第七話 学問のすすめ
――城の中庭。
大盾を持った兵士が隊列を組んでいる。全員、緊張した面持ちだ。
塹壕と土嚢も積んでの厳戒態勢だ。
土嚢の前には火に掛けられた大鍋が置かれている。
「じゃ、始めるぞ……」
革鎧を着込んだ俺はそう言って大袋から『とある爆発物』を取り出す。
それをおそるおそる大鍋にポイ。
すぐさまタタタッと土嚢を飛び越え隠れる。
「……何も起きないわよ?」
リリーシュが言うが、一分くらいは待たないと。
「まだだ」
しばらく待っているとバンッ!と大きな音を立ててそれが破裂した。
「「 おおっ! 」」
「きゃっ、な、なんで?」
「水蒸気爆発が起きてるんだ」
「ええと、水が熱せられて沸騰して蒸気になるわけね? 体積も膨らむ、か」
「その通り。水が気化したら1700倍で、およそ百トンの圧力が掛かる」
最近読んだクロフォード先生の論文にある研究結果だ。錬金術とは魔道だけでなく、化学や科学の知識も必要となる。
「……凄いわね」
「じゃ、食ってみろ。兵士の皆さんもどうぞ」
リリーシュと兵士がやってきて、その爆発物、白い塊をちぎって口に含む。
「あ、サクサクね」
「これがコーンですと!?」
「そう、これこそが、ポップコーン!」
俺は決めポーズを取りながら言う。
それをタイタンコーンでやってみた。元が一抱えの大粒品種だから、やあ、やっぱり凄いわ。鍋も吹き飛んで変形しちゃったし。
これだと、ちょっと調理は無理そうだ。
「ゴクリ……ユーヤ、あなたはこれを戦争で使う兵器にしちゃうのね?」
リリーシュが聞いてくるが。
「え? いいや。食べたかったから作っただけだけど?」
「え?」
「食べたかったから、作っただけ」
「……うーん、でも、威力が凄いんだけど」
確かに威力はあるが、しばらく熱する必要があるし、戦場に鍋を置いてそこに敵兵をおびき寄せるのも難しいだろう。
味方も危ないのでは兵器としては使いづらい。
「まあ、ポップコーンは取扱注意の料理だからな。蓋が必須!」
「そう……ちょっと味が薄いわね」
「塩を振ってくれ」
「あ、美味しいわね」
「いけますな」
「これにカレーパウダー版も作って、売りに出すか。普通のトウモロコシで」
「良いんじゃないかしら。珍しいし、おやつにちょうど良いわね」
食は文化である。そして文化は大切である。
人間はパンと水だけじゃ味気ないからな。
国民の幸福度を上げておくのは反乱を防いだり、生産力を上げるボーナスが付く。少なくともゲームではそうだ。
ま、ボーナスなんてつかなくても俺は豊かな食文化が欲しいからな。
「じゃ、事業化しよう」
街でヒマそうにしていたおっちゃんを捕まえ、鍋と油と材料を与え、作り方を教えてポップコーン屋になってもらった。
売り上げで次の材料が買えれば持続可能だろう。
ただ、そのおっちゃんに水蒸気が膨らむから云々と言ってもさっぱり通じず、「これはね、トウモロコシの妖精さんが熱くて怒ったんだよ」と言って納得させた。
やはり、学校が必要である。
かの日本近代化の父、一万円札の福沢諭吉先生も、仰っていたではないか。
学問のすすめだ。
まずは読み書きからだが、それは基礎に過ぎない。
小難しい字だけ読めて物事の道理が分からぬのでは「論語読みの論語知らず」である。
金にならない学問を修めても意味が無い。
国と自らを富ませる学問が必要だ!
「具体的に今、ラドニール王国に必要なのは……農学? 商学? うーん」
ま、俺はタダの高校生だものね。
ここは頭の良さそうな現地の先生に聞いてみるのが一番だろう。
「――と言うわけで、クロフォード先生、お知恵をお貸し頂きたく」
「ふむ、ラドニールの民に今、必要な学問か……この国の今年の目標、『農業に力を入れていこう』だったな」
「はい」
「では、今年は農業に関する学問と言うことで良いのではないだろうか。何を学ぶにせよ、読み書きは必須じゃな」
「そうですね。ひとまずはそれで」
ロークにも頼んで農業に関係する学者を集めてもらい、基礎の分野を教えてもらった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「動物はご飯を食べて成長しますが、植物は太陽の光を浴びて、光合成によって大きくなります」
城の一室を使い、黒板に簡単な図を書いて俺が説明する。
「せんせー、光合成ってなんですか」
子供の一人が手を挙げて質問する。
「光合成とは、二酸化炭素と水を、光の力で酸素とデンプンなどに変える事です。人間や動物は逆に、酸素を吸って活動し、二酸化炭素を吐きます」
みんな難しい顔をするが、この辺は俺もよく覚えてないから、適当でいいだろう。
大丈夫、光合成なんて知らなくても野菜は育つ!
「とにかく、野菜が成長するには光と水が必要です。分かりましたか?」
「「「 はーい! 」」」
次の授業では麦わら帽子のおじさんが説明する。現役の農夫だ。
「糞尿を三ヶ月くらい土に埋めておくと、発酵して肥料になるだよ。麦わらと油粕や、卵の殻もええだな。暖炉の灰も使えるべ。肥料は多すぎてもダメで、何度かに分けた方がええべ」
確か三大肥料は、窒素、リン酸、カリウムだったと思うが、何が窒素で何がカリウムかと問われると俺もさっぱりなのでこれでいいだろう。
化学肥料より自然な肥料がいいよね!
次の授業ではリリーシュが登場した。
「あっ! 姫様ー」
「姫様だ!」
「ひめたま、ひめたま!」
やっぱり大人気だな。
「はーい、みんなこんにちは! じゃ、この時間は私と一緒にスペルを覚えていきましょう! まず最初に、これは何かな?」
リリーシュが黒板に大きな文字を書く。
「剣!」
「はい正解! 凄ーい、やるわね!」
「えへへ」
子供の扱いも上手いな。
「これが盾で、これが女の子。そしてあれがロリコン」
リリーシュに俺が指差された。
「おい」
子供に何を教えてるんだ。
「ロリコンだ!」
「ロリコンー」
「やーい、ロリコーン」
「きゃはは」
くそっ。子供に小馬鹿にされるとは。
「小さい女の子はロリコンに近づいちゃダメよ? 分かった?」
「「「 分かりましたー 」」」
授業が終わった後は、ポップコーンの袋を配って子供達には帰ってもらった。
「絶望した……」
俺は席に座って力なく言う。
「ええ? 軽い冗談よ。それともなあに? 小さい女の子を遠ざけられてユーヤは何か問題でもあるの?」
腰に手を当てて挑発的に聞いてくるリリーシュだが。俺は首を横に振る。
「そこじゃないよ。教える才能って言うところかな。その点、君は何をやってもそつなくこなすなあ」
「ああ、ユーヤだってちゃんと教えてたじゃない。光合成なんて私も初めて知ったわ」
「俺は自分の故郷で教わったことを教えただけだし、半分も覚えてないな」
「それでも今のあの子達には充分よ、ユーヤ先生」
「ふむ、そっか、そうだな」
いずれ良い先生を見つけて専任の教師としてやってもらうつもりだが、今はこれでいいだろう。まだ基礎の基礎だ。
あと、ブルマと制服も作らないとね!




