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福岡産業大学では、海の日で、世間は休日と言っても、通常通り講義や定期試験は行われる。文音は、そんな大学に愚痴を飛ばす学生たちをかき分け、定期試験が行われる教室へと向かった。試験は資料類持ち込み可であったため、文音は余裕綽々で試験を解くことができた。それから文音は、良明と待ち合わせをしている自習室へと向かった。
自習室は試験期間中ということもあり、人でごった返していた。学生たちは口々にやばいという言葉をつぶやきながら勉強に励んでいた。試験は就職活動等がある4年生よりも、1年生や2年生のほうが格段に難しい。この大学は偏差値ほど低く、簡単に入れる大学であるが、単位習得は他大学よりもはるかに難しく、2年生まで約3割の学生がドロップアウトしてしまうのだ。学生にとっては酷な話であるが、これからの人生を考えるといい大学ではないかと、文音は考えていた。
文音は自分の姉はどうだったのだろうかと考えた。
西沢美夜古。この大学に負の遺産を生み出したことには違いない。
彼女の大学での成績は優秀で、常に学科主席として年度末に表彰されていたのを、当時高校生であった文音は知っている。高校までの成績が鳴かず飛ばずであった美夜古は、高校までと全く違ったものとなる大学の講義が合っていたのか、成績は急上昇した。
就職も日本有数の上場企業に内定をもらっていた。この大学よりも偏差値が高い大学の学生を蹴落としての内定に、本人が一番びっくりしていたはずだ。何しろ、4月の先行就職試験で内定をもらったのだから。
そんな彼女がなぜ、どうして5人もの人を殺したのか、文音の疑問は絶えず文音を苦しめていた。
「おはよう」
自習室に入って5分くらいたったころ、良明はやってきた。少し疲れているのだろうか、髪の毛は寝癖が立ち、跳ねていた。
「おはよう。何か、髪の毛、元気がいいね」
「ああ、朝、ちょっと寝坊してさ」
良明は照れたような笑みを浮かべた。思わず、文音も笑ってしまう、良明は、「笑わなくてもいいじゃん」と眉間にしわを寄せていた。
文音は、良明が本当に自分の姉のことを調査しているのか疑問に思っていた。もしそうだとしたら、良明を自分のことに巻き込んでしまうような気がしていた。しかし、良明に美夜古のことを打ち明けたのは文音であり、文音は複雑な気持ちで、ここ数日を過ごしていたのだ。
「良明くん。お姉ちゃんの事なんだけど…」
「俺は、信じてないよ。美夜古さんが全ての殺人を犯したなんて」
文音は、良明が本心からそのようなことを言っているのか、疑問に感じた。これは良明の優しさなのかもしれない。優しさから出た、良明の優しい嘘なのかもしれない。
「どうして、お姉ちゃんじゃないって思うの?」
「色々と、おかしな事があるんだ」
「おかしな事って?」
「女性1人では、不可能なこととか、殺人が起きた期間がエレギュラーなこととか」
良明は言葉を濁さなかった。もしかしたら、良明は嘘をついていないのかもしれない。文音が良明のことを思い起こせば、これは一切嘘などついていなかった。しかし、文音は自分の目で確かめたいと感じた。
「良明くん」
「何?」
「私も一緒に調べたい」
「ダメだよ!」と良明が強い口調で制止してきた。
「文音ちゃんは、人の死を考えると、倒れるかもしれない。PTSDが悪化するかもしれない」
「お願い。じゃなきゃ私…」
良明が目に手を当てて、声をうならせながら考え始めた。文音は優しい良明を困らせているのかもしれないと感じた。
「分かった。分かったから…」
「良明くん」
文音は、承諾した良明に向けて、「ありがとう」と言った。
「その代わりにさ、教えてほしいことがある」
文音は、良明が話したその要件を承諾し、明日から美夜古の調査に加わることになった。




