再び謁見の間だった
王女様の後ろに付いて謁見の間へと着いた。
昨日は部屋の中をしっかりみる余裕はなかったが、時間の経過によるものか今日は割りと落ち着いている。
謁見の間は思ったより豪華じゃない。
赤い絨毯や飾り布には汚れはないが、使い古した傷やシミはあった。
王様が座る椅子も塗装が剥げかかっているところもある。
国がピンチだと言っていたが、兵力だけじゃなく資金も不足しているのかもしれない。
部屋を見ながら思いを巡らせていると、奥から王様と宰相たちがやって来た。
「王様の入室である。 頭を下げよ」
昨日と同じように宰相がそう言う。
このやり取りは昨日もしているため、俺たちも片膝を付いて頭を下げる。
そのまま数秒、王様が椅子に座り言葉がかかる。
「みなの者頭を上げてくれ」
周りも俺たちもその声に頭を上げ王様を見る。
「それでは早速おぬしらに、昨日の返答を聞こうか?」
話を始めるといきなり本題からだった。
俺たちの今後が決まる王様との話し合いに気合いが入る! と言っても王様と話すのは委員長だけどね。
「私たちの返事は……立候補した者のみ戦いには参加します。 その他の者は緊急時以外は王城で保護していただきたい」
昨日、話し合った通りに委員長は王様へと話す。
さて王様がどう判断するか、それが問題だ。
「それくらいは要求は飲もう! こちらも勝手におぬしらを呼び出した身、強制は出来まい」
王様は思いの外あっさり認めてくれた。
委員長は安堵の息を吐き出し、戦わないみんなはお互いに声を上げ喜んでいる。
「ただ、基礎訓練だけは全員受けてもらいたい。 昨日も述べた通りこの国は危機的状況で、いつこの城が襲われるかわからん。 その時のために自衛の手段だけは持っていてもらいたい」
この国がヤバイことはみんな理解しているので、それについては反対する者はいない。
「わかりました。 訓練は全員で受けさせもらいます」
誰からも反対する声が上がらなかったので委員長は返事をする。
「おお、よかった。 我らも保護する者に危険が及ばないように、精一杯やるつもりだから安心してくれ」
王様は本当に緊急時の為に訓練を勧めてくれたようだ。
「我らと一緒に戦ってくれる者は何人いるのだ?」
「私を含め十人です」
委員長が人数を答え、その十人に目配せして立たせる。
気づかれていないかもしれないが、もちろん俺も立ち上がる。
「この者達か良ければ名前と職業を教えてもらえないか?」
名前はこれから一緒にやっていくんだから教えるのは当たり前だろう。
職業柄についてもたぶんだが、どんなことをやれるか把握して適材適所するのと、訓練内容を分ける為だろう。
魔法使いが剣士の訓練受けても効率が悪いし身に付かないだろうしな。
一番に委員長が自己紹介を始める。
「では僕からさせていただきます。 名前は昨日申した通り 持田 スグルです。 職業は賢者と出ました」
委員長が賢者と言うと王様たちから『おお~』と声が上がる。
ステータス画面を見た訳ではないが、王様たちの反応から賢者は優秀な職業なんだろう。
某RPGゲームでもレベル上げが大変だが、最強の魔法職だしな。
「そして右から順に 碇 タケシ 職業、戦士」
碇は坊主の野球部だ。
部活で鍛えられたのかすごくガタイがいい。
「次が 剣持 ユイ 職業、剣士」
剣持はショートカットの黒髪の女の子で、身長が高く、スレンダーで所謂カッコイイ系女子だ。
実家が剣道場を運営していて、剣持小さい頃から親に鍛えられ腕前はすごいらしい。
「その隣が 双槻 カズハ 職業、双剣士」
双槻はミディアムボブの茶髪で小柄でよく中学生なんじゃとからかわれている。
剣持と仲が良くいつも一緒にいるイメージだ。
双剣使いなのは、全国大会準優勝だった、スポーツチャンバラで二刀流だからからだと思う。
「えーと、次が 龍拳 アキラ 職業、拳闘士」
龍拳は短髪のイケメンだ。
部活はもちろんボクシング部、実力もインターハイ優勝と高校生としてはすごい。
高校卒業とともにプロになることは確定してたくらいだから、拳闘しなのも納得だ。
「その後ろにいるのが 弓塚 アヤコ 職業、弓士」
弓塚は腰くらいまである黒髪の長髪、
魔法使い、弓士
順番に委員長が紹介していき、それに合わせ名前を呼ばれた者は頭をさげる。
「そして最後に小山ヒカル、職業勇者です」
勇者と言う言葉に王様たちは、委員長のときよりも大きな声を出した。
そりゃあ、勇者がいれば嬉しいだろうし気持ちはわかる。
そしてまた俺は呼ばれなかった。
今までの流れからお約束になってるのは、なんとなくわかっていたさ。
身内だけの時ならネタと割りきるけど、王様への紹介の場で忘れられるのは、さすがにダメじゃないかな?
