任期満了したよ
その日、目が覚めると森の中に僕は居た。
疲れた訳でもないのに何故か大木の根本で座り込んでいた。
長い長い夢を見ていたらような気がするけどボンヤリとしか思い出せない。
自分の名前はシリウス。
歳は…アレ?何歳だったっけ?
ココは、ん?何で僕森に居るんだろう?
ボーッとした思考で空を見上げて深呼吸してみる。
あぁ、そっか。
ダンジョンマスターの任期完了したんだっけ。
やっと思い出してホッとする。
天使から任期完了を言い渡され、ダンジョン都市としてパワーズは色々安定していてパニマ様が気に入ったとかでダンジョンマスター不在でもシステムが残る事になった。
と言われた。
多分眷属たちが管理する事となるらしい。
そして僕は現在12歳程の姿で大木の根本に寄り掛かって居たようだ。
いつもの擬似世界に有る世界樹の様な大木だった。
だが何かが違う。
森のざわめき、風の運ぶ森独特の土と草の香り。
擬似世界に感じられなかった生き物の命の気配が有るような気がする。
「ふふ、正解ですよ。
ココは外界。
ダンジョンマスター達の擬似世界空間から出た私の木の下です。
まああの空間の真上辺り、とでも思って置けばよろしいかと。」
びっくりして声のした真横を見ると、柔らかな笑顔を向けるとんでもない美青年が僕の顔を覗き込んでいた。
パッと見18〜20歳位。
髪の色は新緑から深緑にグラデーションしてる腰ほどの長いストレートの髪が光を纏ったようにキラキラしい。
身長は180前後位かな?
体格は華奢でも屈強でも無い細マッチョで、白い法衣を纏っていた。
ポカーンと見上げた後、
「どなたですか?」
とついつい聞いてしまう。
でもこの気配、初めて会う気がしないのは何でだろうか?
「世界樹の精霊の分体…世界樹の子供の一人ですね。
まぁせっちゃんとでもお呼びください。」
「ええええええ?!」
びっくりしてついつい大声で反応してしまう。
てかせっちゃんって何さ。
ノリがめっちゃ軽いな。
「ふふふっ、ダンジョンマスターのお勤めご苦労様でした。これからこの世界で生きて行く為の知識は既にその新しい身体に刷り込まれて居ますから、私からはこの世界で生きる為の選別の物を差し上げます。」
こちらをどうぞと渡されたのは良くありそうなリュックサックの見てくれをしたアイテムBOXだった。
中には数年は困らない劣化しない衣服、武器防具、食料、キャンプ道具、お風呂道具、洗剤、灯り、世界地図、身分証、お金などなど、本当に有難い物ばかりだった。
しかもアイテムBOX含め、お金や食料と言った消耗品以外僕以外盗んでも使えず僕の所に戻って来るセキュリティっぷりだった。
「こ、こんなにも至れり尽せり…よろしいのですか?」
オロオロ躊躇してしまう。
だがせっちゃんさんはいい笑顔で、
「ダンジョンマスターの任期完了特典、とでも思って下さい。
ダンジョンからダンジョンマスターは長い年月出られません。
ある意味監禁に近い閉鎖された苦しい期間を頑張られ永らく耐えたのです。
ささやかですがご褒美は必要だと思いますから。
お受け取り下さい。」
「あ、はい。」
笑顔の圧、プライスレス。
「ここから南に抜けると砂漠地帯に、北に抜けると氷山に、東に抜けると農耕地帯に、西に抜けると海に出ます。
この森は結界があるので魔物は出ませんが人も神の加護持ち以外は入れませんから盗賊などもおりませんから安全です。
ですので好きな方へとお進み下さい。
あ、そうそう。
森を進みながら自分に向いたスキルや武器魔法やキャンプの張り方などを、少し練習してから森を出ることをオススメします。」
せっちゃんさんの説明で、色々方針を決めて行く。
身体がまだ弱い子供なので、安全性が高そうな農耕地帯から巡ることにする。砂漠や氷山は流石に厳しいだろうからね。
「じゃあ僕そろそろ行くとするよ。
色々ありがとうございました。」
ぺこりとお辞儀。
「うん、じゃあねシリウス。
良い人生を!」
さっちゃんさんはブンブンと手を振って見送ってくれた。
僕はその後森を出てから農耕地帯の国で、冒険者ギルドと商業ギルドに登録した。
まぁ身分証は有るけど、折角の異世界だから世界を巡ろうと思う。
それなりのスペックの身体を折角頂いたから、それなりに戦えるみたいだ。
勇者のような強さはないが、一般人よりはちょっと強い感じらしい。
なので、まさに無茶をしなければそれなりにってやつなのだ。
色々やってみないと向いていることも分からないしね。
15歳になる頃、僕は移動商人みたいな冒険者になっていた。
どうにも戦闘より商売の楽しさに目覚めたのだ。
20歳位になった頃、貯めた時間で小さな雑貨屋を始めた。
ポーションや魔道具を作ったり。
時々冒険してアイテムの材料を時前確保したりして色々楽しくやっていた。
途中で仲良くなった人を婿にして結婚したり、子供を三人くらい作ったりして孫が出来た位迄長生きした。
お店は有名店とかにはならなかったけど、そこそこ常連が出来た、我ながらいい店だったと思う。
50位で大往生したけど、その後は何度か転生もしたらしい。
まぁらしいっていうのは、転生した記憶が無かったから仕方ない。
死後パニマ様に言われるけど、転生するたびに記憶忘れてるから本当わからないんだよね。
何度転生しても、過去を覚えていたら新しい人生に邪魔だと思うんだ。
だから僕はどうも毎回記憶リセットを頼むんだそうだ。
僕らしいねってパニマ様に毎回言われる模様。
有る転生時、凄くキツい雰囲気の天使がパニマ様の横に居た。
「馴染み方と今度の転生時期が重なります。運が良ければ再会出来るでしょう。」
どんな知り合いなのかよく分からないけれど、うなづいておいた。
何でかな?条件反射?
プルプルしてしまう。
パニマ様はちょっと苦笑してたな。
その馴染み娘達と再会し保護育成、何故か結婚までするのは別の話。
この世界で普通に生きれるようになって、僕は幸せを感じられるようになった。
地球で得られなかった幸せは、魂を研磨洗浄浄化されたから得られたのかは分からない。
でも、地球よりはこの世界でしっかり生きられていると、まぁ思うよ。
まぁ多少の小さなしくじりは、完璧では無い僕はどんな世界でもやからしそうだけど、それもご愛嬌だよね。
さあ今度はどんな人生にのかな?
おわり
永らくお待たせしました。
シリウスの話はこれにて終了です。
ありがとうございました。