viii――切ッ掛けは、些細なこと
切ッ掛けはいつも些細な綻び。
ミアは空を飛翔しながら〈妖精〉を次々と切り裂いて、ロジャーは地上(海上)から撃ち落とし、皆の眼には一見連携が成功しているように見えた。
しかしスズシロはそうは思えなかった。初めて見る戦いにしても、それでも何かが変だ。
ミアは一度海面につき、そして〈妖精〉の密集する所に、勢いよく飛ぶ。それを見てロジャーははっとしてすぐに追う。ミアが回転しながら左右上下の〈妖精〉を次々とバラバラに細かくして魚の餌にする。後ろから敵の気配、ミアは振り向いて向かおうとした所に――バシンッと視線の先の〈妖精〉がロジャーに撃ち落とされる。ミアは眉間に皺を寄せて気に入らないという風にロジャーを睨みつける。ロジャーは平然と狙いを変えて引き金を引く。ミアもすぐさま切り替えて空を駆ける。
ぴんとスズシロの頭を擡げる不安の形。すぐさま二人に通信を入れる。
「おいロジャー、ミアに近付き過ぎだ。それじゃ却ってミアの動きを制限する」
《つってもよ、あの馬鹿が突っ込み過ぎてこっちゃいてもたってもいられねえってわけだよ》
事務的な口調を崩すロジャー。注意しようとした所にすぐさまミアからの通信が割り込む。
《おい馬鹿ッ! お前の都合で他人のせいにするなッ!》
《お前が悪い。平気で背中を取られて、危なっかしいッたりゃありゃしねえンだよ》
《私の〈突偽〉は索敵に能力を割り振っているから、後ろを取られた所で問題ないッ!》
「馬鹿、馬鹿、喧嘩してる場合じゃねえだろ。先ず間抜け(ロジャー)、オタンコナス(おまえ)が行動を狭めている節がある。もっとトンマ(ミア)の能力を信じろ。それに阿呆も確かに前に出過ぎだ」
《《だってこの馬鹿がッ!!》》
「だーもう! この馬鹿二人は!!――」
「〈妖精〉二十体、前線を突破しました!!」結衣菜の優しい怒号。
スズシロの嫌な予感が見事的中。無論、まったく喜べない。
《了解、迎え討ちます。蓄電量の確認をお願いします》
すぐさま直人の凛々しくも冷静な応答。
……あれ、コイツこんなに頼もしかったっけ?
「蓄電量は八十二%、性能は全電量(蓄電率百%)時の九十三%です」
《了解、全力でいける》
結衣菜の報告を受け、直人は手を前に組み、すうっと息を吸うと、青色に光る水飴の様なものが手に現れ、それを念入りにコネコネ捏ねる。
そして指を開き、四方八方にそれをばら撒き、一旦後ろへと下がる。
そこに〈妖精〉が接近。直人を見付けると小隊を分け、三分の一が直人の許に向かって――空中で体が細切れにされる。
空中全体に蜘蛛の巣に張り巡らされた青い強力な糸が、勢いよく迫って来た〈妖精〉の体の端々(はしばし)にまで引っかかり、非常に細い糸に、非情で非常に高い圧力が掛り、その体をいとも簡単に切り裂いてしまった。
空中に張り付いた様に動かないそれは、直人がすっと手をかざすと、瞬時に張力を失ったようにだらりと垂れ、地に落ちてやがて消えた。
見事な手際に素直に感心するスズシロ。すぐさま通信を入れる。
「あれ、お前そんなに器用だったっけ?」
《調子いいですよ、この新型。思ったよりも動き易い。……なんかお二人にばっかり目が行ってそうなんで、ちょっと頑張ってみました。惚れ直しました?》
「ば、ばか、恥ずかしいじゃないッ! なんてこと言うのよ、もう、皆が見てるじゃない!!」
《……》
「……おいコラ、黙るな。お前の方から振ったんだろ? 最後まで乗れよ」
《…………スズシロさん、疲れたまってませんか? あんまり無理しないで下さいね》
「よォし、帰ったら三発な」
《あぅ……》
直人は深い嘆息の後、きりッと目尻を上げてギュッと手を握り拳を作って〈妖精〉に突撃。
スズシロも溜息をついた後、こちらを見てクスクスと笑う声と周囲の視線に気付いて、少し軽口が過ぎたことを反省。こほんと咳払いすると、職員達はそそくさと真面目に作業に戻った。
眦で、ちらりといくヱの姿を確認。口を真一文字に結んだままじっと黙っている。
「……注意しねえのかい?」
「……あなた方にはあなた方のペースがあるでしょうし、無為にそれを崩すのは得策ではないでしょう」
「ほう、そうかい、そりゃあいい。話の分かる方でこっちゃ大助かりですよ。さッさと追い付いてくれよ、兎さん」
スズシロはいくヱに睨みつけられるより速く視線を逸らしモニターを見つめなおした。
してやったりという笑みを浮かべて。




