出発
結果として、どちらも変わらなかった。
村人にとって魔法もスキルも人生で1度か2度見るか見ないかのもので、どちらも珍しいことには変わらないのだ。
だが、発見したこともある。
これまではスキルを発動する度、'スキル'と口に出していたが、出さなくてもスキル名だけで発動することが分かった。これで、スキルを魔法と誤魔化すことが出来る。
「いやはや、魔法とは如何様にしてなるものでしょう。これ程摩訶不思議なものを見ることになるとは思いも知りませんでした。是非ともこの村へ永住頂きたいところですが…強くは言いますまい。」
心配しなくともこの村は大丈夫だ。
スキルと魔法の練習も兼ねていろいろと土をいじってきた。教えはしないがな。これ以上引き止められると厄介だ。
下手なことをしなければ向こう100年は良い作物が育つだろう。
「村長、私の意思を尊重して下さりありがとうございます。私はこれから長い間待たせている恋人を迎えに行かなくてはなりませんので。」
そう、長い長い時を待たせている。
「長い間とは如何程?」
「1000年。」
「1000年!?1000年と言いますと、長寿の種族でいらっしゃったのですね。お伺いしても宜しいですか?」
ん?まさか気づいていなかったのか…
「いや、こちらこそ失礼しました。私としては気づいていらっしゃるものだと思っていたもので。」
「と、おっしゃいますと?」
「この額の鱗です。私は竜人族なのですよ。」
俺の額には竜人族特有の鱗がある。
額だけではなくて、背中の鎖骨当たりには無数に。
飛ぶ時にはそこから羽が生えるのだ。
「ほう、竜人族!いやはや気づきませんでした。てっきり人族の方だと思い込んでいたものでして。失礼しました。知らなかったとはいえ、何か失礼なことなどはありませんでしたでしょうか。」
「いえいえ。快適でしたよ。」
じゃ、そろそろ行くか。
「ではそろそろ。」
「いえいえ。大したお礼も出来ず申し訳ありません。貴方様の道中の安全をお祈りしております。」
ここには何かない限りは訪れることはないだろう。
「……ん?竜人族、額に鱗、1000年、恋人。」
おっさんがぼそぼそ何か言っているぞ。
何言ってんだ?
「あ、貴方様はもしや……!」
…もしや?気になる言葉だ。
だか、聞いてたら捕まって出発が遅れそうだな。またほかの場所で聞く機会とあるだろう。今は逃げるが勝ち、か。
「では。またいつの日か。」
「あ、行ってしまわれた…。
あの方は、もしやユーレシア女王様の待ち人、か?」
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勅命
全アトレシア王国国民に命じます。
男、名をアルフレード = コラーレス、種族は竜人族。額に竜人族である証の鱗があり、魔法とスキルを操ります。
この男を発見し時、直ちに国に報告し、北のラナルタ山脈まで無理矢理にでも連れてくること。殺さなければどのような手段を使っても構いません。
この勅命は私の名により撤回されるまで永遠に継続されます。
命令が改竄されぬよう、5年に1度は必ず同じ勅命を全国民に命ずることを命じます。
必ず、国内全ての国民に周知徹底させない。
初代女王
ユーレシア・ファン・アールツァー・アトレシア
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「いや、まさか…な。あ、名前聞くの忘れたッ!」