過去2
「お待たせいたしました。本日のオススメ、新作の、季節のミルフィーユでございます。」
ピナリカが勧めるだけあって、見た目も綺麗だな。
シアが、気に入りそうだ。
「わー!おいしそう。」
くくっ。
かわいいな。餌付けしたくなる。
てか、既にピナリカにされてるのか、コイツ。
「そうですね。では頂きましょうか。」
願わくば、この笑顔をずっと見ていられますように。
「ねえ、どうしてそんなに沢山猫、被ってるの?」
猫…か。
確かに仮面?みたいなのは被ってる?が、猫、か。
「猫って。俺、そんなに弱っちくないぞ?」
これで誤魔化されてくれないかな。
「そういう事じゃなくてっ!猫が嫌なら、狸でもいいわよ、狸!」
狸、か。
「狸は狸で嫌だな。」
狸は嫌だ。狸と言われると、嫌な奴を思い出す。いけ好かない男を。
あんな腹黒と一緒にして欲しくない。
「もう。私の質問に答える気があるの!無いの!どっち!」
あ、怒った顔もかわいい。
「ごめん、ごめん。で、どうしてそんな事急に?」
「別に急じゃないわよ。ずっと思ってたこと。貴方、私だけといる時と、それ以外の時の態度が違いすぎるんだもの。」
「そんなにか?」
あまりにも指摘しないから、気づいてないと思ってたんだがな。
まさか、俺から話すのを待っていてくれたのか?
確かに、自分でもアレは気持ち悪いが。
あれだな。他人から見るとそこまでひどいか。
シアが荒ぶるとはな。
「ええ!大違いよ。最近は慣れてきたから良いけれど、最初の頃は笑いを堪えるのに必死だったわ。なんなの、あのキラッキラした微笑みは!なにが、''では、頂きましょうか''よ。笑いを我慢し過ぎて、お腹が痛いわ!」
笑いを堪えるのに必死って。
笑いを我慢し過ぎて、お腹が痛いってなんだよ。
そういや、イグワーカンもいっつも顔が強ばってるな。
アレはそういうことか。
今度絞めとこうアイツ。
アイツも同じような顔して微笑んでる癖して、笑いそうになるとか、海老反りの刑に値する。
「そ・れ・に、なんなの、あのわざとらしい敬語と、態度は。紳士な態度、って言うの?あれ。気持ち悪いわ。ほかの貴族のお嬢様方には人気のようだけど。」
うん。確かにアレは人気だ。
アルフは顔がいいならなあ。
流石、俺が1週間かけて課金までして作り上げた最高のキャラだ。
だからこそ、面倒なことにならないようにキャラ付けが必要なんだが。
「貴方、私といる時そんな事しないじゃない。私だけが特別みたいで嬉しいけど、他に知っている人とかいないの?」
イグワーカンは、知ってるけど、他かあ。
ピナリカか?
その他に……いたか?
というか、特別みたいで嬉しいって、コイツは俺の特別な人だっていう自覚が無かったのか……。
特別でもないやつに素を見せるわけないだろう。
「いやいや、特別みたいってなんだよ。実際特別なんだ。自覚してくれ。そうだなあ、イグワーカンは知ってるぞ。あとは、ピナリカとかか?」
「ピナ?ピナが知っているの?」
ピナリカには素を見せたわけじゃないが。
アイツは俺がアルフらしく微笑んでると、睨んで来る時があるからなあ。
「ああ、実際見せたわけじゃないが、薄々感ずいてるだろ。アイツお前の事が大好きだからなあ。気がつけば、俺の粗捜しをしてやがる。」
「ピナ……。」
あ、コイツ、ピナリカが自分のこと大好きってとこしか聞いてなかったな。てか、コイツもピナリカのこと大好きだよな。
「あんまり、素は見せたくないんだよ。人間の汚いところを知ってるからな。」
コイツはピナリカが見張ってるから大丈夫だろう。
だが、な。コイツを狙ってるヤツもそれこそゴミのようにいる。
それと同じように、仮面を被ってる俺は優良物件なんだ。
「何か…あったの?」
「いや、それほど大きい事件が起こったとかじゃあないんだよ。ただ、人との信頼関係は直ぐに壊れてしまうんだと知ったんだ。」
そう。ただ、信じてもらえなかっただけだ。
ちょっと信頼してたやつに疑いをかけられて、人を信じられなくなっただけ。
ゲームに逃げた。
キャラを作った。
素を見せなくなった。
貴族絡みの面倒ごとが起こるようになった。
素を見せてるわけじゃないから痛くも痒くもなかった。
仮面に騙された人たちが庇ってくれた。
結果、被害は何もなかった。
でも、少し寂しかった。
助けてくれた人に心から礼を言えないことが。
そして、シアに出会った。
仮面を少し剥がした。
アルフの時に素で人と会話ができるようになった。
それでも、俺は人が信じられない。
傷はどれほど大きいのだろうか。
「だから俺は、本当に信頼した数人にしか素を見せていないし、これから見せることもないだろう。お前は特別なんだ。胸を張れ。」
「胸を張れって……。」
これだけ言っても信じられないか、俺のことを。
愛してるんだ。信じてくれ。
俺が信頼してるって信じてくれ。
信じているから、信じてくれないのが悲しい。
言っては、くれないか。
言って欲しい。
俺が言う前に、聞いて欲しい。
いや、コイツは俺が知っていることを知らない。だから無理、か。
「……。知らないと思ったのか?貴族の、俺と縁付きたいと思ってるやつらとか、王女あたりがお前にキツくあたってるのを。俺、そこまで鈍くないぞ? 平民で、冒険者な俺をどうしたいのか、あのボンクラ共は。」
王は悪くない。が、周りがタチが悪い。
今は、言葉だけで手を出してこないから何も言えねえが、何か直接してくれば、直ぐに手を下そう。シアのためならあのアイツらの青い血で、手を汚そう。
王族であろうと関係はない。
もしそんなことになれば、この手でシアに優しい世界を作り上げよう。
今はシアが望まないからしないが、な。
「正直、言い寄ってくる女は多い。その中に、お前より地位が高く外見が美しい女もいる。その中から、俺はお前を選んだんだ。いや、お前が俺に、お前を選ばせたのかもな。」
お前が全てだ。
お前がいるから、俺がいる。
お前がいなければ、俺は今、此処にはいない。
「他の誰がなんと言おうと、お前は俺の唯一だ。」
だから、信じてくれ。愛しいシア。




