19 新たな一日
微妙な眠気が残る朝。僕は一人静かに登校していた。勿論時間はギリギリだ。このまま歩けば、予鈴の1分前ぐらいに着くだろう。なんて完璧な時間調整なんだ、と自画自賛したくなる。昨日は色々と面倒事に巻き込まれた。結果的に悪くはなかったが、それでも目立つことは好きではなかった。晴翔と友達になるということは目立つことと同義な気はするが、流石にあの境遇で僕まで断るのは気が引けた。
とはいえ、今日何も無かったかといえば嘘になる。一応、今朝、晴翔から一緒に登校しないかとメールが来た。僕的には彼女と登校したほうが良いと思ったし、実際そう進言したのだが、しかし古谷さん側も「初めての友達だしねー」と認める雰囲気だったそうで、メールだけでも一緒に登校しようという確固たる意思を感じられた。だけど、僕は徒歩で、彼(と古谷さん)は電車である。僕の家はお世辞にも駅に近いとは言えないし、双方直接学校に向かったほうが早いのだ。
しかし諦めない晴翔は、少しでいいから一緒に下校しよう、と提案してきた。僕も下校ならいいか、と認めようと思ったのだが、残念なことに問題が合った。それは、僕の部活だ。テニス部は週7休み無しの超ブラックな部活である。更に練習時間も長く、土日に一日練がよく入る。どの曜日でも、僕らテニス部が学校を出れるのは7時過ぎから8時前。対して晴翔はその高身長を活かし、バスケ部に所属しているが、比較的緩い部活ということもあって1時間以上待たせることになってしまう。
幾度ものやり取りでようやく一緒に登校も下校も難しいことを理解してくれたので一安心だが、晴翔は家まで来そうだなぁ、という不安を拭うことはできなかった。
学校に着き、教室の扉を開けると待っていたと言わんばかりのスピードで
「おはよう、優!」
と声をかけてきた。僕はそれに若干気圧されながらも
「おはよ」
と返した。
ただ挨拶をしただけなのに女子が睨んでくるものだから、友達として挨拶だけでなく雑談などをしようと企んでいそうな晴翔のことを考えるとなんともなかったはずの胃がキリキリ痛んだ。僕は胃薬を常備したくはないので、早々に対策を打つことを決めた。
それにしても、晴翔が女子と喋るとは思えないが、挨拶しただけであれでは休み時間中彼と談笑したりすると僕はどうなってしまうのだろうか。嫌な想像に背筋に悪寒が走った。
「晴翔」
僕は意を決して話しかけた。上機嫌な晴翔にする話では無いと思うが、これは僕のクラスでの居場所をキープする上で重要なことなのだ。
「どうした?」
「もしかして、僕と一緒にお昼食べよう、とか思ってたりする…?」
ここで、「流石に茉白と食べるよ」と言ってほしかったのだが
「そのつもりだけど?あ、僕と二人きりがいやなら茉白も呼ぶ?」
「えっ…」
こいつは僕に男女の嫉妬を独占しろって言いたいのか。しかし、譲るつもりはなさそうだったので一先ず受け入れることにした。
「でも、条件がある。頼むから、教室外にしてほしいんだ」
「それはいいけど…どうして?」
晴翔は僕の意図を読み取れなかったらしく、不思議そうに聞き返してきた。
「なんで、って。晴翔、君は顔が凄い整ってるんだよ。自覚ある?」
「まあ、それなりには…?」
「やっぱりわかってなさそうだね…まあいいや。えっとね、晴翔が古谷さんと付き合ってることを公言しないせいで、君に惹かれてる女子から嫉妬をくらうんだよ」
「…?公言してないとはいえ噂は広まってるし、俺等が否定しないことも相まって公言してるようなもんだろ」
「そう思いたい気持ちはわかるけど…噂が流れてるかあぁ残念って諦められるほど人間は素直じゃないんだ。本人たちが直接認めるまで信じないと思うよ。ああいう輩は自分に都合のいい側面しか見ないから」
「…そうなのか。それなら、仕方ないな。少し面倒だが人がほとんど来ない場所にあるベンチを知ってる。二人で座っても余裕はあるし、いい穴場なんだ。そこで食おう」
「了解、でもなんでそんなの知ってるんだ?実際に人が来ないかなんてそこにいないとわからないだろ?」
「ああ、それはな、俺等の噂が流れる前、あまりに女子がウザかった時があって隠れ場所を探してたんだけど、その時見つけたんだ」
イケメンならでは悩みを聞かされて、人気が高いのは高いので厄介なんだなと思わされた。




