突如のスカウト
夕暮れの街並みを、ももかは制服のスカートを揺らしながら歩いていた。今日も部活はサボったし、帰り道にある小さな商店街で特売のパンを探すのが唯一の楽しみ。
「ふぅ、今日のパンは何かな…?」
角を曲がったその瞬間、目の前に異様な建物が現れた。
見た目は普通のビルなのに、壁に大きく「kawaii研究所」と金色の文字が浮かび上がっている。まるでライトアップされた舞台のようだ。
ももかは一瞬足を止めた。
「え、こんなところに…? いつからあったんだろう…」
引き寄せられるように建物の入口に近づくと、ガラスの扉が勝手に開いた。
「……え?」
中から、妙に甲高い声がした。
「君こそ、我が研究所の萌え人材!!」
ももかは驚いて後ろに飛び退き、通りに置いてあった看板にぶつかる。
「うわっ!? ちょ、ちょっと痛いんですけど!」
声の主は、白衣を着た男性――桜井教授だった。顔は真剣そのもので、でも目の光はどこか危うい。
「君、萌えの才能を秘めている! 我が研究所でその能力を科学的に解析しないか?」
ももかは口を開けて固まる。
「え、才能…? 私、ただの普通の女子高生ですけど…」
「関係ない! その天然さ、ドジっぷり、そして笑顔――すべてが研究対象に値するのだ!」
ももかは眉をひそめた。
「……いや、無理です。普通に帰りたいんですけど」
しかし、桜井教授は身振り手振りで熱弁を続ける。
「君がこの研究所に来れば、世界中の恋愛ギャグ理論を一気に進化させることができる! さあ、来るのだ、ももか!」
「……え、名前どうして知ってるんですか?」
「知っている! 我が研究所の萌えデータベースに君のプロフィールは登録済みなのだ!」
ももかは頭を抱えた。どうして私の高校生活は、こんな方向に行ってしまうのだろう…。
とりあえず、無理やり手を引かれ、研究所に入ることになった。
中は異世界のようだった。壁一面にはカラフルなモニターが並び、そこには「萌え指数」「胸キュン度」「恋愛ドジ率」など、見たこともない指標が表示されている。
「わ、わぁ……」
ももかは目を丸くした。なんだかアニメの世界に迷い込んだみたいだ。
そこへ、もう一人の人物が現れた。先輩研究員・桃瀬りくだ。
「……また新人か」
ももかは一目でクールそうな雰囲気を感じ取った。長い黒髪を一つにまとめ、冷たい瞳でこちらを見ている。
「……えっと、先輩ですか?」
「ふん。研究所では、感情よりデータが大事だ」
なんだか怖い。けど、どこか…ドキッとする。ももかは自分の顔が赤くなっているのに気づいた。
「いや、私、赤くなってないです…ただ、夕日で…光の加減で……」
「うるさい」
ももかはまたしても噛み合わないツッコミに頭を抱える。しかし、りくの冷たい態度に、なぜか心臓がドキドキしている自分に気づいた。
桜井教授はそんな二人を気にも留めず、机に置かれた「萌え分析器」を指差す。
「さあ、君の才能を早速計測するぞ! まずは天然度からだ!」
ももかは恐る恐る装置に手を置く。すると、ピピピッと音が鳴り、モニターに「天然MAX」「ドジ指数120%」と表示された。
「え、そんな…」ももかは思わず顔を手で覆う。
「素晴らしい! これぞ、天性の萌え力!!」
桜井教授は満面の笑みだ。
りくは冷静にモニターを見つめ、「……なるほど」と一言。ももかは思わずその声にドキリとする。
その瞬間、ももかの視界の片隅で、ピヨ助という小さなロボットが転がるように登場。
「ぴよぴよ! 萌え指数、乱れています!」
「わ、わわ!? ロボットまで…!」
ももかは逃げるように後ずさるが、またしても装置にぶつかり、研究所内は小さな爆発音とともに煙がもうもうと立ち込める。
桜井教授は拍手をしながら叫ぶ。
「これぞ、萌えドタバタ実験の初日! 大成功だ!」
ももかは煙の中でむせながら、「あ、私…普通に帰りたいんですけど…」と小さくつぶやく。
りくは目を細め、モニターを指差して小声でつぶやく。
「……この新人、面倒くさいけど……ちょっと面白いかもしれない」
ももかはその言葉に反応する余裕もなく、次のトラブルに巻き込まれることも知らず、研究所の扉の向こうに立ち尽くしていた。




