第二章③
案の定、田辺さんにかけた電話は、繋がらなかった。私はメモに書いた住所に行ってみることにした。 しかし、
「田辺さん、亡くなったんですか?」
大家さんは頷いた。
「何かの薬を飲んで亡くなったらしいわよ……。」
「自殺、ですか……?」
「さあ、そこまでは何とも……。」
この事態は予測できていなかった、といえば嘘になる。もし、田辺さんが罪の意識を感じていたとしたら……。それとも、秘密を守る為に上に殺されたか。この二つは私の頭の中にあった考えだ。
どちらにせよ、田辺さんはもうこの世にいない。せっかく見つけた希望はもうなくなりかけていた。
「荷物とかは……?」
「もう次の人が住んでて、廃棄しちゃったわ……。ごめんなさいね。」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございました。」
資料室に戻って、田辺さんの記事を探すしかないようだ。
資料室に入ろうとした私の肩を、誰かに掴まれた。振り返ると、そこには慌てた様子の上司がいた。
「おい!7件目だ!」
上司が興奮した声でそう言った。早い。ペースがあがっている。5件の事件ではみんな間隔が結構空いていた。特に最初から2回目の爆破までは1か月ほどの空きがあった。しかし、それ以降は、3週間、2週間、という風にどんどん短くなってきている。
「規模は?」
「それが……、負傷者はいない、ほんの小さな爆発なんだ。」
私は空いた口がふさがらなかった。上司の言っていることは、本当なのだろうか。もし本当だとしたら、私たちは完全に犯人に踊らされていたことになる。
犯人は大きな爆発を好み、無差別に犯行を起こす、そう考えられてきた。しかし、今の情報は根本から犯人像をくつがえすことになるのだ。私たちはとうとう犯人のイメージすら掴めなくなっている。
「今度はどこですか?」
「街中の道路に直径1mの穴ができたらしい。詳しい場所はここに書いてある。」
書類を受け取る。私はもう何が何だか分からなくなってきていた。
「どうして犯人だと分かったんですか?」
「残骸が全く見つからなかったんだよ。奴に違いねえ。」」
なるほど。かなり特殊な爆弾らしいので、犯人以外には作れないのか。
私たちが話をしているところに、別の警察官がやってきた。走ってきたらしく、息が荒い。
「8件目です!」
「何だと!?」
上司が目を丸くしている。私もきっと同じような顔をしているに違いない。
「規模は?」
「それが……、また直径2mぐらいの小さな爆発です。」
立て続けに爆発が起きている。しかし、止められない。犯人は私たちの目の前で、堂々と8件もの犯行をやってのけたのだ。国民はもう警察のことなんてあてにしていないに違いない。
ちらっと他のデスクを見てみると、ひっきりなしに電話が鳴っているようだ。
「8件で収まるといいんだけど……。」
それから小規模な爆破は計10件も続いた。怪我人は出たが、死者は出なかった。現場に行くのを他に任せた私は、資料室で田辺さんについての資料を集めることにした。今の事件よりも、晃の事件の方が、私にとっては重要な、そんな気がしたのだ。そこで隠されている秘密が、今回の爆破事件を解く手がかりになる。そう信じて、私はまた資料を探し始めた。
そして、私は意外な場所で田辺の名前を見つけた。それは、ある日の新聞記事の一面だった。その新聞記事のタイトルはこうだ。
『大発見!超形状記憶合金!』
東京の地下が発展することになった地震に強い構造、そしてそれに使われる金属。その研究者リストで、私は彼の名前を見つけたのだ。
超形状記憶合金。私には化学の知識はあまりないが、時に柔らかく、時に固く、そしてどんな形状に歪んでしまっても元に戻る、そんな金属らしい。これをある構造にしたとき、揺れをほぼ100%、吸収する。これにより東京の地下の発展はなされたのだ。
新聞記事に書いてあるのはその金属についての大まかな説明、そして弱点だ。
