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15 燃える男

 森…と言ってもそれ程深くなく、走れば難なく踏破できる。木々の中にぽっかりと空いた場所。葉っぱの天井を抜けるようにそびえる古びた見張り塔。


 中央の塔に1人残る男は大川での喧騒とはうってかわり静謐な森と同化するように座していた。


 燃えるような赤い髪、鍛えた上腕からじっとりと汗が滲む。

 今のアルクス王国の気候は冬が終わり夏へと移行する間といった具合で、まだ涼しい風が吹いているはずだが、彼の座す周囲だけが異常な熱気で満たされていた。


 茂みが揺れる音に反応し座していた男はゆっくりと立ち上がる。

 自分の領域(テリトリー)に侵入してきた外敵を拒むように、はたまた、誘き寄せ巣にかかった餌を見るようにその者を見る。


「来たか」

「左右の塔に妙な壁があったが、アレは貴様(あんた)のか?」

「いかにも」

「そうか…それで、それは貴様(あんた)をぶちのめせば解除できるのか?」

「できるだろうな」


 相対した男は我を貫かんと手に持つ槍をふるう。

 身を横へと動かし躱す。胸の硝子玉には特に注意をはらいながら距離をとる。


「いきなりだな」

 返答は槍の連撃にて返された。ブンブンと風を切る音が耳を掠める。刃と石突が交互に脚と腕を狙う。

 片脚を上げ刃を躱し、左腕に着けた盾で受け止める。

 腰に差した剣を引き抜き、頸を狙って斬りつける。


 剣は空を切り、互いに距離をとる。

 ガンドルフはニヤリと口が動く。相手の方が間合いの長い槍、こちらは取り回しのよい剣と盾。攻めの優位は相手の方にあるだろう………。

「貴公、その出で立ちは地方上がりだな…それで、魔法使いとの戦闘経験はあるか?」

「…あー…多少?」

「佳い、ならば本場だ【点火(オン)】」


 シュボと突然にガンドルフの持つ剣と盾に火が灯る。

「その顔…昔、火に因縁があるなら申し訳ないが」

 構えをとり、ゆっくりと姿勢を落とす。

「気にするな。この痕はいつからあるか記憶に無い」

 言葉が終わると同時に踏み込まれる。

 待っていたと盾を構えて受け止める。

 火花が飛び、閃光が迸る。

(槍といえど柄は木材、火が移れば焼けきれるぞ?)

 間髪入れず剣を叩き込む。

 しかし、相手(ヘリオス)は既に槍を手放していた。

 更なる踏み込み。

 近接格闘(インファイト)に持ち込まれ、空いた拳が胸の硝子玉めがけて叩き込まれる。

「【点火(オン)】!」

 寸前にて唱えられた呪文によって胸の先から火の玉が現れ、炸裂する。



「ふぅ…傲っていたつもりはなかったが…冷汗をかいた」

「ゲホッ…ゲホッ…」

 互いに自分の硝子玉の無事を確認する。

「面食らったが…既に貴公は武器が無い。次に懐に踏み込ませるほど俺は甘くはないぞ」

 どうすると笑みを隠さずに問う。


 ヘリオスは足下に落ちた、ボロボロの槍を拾い上げる。

 柄が途中で焼けている。それだけではない、穂先も既に欠けていた。


 即座に槍を二つに割って、穂先の付いた柄をガンドルフへと投擲する。

 ガンドルフは左腕の盾にて対処。次弾に備え防御の構えを崩さずにいると、気がつく。

 ヘリオスが狙っているのは上、自分の後方の塔の頂上に建てられた旗。

 他の塔にも行った結界…近づく者を炎の壁にて阻む【赤の壁】。

 簡易な結界で学のある魔法使いなら難なく破れる程度の物だが、矢や魔法なら時間稼ぎになると貼ったもの。

 人の投擲程度では破れまいと考える…しかし、直感が否と告げる。


 この場に自分以外の魔力の奔り。

 微かにヘリオスの腕が発光したように見えた。

 投げられた柄はすぐさま自分の頭上を越え、上へ上へと旗へと当たる軌道をとる。



「おいおいおい…我を無視するのは悲しいなぁ」

「対策はばっちりか」

 旗に当たる直前に突然現れた鳥の形をした火によって柄は焼き尽くされた。


「そうだった…名を聞いておきたい」

「ヘリオスだ」

「そうか、…これから楽しくなりそうだなぁ!ヘリオス!」

「そうだな、背中を任せるのに貴様のような者がいると知れれば気が楽になる」



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