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姿なき狩人  作者: 二条路恭平
プロローグ
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ネクスト・ミッション 2

合成麻薬の密造施設である在日朝鮮人同胞連合の研修所は、新潟にあった保養施設と同様に敷地をネットフェンスで囲んでいた。船着き場から真っ直ぐ行き着いた先にフェンスの扉がありシリンダー錠が掛かっているようだが、長期間に渡って潮風に晒されていたためか結構な錆が浮いているのでサバイバルナイフを使えば簡単に抉じ開けられそうである。

カワサキが腰に着けていたサバイバルナイフに手を掛けた時、敷地の奥から犬が吠えながら近付いてくるのに気付いた。確かCIAから送られた資料にも敷地内に2匹の大型警備犬が放し飼い状態になっているとの記述を思い出した。

一度、サバイバルナイフから手を離してホルスターからM&P5.7拳銃を抜くと胸のポケットに仕舞っておいた消音器を取り出して、銃身先端部へ取り付け始めた。

M&P5.7拳銃に消音器を装着し終えると、遊底を操作して弾倉の初弾を薬室に込め終わる頃には、暗がりなのでハッキリとはしないが2匹の大型警備犬が吠えながらカワサキまで100メートルの距離に迫って来ているようであった。カワサキは照星と照門が蓄光するナイトサイトになっているM&P5.7拳銃を警備犬の眉間辺りに狙いを定めて、それぞれに2発ずつ発砲した。ただし、周りが海ということもあり消音器付きの拳銃からの発砲音は頼りないくらいに響かない。

2匹の警備犬は少なくとも1発はヘッドショットで被弾したようなので、走ってきた勢いのままヘッドスライディングでもするような感じで地面に横絶えた。このM&P5.7拳銃の最大有効射程距離は200メートルとされているので、100メートルぐらいの距離から例え大型犬であっても急所に命中させれば即死となる。

カワサキは、一旦M&P5.7拳銃をホルスターに納めて、サバイバルナイフを手にするとナイフの柄の部分を使ってネットフェンスのシリンダー錠が付いている辺りに一撃を加えると意外なほど簡単にシリンダー錠が付いている辺りが壊れた。ネットフェンスの扉を開けて敷地内に入ると、先ず射殺した2匹の大型犬に近付いてみる。2匹とも眉間を撃ち抜かれているので眼窩から両目が飛び出て即死していた。

カワサキは、2匹の尻尾を掴むと大型犬の死体を引き摺って施設の倉庫としている辺りに2匹の死体を置いた。次いで、施設の内部の動きに細心の注意を払いながら得意のストーキングのテクニックを駆使して音を立てずに2階建て施設の屋上へ雨樋を伝ってよじ登った。屋上に辿り着いたカワサキは、施設の無線用アンテナに繋がっているコードをサバイバルナイフで切断する。この島は、在日朝鮮人同胞連合の所有地なので携帯電話の基地局等が近隣にないので携帯電話を使おうとしても圏外となって通じない。なので、無線を使用不能とすることで外部との通信手段を断って孤立させることができる。

この当たりから、施設の内部は徐々に騒がしくなってきたが朝鮮語が理解できないカワサキには何を言っているのか分からないが、どうやら中に居る連中は警備犬の気配がなくなり、加えて無線が使えなくなった事で異変に気付いたようだ。

2階の無線室に居た1人が窓を開けて上半身を乗り出すようにして周囲を見回していた時に、カワサキは敵の頭上からM&P5.7拳銃を発砲した。頭頂部に着弾した弾丸は顎の下まで貫通したようで、撃たれた男は上半身を室外に出して折れ曲がった姿勢のままで即死している。カワサキは死体の背中辺りに足を乗せて室内に入り込んだ。

無線室へ入ると直ぐに電灯のスイッチをオフにしてから、無線室のドアを開けたが直ぐに廊下へ飛び出さずに様子を伺っていると無線室の反対側から2発の拳銃発砲音が聞こえて2発ともドアに着弾した。

カワサキは、無線室のドアに近い壁際でニーリングの姿勢で拳銃を発砲してきた相手を見ると、防弾チョッキを着用して右手にトカレフ拳銃を構えていた。カワサキは、M&P5.7拳銃のみを無線室から突き出したようにして相手の心臓辺りに狙いを付けて二連射すると被弾した男は、トカレフ拳銃を放り投げて後ろ向きに倒れたまま動かなくなった。カワサキが、慎重に無線室から出ると階下では既に大騒ぎになっていた。