この金属は、ものすごい熱で、いとも簡単に壊れてしまうそうだ。しかし、今現在の科学で作られる熱の限界では、到底及ばない様な高温。実質壊れることはないらしい。
田辺誠也は、この研究に携わっていた。そして、あの銀行強盗事件。不審なアタッシュケース、それに爆弾。高温に弱い金属……。私はまた、ある仮説を思いついた。
金属を破壊する実験を行う為に、用意された爆弾。現代の科学では到底作り出せない高温を生み出すそれを、田辺は銀行に持ってきていた。
いや、わざわざ銀行に持ってくる理由がない。だとすれば、預けていたと考えるのが妥当だろう。何故預けていたのか、そして誰が預けたのか、開発者は誰なのか……。とりあえず、分からないことは保留にしよう。
田辺は実験に使うその爆弾を取りに来ていた。預かったそいつを受け取った所で、強盗がマシンガンを使い脅し、銀行は占拠されてしまう。田辺の不審な大きさのアタッシュケースに興味を持った犯人は、田辺にそいつが爆弾であることを聞き、これは使えるぞ、しめしめ、と爆弾を設置した。そうして晃と私が突入した……。
突拍子すぎるだろうか。しかし、これしか私には思いつかない。そして、これが真実だとすれば、上が隠したい秘密とは、きっとこの爆弾のことだ。
現代の科学では及ばない、超高温を生み出す爆弾。世に出ないオーバーテクノロジーの技術。これを秘密裏に国が、またはどこかの研究機関が作っているのだとしたら……。警察の資料改ざんは、その秘密を守る為に行われたのだろう。上の者には口封じをして。
そして、今回の事件。犯人が使っている爆弾は、本当に残骸が残らない特殊な爆弾なのだろうか。もし、そのオーバーテクノロジーな爆弾をどこからか手に入れ、使っていたとすると……。
上からの圧力で、私たちは爆弾にすら触れることができないだろう。残骸は私たちが来る前に上の連中が回収してしまっているのかもしれない。
捜査が進まないのは、まさか、このせいなのでは……?
国は自分たちの技術の為に、国民を見殺しにしているのだ。なんという自己中心的な奴らだろう。私は自分のどこか奥底から、ふつふつと怒りが湧き上がってくるのを感じた。許せない。なんとしてでも、この事件を止めなくては。そして、国が行った隠蔽工作と、その危険な技術を暴かなくてはならない。
この仮説を証明するためには、どうすればいいのか。上司にこのことを喋ることは、危険極まりない。 あいつは、秘密を隠していた側の人間だ。うかつに喋ると、私はすぐに消されてしまうだろう。それか、精神を病んでいる、妄想癖がある、とか言われて精神病院に送られてしまうのは目に見えている。
結局、私は一人で捜査するしかないみたいだ。今ある情報を最大限に活かして、何か手がかりを、物的証拠を見つけなくてはならない。
そういえば、あの時……、私たちが突入した時、犯人は誰かと電話で話をしていた様だった。そして、その電話は爆弾の起爆装置だった。つまりあの電話は、田辺誠也のものである可能性が高い。携帯自体はあの時の爆発でなくなってしまったが、どこかに通話履歴が残っているかもしれない。これは、調べてみる必要がありそうね……。
あと手がかりになりそうなのは、田辺たち研究グループのリーダー、小野正平ぐらいだ。実験に使う爆弾を手配したのは、きっと彼に違いない。彼にも、一度会ってみる必要がある。
とりあえず、今私にできることはこれぐらいのようだ。私は早速携帯電話会社全てに電話をして、田辺という男の通話履歴が残っていないか聞いた。電話会社は、調べるのに少し時間がかかる、折り返し電話します、と言ってくれた。これで履歴が残っていれば、相手が誰かわかるはず。
その間に、ちょっと小野に会いに行こうかしらね。
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すいません、ミスがあったので少し訂正しました




