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殺人犯の家族が目の前にいる。この状況下におかれて、彼女に心無い言葉を浴びせる人もいるのだろうか。良明は秘密を打ち明けてくれた文音に、「辛かったね」という言葉をかける以外に、何をしてやることもできなかった。犯人の家族も、特にその家族の中で弱い立場にある人間は被害者だ。良明は警察官だった母親の章子にそう教わってきた。だから良明は、文音のことも被害者だという認識で見ることができる。それ以前に、彼女は良明の特別な友人である。
「私ね、お姉ちゃんが逮捕されてからは毎日が地獄だった。高校は退学になり、ネットでは人殺しの妹て言われた。警察の人が守ってくれたけど、中にはお前も何するか分からないもんなって言ってくる人もいた」
良明はただ、頷くことしかできない。
「それでね、裁判で加害者の家族として傍聴席にいたとき、お姉ちゃんが殺した人の写真を見せられた。お前も人殺しって言われてたから、私がやってしまったような感覚になった。それから、お姉ちゃんがその人たちを殺していた場面が何度も夢に出てきて」
文音の目から大粒の涙があふれ出てきた。良明は、その涙を見ると、いてもたってもいられずに文音の隣に座り、何度も優しく背中をさすった。
「それから、お母さんとお父さんは突然私の前から姿を消した。どこに行ったか分からない。私は、姉が殺した人の遺体の映像が、何度もフラッシュバックするようになった。精神科に入院して、PTSDって言われた」
「もう、話さなくていいよ。もう分かったから」
「良明くんは、私のことが怖くないの?」
目を真っ赤に充血させた文音が、良明の顔を見た。良明はそのか弱く見える文音の全てを、守っていかなければならないような気がした。
「全然、怖くないよ」
「ありがとう」
良明は、両手で文音の体を優しく抱き寄せた。
良明は文音の家で、夕飯を食べて帰ることにした。ひどく落ち込んでいるように見える文音を、あまり1人にしたくはなかったのである。文音とともに、近くの商店街に買い物に行き、カレーライスを作る具材を買い込んだ。その時文音は、この商店街がもうすぐで無くなるかもしれないという話をしていた。
都市開発の計画が進んでいるらしいということであった。都市開発は、現在の日本においては珍しいことではなかった。福岡産業大学の周辺地区でさえ都市開発を行っており、大学の周辺は学術研究都市として10年前に生まれ変わっているのだ。
しかし文音は、都市開発でこの商店街が無くなるのは嫌なことだと言っていた。良明はその言葉から、文音の優しい人間性を感じていた。
良明は、文音がご飯を作っている間はリビングに座って待っているようにと言われていたが、1人でさせていいものだろうかと感じ、少しばかり手伝おうとしていた。しかし、良明が卵割りをミスすると、「もう、良明くんは不器用だから何もするなって言ったの」と怒られてしまった。
そんなこんなでできた、文音特性のカレーライスはとてもおいしかった。良明が思わず、「おいしい」と言うと、文音は「やった」と微笑んだ。その微笑みが、美しくてかわいかった。
食事が終わると少し時間をおいて、文音は真剣な表情で姉の西沢美夜古について話し始めた。