カワサキは、廊下に放り投げられたトカレフ拳銃から弾倉を抜き、遊底を機関部から急いで外してから1階へ降りる階段に向かう、階段の手前で下の様子を伺うと両手でトカレフ拳銃を構えて、2階へ銃口を向けているのが見えた。相手はカワサキの姿を一瞬見付けたのか、1発発砲してきたが2階の廊下の天井に穴を開けただけであった。

この男も防弾チョッキを着用して安心しきっているためか、トカレフ拳銃を両手で構えた姿勢で階段を2階へ向けて登ってくる。カワサキは、身体の大部分を遮蔽物に隠して男の鳩尾辺りを狙ってM&P5.7拳銃を二連射した。男は被弾するとトカレフ拳銃を放り投げて1階へ転がり落ちる。

1階に居た他の連中は、恐怖のためなのか拳銃を数発乱射してきた。そのうちの1発は転がり落ちた男の頭を撃ち抜き、男の側頭部から頭蓋骨と脳の破片が飛び散った。

カワサキは音を立てることなく階段を降りて、あと1段という所で立ち止まると1階の様子を伺った。男達は朝鮮語で何か喚いていたが、朝鮮語を話せぬカワサキには何と言っているのか少しも分からないが、声の様子で少なくとも3名の人間が居ることが分かったのと同時に、この施設に居る連中は拳銃を撃った経験があるのかもしれないが少なくとも戦闘訓練や実戦経験がない事も分かってきた。そうなってくると、カワサキにとって施設内に居る人間との戦闘というよりは虐殺するようなもので、面倒な事があるとすれば施設を破壊する後始末だけとも言える。

カワサキは、転がり落ちた男が放り投げたトカレフ拳銃を拾い上げると3名の男達が隠れている部屋の出入口に向けてトカレフ拳銃を残彈が尽きるまで発砲してから足元に捨てて様子を見ると、隠れているうちの1人が廊下へ飛び出してきてトカレフ拳銃を両手で構えて応射してきた。応射といってもカワサキを正確に狙って発砲しているわけではないので、まるっきり見当違いの所に着弾している。

カワサキは、先程と同様に壁から僅かに身体を出して両手でトカレフ拳銃を構えている男の頭部に向けて二連射のヘッドショットを見舞った。頭を撃たれた男の額には射入創の赤い点ができ、口を半開きの状態で両手で構えたトカレフ拳銃を持ったままダランと下げて膝から崩れ落ちるように倒れた。

少し前まで、男が立っていた背後の壁には後頭部の射出口から飛び散った血液がぶちまけられ幾何学的な模様を描いている。その光景を目にしてか、部屋に隠れている男達は一斉にトカレフ拳銃を乱射し始めたが、数発の発砲で弾倉に装填した弾薬を全て撃ち尽くしたようで、カチンという撃鉄の空撃ちの音がすると『うわぁ』という叫び声と共に2人が走り出す音が聞こえてきた。

階段の陰から走り出して部屋の前まで来たカワサキは、そのままの姿勢で部屋の中に飛び込むようなことはせず、一旦屈んで部屋の様子を見ると2人の男達は外に繋がるドアを開けようと必死になっていた。

カワサキは、その男達の背後から射的でもするように後頭部を狙って1発ずつ弾丸を浴びせて射殺すると、他の部屋を慎重に確認していった。全ての部屋を確認し終えた結果、この施設にはカワサキが射殺した5名と大型犬2頭がいるだけであった。

北朝鮮としても、米国のように自由に銃器を入手することができない日本で銃器による襲撃が起こる等とは想像していなかったであろうし、この施設自体に通常は第三者が立ち入ることがない合成麻薬の製造工場兼倉庫なので、この程度の警備体制で充分だと考えたのであろう。

相手側に生存者がいないことを確認すると合成麻薬を製造している部屋に向かい、未だ加工がされてない粉末状の麻薬が詰められている袋の全てをサバイバルナイフで破ると中身を床にばら蒔いた。粉末状の麻薬を全てばら蒔き終えると部屋に置かれてあった扇風機のスイッチを入れると床に向けて粉末を舞い上がらせた。その作業を終えて、部屋のドアを開けたままにして調理場へ向かいプロパンガスの元栓を全開にする。廊下に転がっている死体が着ている服の一部をサバイバルナイフを使って細く何枚か切り裂くと紐状に結んで、調理場に置かれていた食用油の缶を調理台の上に置き、蓋を外すと紐状にした服の切れ端の片方を缶の中に差し入れた。紐状の切れ端に食用油が染みてくると死体から借用した100円ライターで食用油缶に差し入れてない切れ端の方に火を付ける。

