表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/94

第75話 偉人の日記

「ところでトレイルさん、実は私も一つ発見をしたのですが……」


 唐突に、ルナは足元に落ちている書物をは拾い上げ、パラパラとページをめくり始める。恐らく、光の糸で縛りあげたときに落としたのだろう。


「これです」


 あるページで止まった本はえらく腐敗が進んでおり、読める箇所も今開かれたページの一文ぐらいだった。


「トレイルさんを探すついでにここの空洞も調べてみたのです。大概の物は手にした時から崩れ落ちていきましたが、この本だけはなんとか原型を留めています」


『…月…日 

天気は良好、絶好の研究日和だと言うのに、今日も呪いは姿を変えずに私たちの前に立ちはだかっている。どうすればいい? フォンスタインに助言され、最近私は物事を逆さに考えるようにしているが、そのせいで要らぬ副産物まで生産される始末。まずはそれの処理を急がねば。しかし、その程度の障害で私は歩みを止めたりはしない。呪いへの復讐を終えるその日まで……』


 提示してきた本に書かれているのは、その日の日付と、興味深い日記のような一面。そして、本の表紙には所有者、『ガデオ・オルスト』の名が薄っすらと刻まれていた。


「この本の持ち主は……『解呪師の祖』ガデオ・オルスト!?」


 喰いるようにガデオの本に目を通し、日付から約百三十年前に書かれた物であるのと、呪いに対して強い恨みを持っているような文面があることに気付いた。


「はい、私もこの本を手にした時は胸が高鳴りました。始まりの解呪師、ガデオの日記を見つけられたのですから」


「……ですが、この本の持ち主がガデオだってことは、この空洞はガデオの研究室かなにかってことになりますよ?」


 高貴な者と対面でもしているようにトレイルは緊張気味に言葉を放った。


「そのようですね、そして今の事実はそのまま、もう一つの答えにもなりかねません」


 静かに本を閉じたルナは、もう一つの物に目を移す。


「黒のユニコーンの紋章が彫られたナイフ、これはガデオの持ち物ってことですかね……」


 ここに来て、トレイルはまたも自分の脳は酷使する羽目になった。

 解呪師の祖であるガデオと、謎の呪操師集団との関係性。ガデオは呪操師を憎んでおり、敵から奪い取った戦利品としてあのナイフをここに置いたのか。はたまたガデオと呪操師との間に協定かなにか存在し、誓いの品としてナイフを手にしていたのか。

 どちらの考えも、霧のように消えていく。

 仮説であるが、呪操師の誕生は百年前としているので、本の中に記載された百三十年前のガデオは呪操師と巡り合ってすらいないはずだ。無論、ガデオがそれから二十年以上の月日をここで過ごしている可能性もあるが。


「もしかすると、ガデオと呪操師は――」


 すでに一度考え抜いた仮説をルナが再論しようとするので、トレイルは頭痛に苦しむ頭を守るべく、ルナの口を封じに出た。


「止めましょう。現在の最重要課題は実の発見です。これ以上考えるのはシローのためにならない」


 絞りきった脳みそをさらけだすようなトレイルの疲弊の色にルナも気付き、コクリと頷くと奥へ奥へと押し進んで行った。


「ルナさん、さすがにこの奥は上の広場から出てしまいます、実を探すならこの辺の土をいじった方がいいんじゃないですか?」


 振り返るルナはありえないと言いそうな顔でトレイルに詰め寄った。


「こんな冒険心をくすぐられる道があるのに、トレイルさんは行かないんですか? ガナスさんなら絶対に行くと言いますよ」


 冒険心など等の昔に置き忘れているトレイルは、どう返事すべきかかなり迷った。

 本心を述べるのであれば、興味はない。だが、この先に実。とまではいかずとも、ガデオの情報かなにかがあるかもしれないと思うと、多少の価値はあるとの判断できる。


「わかりました、先に進んでみますか」


 ただ穴掘りに時間を費やすよりも、先へ先へと歩を進める方がモチベーションを維持できると考えたトレイル。ようは飽きるか飽きないかの問題だった。

 光の糸を先導させ、奥の奥まで照らしていくも、依然として終わりは見えない。


「ルナさん」


 歩き始めてすぐに不安の欠片が生まれたトレイルは小さくてもいいので、切っ掛けが欲しくなった。


「はい」


「ルナさんは実が広場にあることを知っている。っと言ってましたが、実際に見たんですか。その実を?」


「いいえ、シローに聞いただけです」


 あまりにも良い笑顔で宣言してくるので、トレイルは呆れることもできなかった。


「そうですか……」


 今の会話のことは頭の片隅に置き去り、トレイルはただひたすらに前進した。

 曲がりもなければ分岐もない、しつこいほどの直線を歩き、次第にここは地上で言うところのどこに位置するのだろう? とぼんやりながら考えた。

 カティン村とは別の方向にあるが、ゼゼゼアの住んでいたボロ小屋とも違う方向。もしもこの空洞が微かな歪みもないほどに真っ直ぐ進んでいるのであれば、この道は南を目指している。

 北を目指していた呪操師一掃ペアとも逆であり、目的のアルン・バルンとも正反対の方向である。

 なぜ自分はこんなことをしているのだろう?

 逸早くシシーの呪いを解いてやろうと思っていたはずなのに、どんどん事態が亀の歩みの如く鈍足に傾いていく。

 それでも……それでも古聖獣の友を見捨てる道を選べないトレイルは、己の未熟さに笑い、そして誇った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