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カンディデイト・チルドレン~人柱の少女を救う術~  作者: 松平 ちこ


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第1話 地球温暖化が進み、春と秋がなくなった世界

 これから、サバイバルゲームを始めます。

 ゲーム内での死は、現実世界での死を意味します。慎重に行動しましょう。


 貴方は、平成時代にタイムスリップしました。

 修学旅行中に、飛行機事故に遭いました。幸いなことに怪我はありません。

 不時着した場所は、無人島です。大人は誰も生存出来ませんでした。


 避難用のナップザックに、水、食料、ウインドブレーカーがすでに入っていました。

 ランダム追加で、下記の中から1つだけナップザックに入っています。後程、確認しましょう。


【ランダム一点】

 ・ナイフ。

 ・ライター。

 ・食べられる植物図鑑。

 ・ロープ。

 ・ビニールシート。

 ・タオル。

 ・高濃度アルコール。

 ・方位磁石。

 ・懐中電灯。

 ・拳銃。


 ゲームクリアまで、頑張って生き残って下さい。健闘を祈ります。




 ◇◆◇◆◇◆◇




「若えのに、ほんと危ない橋を渡るねぇ。あんちゃん」


 砂と埃が漂う、瓦礫が散乱する薄汚れた場所で、汚い身なりの男が笑う。吐く息は白く、鼻水が凍りついていた。


「臭いものに蓋してんのが、気に入らないだけだ。隠されてるものほど、暴きたくなるだろ」


 フードを目深にかぶった少年の声が、マスク越しで隠してなお、辺りに響いた。

 周囲に生き物の気配はなく、静寂が降り積もる雪と一緒に落ちていた。

 男に差し出された古びた本を手にとって、少年は代わりに布袋を渡す。


「せっかく日の下を歩けるのに、選ばないなんてもったいねぇな」


 男は布袋の中身を確認した後、外壁の向こう側、洗練された景色を見て呟いた。

 人の住む生活圏は、ドーム状の大きな壁に覆われた中にある。そこでは常に、快適な温度が保たれていた。


 それが施行されたのは、少年の生まれるよりも、もっと、もっと前。

 ハサミを始めとした刃物、紙、紐といった物を含むあらゆる物が、AIによって危険だと捨てられた。

 代わりに、生きる上での全てがネットと密接な関係にあった。


 テクノロジーの進化に適応出来なかった人間は、好んで外壁の外で暮らしている。

 けれど月日が経つにつれて、過酷な外での生活に耐えられず、その人口は減っていく一方だった。


「ネットは信用出来ないじゃないか。選んだつもりが、ただAIの手のひらの上かもしれないんだぞ。

 過去の遺産ほど、目を引くものはないさ。そこには生身の人間が関わっていたという、確かな記録なんだから。

 アンタもそう思うから、外で生きてるんだろ?」


 パラパラと、少年は本の中身を確認する。今の時代には行われていない、棄てられた医学がそこに記されていた。


「はは。中と外をズルく生きるハッカー様は、年さえ若くなけれりゃ申し分ねぇのにな。

 皆、平然と箱の中で生きてきた。最後に抗ったやつは……もう、ずいぶんと前になるか。懐かしいねぇ」


 昔語りでも始めそうな男。今までそんなことは無かったから、つい興味本位で聞いてしまった。


「……知り合いだったのか?」


「ああ、そうだな。よく知ってた。そりゃもう、立派な処刑だったさ。

 罪人なんかじゃねぇ。俺らにとっては英雄だった……。

 あんちゃんも子どもなら気をつけろ。義務教育のVRシステムは特にな。中にいれば拒否権なんてねぇんだが――ゴホッ」


 そう言って、男は鈍い音で咳き込んだ。咳と共に滲んだ男の手の赤に、少年は目を細めて口を開く。


「……中で、治療をしないのか?」


 渡された本に記されているような医者は、もう現代に居なかった。ネットが治療を含め、人の生き死にまで、全てコントロールしているからだ。

 ドームの中では、苦の無い延命、そして幸せな最期が約束されていた。逆に外では医師が居ないから、簡単に命は消える。


 ――わざわざ、キツイ選択肢を取る意味が分からない。


 目の前の男のように苦し気に咳き込むことなど、中ではあり得ないことだった。

 だからこそ死に際に安らかな最期を求めて、中へと足を踏み入れる外の人間たちが居るのも知っていた。

 そしてそれを、AIは拒まず受け入れている。


「俺は、中には入らない。その資格がない。昔に全部、置いてきちまってなぁ。最期に楽に逃げるなんて、もうしない。

 今は、過去にしがみついて、あんちゃんみたいな変わり者へ継承していくのが、趣味の変人だ」


 紙である本も、今は規制品。危険と称された数々の品は、中の世界でも一部の者の嗜好品になっている。隠し持つには、ネットの目を掻い潜る力が必要だった。


 ――外界の遺物漁りが、趣味か。


 もう行け、と男はしっしと追い払うように手を振った。

 いつもより長居をしたのは事実だと、古びた本を慎重に隠し持った少年は、男と別れの挨拶をした。


「また次があれば、よろしく」


「おう。またがあれば、サーバーに流してやるよ。好きに拾えって」


 外にもネットの目はある。中よりも薄いだけだ。次も会えるかなんて、確かに分からない。

 ルールを遵守する者には祝福があり、ルール違反者には死をもって罰が下される。

 その極端な世界で知的欲求に駆られるまま少年は、ネットが隠し消え去った知識を得ることを娯楽にしていた。


 ――俺も大概だな。


 与えられるだけの生活に価値を見いだせず、辿り着いたのはネットに抗うハッキング能力だった。

 中にいては真実も現物も得られないから、必要に応じて外にも出る。


「……義務教育、そう言えばちょうど、今度がVRでの試験の日だったか」


 ドームの内外を繋ぐ出入口、当然のようにハッキングをして中へと足を踏み入れる。

 少年は中では、ただの学生を演じていた。


 その数日後、処刑が施行されなくなり世間から忘れられていた最後の死刑囚が、獄中で老衰により死亡した――。


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