「勇者がいるのかそれは心強い! 以上の者で全員だな」
王様にも俺は見えていないようだった。
最初に人数十人って言ってたのに一人足りないの気づかないんですか?
「はい」
委員長も普通に返事してるんじゃない!
あと隣の二人!
顔を俯かせてるが、隠せてないし笑い声漏れてるね?
恥ずかしいが、これは自分から名乗り出るしかないか……
「あの王様……」
「おとうさま! もうひとりいるの!」
俺が王様に声をかけようとすると、それに被せるように幼い声が遮った。
「イリス来ていたのか? もうひとりとは……」
「いちばんひだりのひとなの。 まだしょうかいされてないの?」
イリス様? の発言で俺に王様たちの視線のピントが合い注目される。
その視線に釣られ委員長もこっちをみて、いつも通り申し訳なさそうな顔をした。
「私が十人目の 渡来 キエルです。 職業は暗殺者です」
視線が集まったので、俺は自分で自己紹介する。
王様たちも俺が突然現れたように見えたようで凄く驚いていた。
「すまなかったな。 おぬしの職業のせいか全く認識できなんだ」
王様は普通に謝ってくれた。
この王様、頭下げすぎなんじゃかいかな?
こちらとしては好印象だからいいんだけど。
「いえ、私自身影が薄いのは自覚しておりますから」
クラスメイトにも忘れられるのに、王様たちに認識するのは少し難しいだろうし。
「それにしても、これだけ大人数に気づかないとは凄い能力だな」
確かにこの場には五十人以上の人がいる。
タクとヒカルを除き、誰にも認識されないのは凄いことなのかもしれない。
「評価していただけて嬉しいですが、そちらのお嬢様には見つけられてしまいましたが」
俺のことを見つけてくれた七歳くらいの女の子。
銀髪の長髪に、ぷっくりとした頬、まん丸な目で、フリフリのドレスを着て大変可愛らしい。
「そうであったな。 イリスみなに挨拶しなさい」
王様は女の子に自分で挨拶するように促した。
「はいなの。 わたしはいりたみす・いすとらんなの。 いりすよんでほしいの!」
女の子はイリタミス様と言うらしい。
イリスと呼んでって言ってるけど、俺たちがそう呼んで大丈夫なのか?
「おぬしらイリスと呼んで構わぬから呼んであげてくれ」
王様から呼び方についてはお許しが出た。
なら遠慮なくイリス様と呼ばせてもらおう。
「なぜイリス様には私を見つけられたんでしょうか?」
壁沿いにいる騎士たちですら、俺のことを認識できてなかったみたいなのに不思議だ。
「なぜって、あなたはさいしょからそこにいたの? なんでしょうかいされないのか、ふしぎだったの!」
イリス様には最初から俺が普通に見えていたようだ。
「イリスはまだ自分で理解してないみたいだが、イリスは魔眼持ちなのでおぬしが見えていたんだと思う」
疑問に思ったところを王様が補足して説明してくれた。
まだ小さいし、自分の持つスキルとか理解するのも難しいか。
現にイリス様は小首をかしげている
「あのお父様、私も彼らにお願いがあるのですがよろしいですか?」
王女様から突然の申し出に王様も多少驚くが頷き了承する。
俺たちも王女様にはお世話になっているから、無理難題を言われなければお願いくらい聞きますよ。
「あの……できれば私のこともエリザと呼んでいただけませんか?」
王女様からのお願いは呼び方の変更だった。
イリス様が愛称で呼ばれたことで、自分も呼ばれたくなったんだろう。
いつまでも王女様呼びも他人行儀なので愛称で呼ぶのになにも反対はでない。
「わかりました。 これからはエリザ様とお呼びいたします」
委員長が代表して答え、それを聞いた王女様……いやエリザ様は満点の笑みを浮かべた。
「できれば敬語もなくしていただけると嬉しいのですが?」
さすがにタメ口で話すのは今すぐは気おくれしてしまい難しい。
「それは追々ということでお願いします」
委員長も同じ考えだったようでそう返した。
エリザ様は少し残念そうな顔をしていたが、もう少し時間が欲しいのでごめんなさい。
「エリザよ。 あまり彼らを困らせるようなことを言わないようにな」
王様は苦笑しながらエリザ様に声をかける。
「おぬしらもすまぬな。 エリザは立場柄、対等に話せる友人が少なくてな。 できれば友達のように接してもらえるとうれしい」
友達がいないって王女って立場も意外と大変なんだな……
クラスみんながエリザ様に同情と哀れみの視線を向ける。
「そんなことありません! 私にだってお友達くらいたくさんいます!」
エリザ様は顔を真っ赤にしながら、俺たちに叫んでいたが言えば言うほど哀れみの視線ほ増えていった。
「今日もうお開きでいいだろう。 エリザに聞いたがおぬしらの世界には魔法がないらしいじゃないか。 なのでこの後だがおぬしらには昼食をはさみ、魔法の講義を受けてもらいたい」
ついに待ちに待った魔法を使う時がきたようだ。