり不快ということだ。


「そうなるであろうな。心配は無用だ、エマ殿。我らの盟友は竜人族、そちらの心情を踏みにじってまで聖法国に近づこうなどとは思わぬ」


 国王がハッキリと明言してくれたが、エマもほっとしたようだ。


「ありがとうございます」


「なあ、それって、ユーヤはジャンヌと仲良くしないってことか?」


 レムが聞く。


「ま、そうなるな」


 ピンク髪の美少女だけに、一抹の残念さはあるのだが、俺は頷く。


「良かった! あの人間、嘘つきだからオレ様、好きになれない」


 レムが安心したように言うが。


「嘘つき? 何か嘘を言ってたのか?」


「うーん、何かってことはないけど、嘘つきは嘘つきなの!」


 レムが言う。


「それじゃ分からんが」


「待って下さい。上位竜ともなれば、人の心が読めるとも聞きます。そうですよね? クロフォード先生」


 アンジェリカがこの国一番の老魔道師に確認した。


「そうですな。レムはレッドドラゴンの上位種。心を読む術を知っているようでは無いが、何かしら心で感じるものがあるのじゃろう」


 先生が言うと、我が意を得たりと言わんばかりにレムが笑顔でブンブンと縦に首を振った。

 おっと、レムちゃんは心が読めちゃうのか……俺の穢れた欲望は気を付けた方が良さそうだな、くっ。



「司祭ジャンヌが嘘を言っているとしたら……かの国は何を企んでいるのでしょうか?」


 ロークが言うが、そこまではちょっと分からないな。

 皆も黙り込んでしまった。


「そこは気になるけど、今は情報不足だな。さて、ラドニールの方針ですが、次に聖法国の外交官がこちらに話を持ち込んできた場合にどうするかを決めておきたいのですが」


 俺は今後の方針についての意向を問う。


「攻守同盟や防衛条約は拒否。不戦条約をどうするかだが」


 国王が具体的にラインを示した。


「さすがにそれを断っては無用の戦争の危険も出てくるかもしれません。防衛条約を持つ盟友としては、ラドニールが聖法国と不戦条約を結ぶことについては異存ありません」


 エマが許可を出した。

 まあ、妥当なところだろう。仮にラドニール王国(オレたち)が聖法国から宣戦布告されたりすれば、防衛条約の取り決めにより竜人族(エマ)も戦争に巻き込まれてしまうからな。

 エマや竜人族が聖法国のことをいくら嫌いでも、相手は自分より大きな国家だ。さらにその上、軍事大国の『狼牙(ローガ)国』が同盟を結んでいるとなれば、戦争をふっかけたいとは思わないだろう。


 こちらにも味方の国がいるように、敵にも味方の国がいたりするから、その関係をきちんと把握しておかないとな。


「決まりね」


 リリーシュが笑顔で言う。揉めずに済んだ。


「では、次に、布教活動の自由についても話し合いましょうか」


 アンジェリカが次の議題を上げる。


「あー、ごめんね、姉様。私、深く考えずにジャンヌに布教の許可を出したみたいになって……」


「別に良いわよ。正式な外交の場では無かったのですからね。何を言おうとあなたの個人的な感想よ」

 

 ニッコリと。さすがは第一王女、外交はこなれてる感じだ。


「余も書面に署名しておらぬからな。向こうもそれを盾にとって来ることはあるまい」


 国王が言うが、そこは微妙な気がするな。何せ、あちらさんは宗教国家、信じたもん勝ちだからなあ。

 「神様がうちらと約束してくれた土地だからそこ侵略しまーす」と平気で言う国だってあるのだ。


「陛下、念のため、意思表示は早めにしっかりしておいた方が安全かと。新教については、布教を禁じるということで」


 俺が言う。


「ううむ、禁止か……」


 国王が躊躇するが、それくらいハッキリ言わないと、あの図太い連中は分かんないっすよ。


「ユーヤ様、それはこちらに敵意を向けられかねません。許可しない、遠慮して頂くという事で良いのでは?」


 アンジェリカが言う。


「うーん、そうですね。すでに新教を信じる民も少数ですが国内にいると聞いていますし、改宗や弾圧をやれというのもなかなか」


 俺は思い直した。

 痛めつけるとかえってハッスルして増え始めるという性質が宗教にはある。

 特に『殉教者』が新たな燃料、神になるのだ。


「よし、では、我が国では意に沿わない強引な勧誘活動を禁止、個人の信教と集会についてはこれまで通り自由とする」


 国王が決定した。

 これ以上増やさないということか。

 一定の自由を認めているので、特に問題があるとも思えない。


「「「 御意 」」」

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