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田中さんのご家族と  作者: みあ
番外編
37/37

やっちまった感じ

和真視点、「和真さんのご家族と」5月 バーベキューは連休に 6 の直後の話。

「おにーちゃん、おかえりー」

 自宅に帰るという沢口をバス停まで送った後、内省を重ねながら家の庭に帰り着くとにこにこ笑顔でまゆが出迎えてくれた。

「おっかえりー」

 それに比べて、ほのの笑顔からは邪気がたっぷりあふれている。

「愛理ちゃんとゆっくり話せたでしょ」

 お前焼きすぎじゃねえのってくらい焼いた肉に塩コショウをまぶしながら言ってくる女子高生が憎らしくてたまらない。

 ギロリとにらみつけると、ほのは肉が噛みきれなかったような顔で固まった。

「えっ、何、どうしたの?」

 どうしたもこうしたも、やっちまったんだよ!

 恥も外聞もないなら、大声で叫びながらそこらじゅうを転がり回りたいくらい、やらかした。

 冷静になった後に後悔すると口にした沢口の指摘は当たらずとも遠からずってところだった。

 すべてはつい飲み過ぎた自分自身が悪い。ほのにこの上ない苛立ちをぶつけたいが、その大半が八つ当たりだってことは理性でわかっていた。

 わかっていたが。

 そんな心持ちになってしまった理由の一端にこの妹が関わっているんだから、すべて的外れな八つ当たりじゃない。

 俺は頭をかきむしった。

「やっちまったんだよ」

「やっちまったって……」

 つい漏らした言葉にほのは一瞬きょとんとした。

「え、思わずちゅーでもしちゃった?」

「いっそその方がよかったかもな」

 でもその表現はどうなんだよ女子高生。園児が耳にしてなんかきらきらしい笑み向けてきてるんだけど、まゆでもわかりやすいようにっていう確信犯かよ。

「違うの? じゃあぎゅーの方?」

「その言い方止めろ」

「それじゃ、抱擁で」

「違ぇよ」

 俺は忌々しい妹にびしりと言い放つ。

 なにをやらかしたって――。

 職場の後輩である沢口愛理に対してついうっかり結婚を前提に交際を申し込んだことだよ。

 マジ、酒の勢いって怖ぇ。一足飛びに結婚とか、自分でどん引くわ。

 色々抑圧されてきたものが酔いで一気に吹き出て、何で結婚とか言い出した俺。

「あー、埋まりてえ」

「ちょっ、何言ってんのお兄ちゃん」

 今思えば、たぶん俺は最初から彼女のことが好ましかった。

 自分でも自覚していなかったそれに聡く気づき、彼女と俺をくっつけようと画策していたほのの手の内で見事に踊った事実が心底忌々しい。

 ほのが動かなければ――職場だけの関わりだったら、好ましい以上発展せずに過ごしていたかもしれない。

 なのに妹にお膳立てされて何度もプライベートで会うことを重ね、彼女の素を知って、惹かれる気持ちを否定できなくなった。

 だけど妹の手のひらで踊るように段階を踏むとか、素直に受け入れるのもしゃくじゃないか。

 そろそろ次の段階にとか狙って、ほのは彼女をバーベキューに誘ったんだろう。

 妹たちがいるとはいえ男の家に訪問することを決めてしまう彼女も迂闊だ。彼女にそんなつもりはないことは重々承知していても舞い上がるものはあったし、チビ助はいてもほぼ二人きりという状況下、ホームという油断もあって飲み過ぎた。

 ほのの策略には乗らねえと思ってたのに、タガが外れてとんでもないことを口にするとか、ないだろ?

 酔った勢いで襲いかからなかっただけましなんだろうが、もしかするとまゆがいなければ危険だったかもしれない。

 抑圧された何かが吹き出た結果、彼女に結婚を前提でなんて申し出るとか、俺はバカか!

 そりゃあ、次に彼女を作るなら、家族になってもいい人がいいと常々考えていた。

 避妊は確実ではない――昔受けた父親の呪いのような忠告が原因だ。

 まゆに対する思いやりを見て、なんとなく彼女のいる未来を想像していた。俺もまだまだ社会人としては若輩だが、学生時代よりは生活力もある。

 もし万が一があっても、今ならどうにかなると思えた。

 だからといってだ。見るからに初で男慣れしてない彼女にいきなりそんなのヘビーだろ。

 脈は全くない訳じゃないと期待を込めて思っている。

 が、今日のあれは絶対引いてた。可能な限りフォローは入れたし、やっちまったもんは仕方ないかと押しに弱い彼女を押しに押してみたけど、結局逃げられた。

 真面目な人だから、本人の言の通りに冷静に考えてくれることを祈るばかりだ。走り去るとき、見るからに挙動不審だったけど。

 ただ、面はゆいことだけど、たぶん尊敬はされている。

 オンオフの切り替えがきっちりしている風の彼女が度々俺たちに付き合ってくれていたくらいだから、嫌われてはいない、はずだ。

 ――もしかすると、遠慮して強く断れなかっただけかもしれないけど。

 そんなことはないと、今は信じたい。

「バス停までの短時間でなにやらかしたの?」

 俺はうるさい妹を苛立ち混じりに睨みつけ、

「告白したら、逃げられたもんだから気まずいんだよ」

 端的に状況を語った。

「とうとう言ったの?」

 肉を食う手をぴたりととめてほのは浮かれた声を上げた。

「大丈夫だよ! 愛理ちゃんもちょっと恥ずかしかっただけなんだろうし」

 どん引きものの告白の詳細を知らないほのはそう言うが、そんなに楽観的な気分にはなれない。

 俺はのんきな妹にずいっと指を突きつけた。

「そんなわけだから、お前しばらく余計なことすんなよ!」

「はいはーい」

 わかってないような軽い返事だけど……まあ、今年はこれから受験で忙しくなるからそんなに余計なことはしないだろうなと、とりあえず矛を収めることにした。

長らくお付き合いありがとうございました。

これにて完結です。

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