そこまでの作業を終えたカワサキは、施設の外に出てドアをしっかりと閉めると海軍から渡された発信器のスイッチを押すと上陸する際に使った船着き場へ向けて必死に走り出した。

船着き場に到着して、息を整えていると施設の方から爆発音が聞こえてきた。たぶん、調理場のガスの元栓を全開にしておいたので充満したガスに食用油の火が引火してガス爆発を起こしたのであろうと思った直後に、連続して2度目の爆発音が響き渡り、カワサキが居る船着き場まで何かの破片が飛んできた。2度目の爆発は、粉末状の麻薬を扇風機で室内に拡散させたことによる粉塵にガス爆発の炎が着火して引き起こされた粉塵爆発であろう

カワサキはホルスターに納めていたM&P5.7拳銃を取り出すと安全装置が入っていることを確認してから銃口先端部に装着していた消音器を外して胸のポケットに仕舞うと別のポケットに入れてたマズルキャップを手にして銃口先端部に嵌め込みM&P5.7拳銃をホルスターに戻した。それから海軍の迎えが来るまでの間、船着き場から燃え盛る建物を何の感慨もなく眺めていた。

暫くするとカワサキの背後からゴムボートの船外機が稼働している音が聞こえてきたので、振り替えるとカワサキの上陸をサポートしてくれた上級准尉が大声で『ご苦労、迎えに来たので早くボートに乗り込め』と言ってきた。

島に上陸した時と同じメンバーの兵曹達が船着き場の護岸を掴んでゴムボートを安定させているところへカワサキが乗り移ると、ゴムボートはUターンして船外機をフルスロットル状態で島から離れ始めた。

ゴムボートの船外機近くにいる上級准尉は右耳にイヤフォンを付けているので、浮上中の潜水艦から周囲の情報を得ているのか、船外機を操作している兵曹に時折指示を与えていた。

穏やかな波の上を疾走するゴムボートで潮風を心地よく感じていたカワサキは、少し前の戦闘で興奮状態であった自分の気持ちを徐々に落ち着かせていった。

そうしているうちに、倉庫街の岸壁が見えてくると上級准尉を含めた4名でオールを使って接岸ポイントに近付く、倉庫街の岸壁に接岸するとカワサキだけがゴムボートから降りた。

岸壁の上から振り返ってゴムボートを見ると上級准尉を含めた4名がカワサキに敬礼しながらゴムボートで暗がりの海に消えて行く。カワサキも敬礼をしながら4名を見送ると、周囲に視線を走らせながらパジェロミニを駐車したコインパーキングへ向かった。

コインパーキングの出入口には駐車スペースの方へ向けて防犯カメラが設置されてあったので、防犯カメラの死角からパジェロミニの後部へ近付いた。パジェロミニの後部窓から車内を覗いて不審な仕掛け等がないことを確認してからラゲッジドアを開けて、大型バックに仕舞っておいた私服を取り出してから、身に付けていたM&P5.7拳銃を納めたホルスター、ナイフシースに入れてあるサバイバルナイフ、胸ポケットに仕舞った消音器、尻のポケットに入れてた2個の予備弾倉を取り出してから黒のジャンプスーツを脱いで私服に着替えるとコンバットブーツも自分が履いてきたトレッキング用のハイカットシューズに履き替えた。着替えが終わるとM&P5.7拳銃から弾倉を抜いてから、安全装置をオフにして遊底を操作して薬室に装填している実弾を抜き、外した弾倉に再び戻す。M&P5.7拳銃には予備弾倉の1つを装填してから消音器と共にプラスチックケースに収納した。

コンバットブーツ以外の品は全て大型バックに仕舞うと後部座席に置いて、拳銃を収納したプラスチックケースを右手に持つとラゲッジドアを閉めて、運転席にいくとプラスチックケースを助手席の下に置き、センターコンソールから財布を取り出して運転席のドアを閉め、コインパーキングの精算機へ向かい駐車料金の精算を済ませると運転席に戻りパジェロミニのエンジンをスタートさせる。

パジェロミニのサイドブレーキを外す前に、もう海軍から情報が入っているだろうと思いながらもスマートフォンからCIAに『ミッション完了』のメールを送ってからアジトへ向けてパジェロミニを発進させた。

アジトへの帰り道は、深夜ということもあり周囲の車両も結構なスピードを出しているので、カワサキも来た時の安全運転のことは忘れたように周りに合わせてスピードを出してドライブしたが、それでもアジトに帰り着いたのは午前3時過ぎであった。パジェロミニをガレージに入れて、部屋に戻って来た頃には自覚できる程の睡魔に襲われ、服を着替える事も忘れてベッドに倒れ込み熟睡していた。

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