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「よし、行くぞ。舌を噛むからしっかり口を閉じてろよ」
僕が何か言う暇もなく、ダンジョン救難団のお兄さんは走り出す。
は、速い!
僕が通ってきた道を、僕より速く駆け抜ける。 段差や地面の割れ目も難なくジャンプして越え、とうせんぼするように現れた崖もスルスルと登っていく。
前方に現れたモンスターでさえ反応することは出来ず、ダンジョン救難団のお兄さんはモンスターの横をスルリと簡単に抜けていく。
モンスターが気になって後ろを見ると、ポツンとおいてけぼりになったモンスターがようやく走り出したところで、今さら追いかけても僕たちとはだいぶ距離が開いていて、すぐに豆粒のように小さくなって視界から消えてしまった。
しっかりくくりつけられているから振り落とされないけれど、ダンジョン救難団のお兄さんの走りは、とてつもなく速かった。
そうして、僕が何時間もかけて降りたダンジョンを、ダンジョン救難団のお兄さんは数十分でダンジョンの入口に戻ってしまった。
外に出ると、ダンジョンに入る時は青空だった空が、オレンジ色に染まっていた。
もう帰ることなんて出来ないと思っていたのに、僕はまた夕暮れ時の街の景色を見ることが出来た。
全てはダンジョン救難団のお兄さんのおかげだ。
僕はダンジョン救難団のお兄さんの背中から降りると、すぐに頭を下げた。
「ありがとうございました! お兄さんのおかげで帰ってくることが出来ました!」
「おう! もうむちゃなダンジョン探索なんてするんじゃないぞ」
そう言って、ダンジョン救難団のお兄さんは、僕の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「あ、そうだ。お礼! お兄さん、お礼は何が良いですか?」
助けてもらったんだから、お礼はしないといけない。
僕のお小遣いは微々たるものだし、今回のダンジョン探索は逃げてばかりで、ろくなものが手に入っていない。
僕はお小遣いと探索で手に入れたものを全て手の平にのせて、ダンジョン救難団のお兄さんに見せた。
「これで足りますか? 足りなければ、代わりに僕が何でもします! 何でも言ってください!」
命を助けてもらったのだから、それに見合うお礼がないといけない。
僕はお使いでも何でもするつもりだった。
けれど、ダンジョン救難団のお兄さんは、驚いた顔で僕を見ていた。
「いや、いいよ。そんなつもりで助けてないし」
「そんなつもりじゃなくてもお礼は必要です!」
僕はダンジョン救難団のお兄さんを真っ直ぐに見上げた。
ダンジョン救難団のお兄さんは僕を見て苦笑する。
「では、お言葉に甘えようかな」
「はい! 何でも言ってください!」
ダンジョン救難団のお兄さんが、またくしゃりと僕の頭を撫でた。
「ダンジョン救難団の宣伝をしてくれ」
「宣伝?」
「おう。ダンジョン救難団はまだ出来たばかりで知らないやつの方が多い。色んなやつにダンジョン救難団のことを伝えてやってくれ。それが、皆の命を救うことになる。俺は出来るだけたくさんの命を助けたいんだ」
そう言って笑うダンジョン救難団のお兄さんは、少し悲しげな目をしていた。
「分かりました。僕、たくさんの人たちにダンジョン救難団のことを伝えます」
「ああ、よろしくな」
ダンジョン救難団のお兄さんは、もう一度、僕の頭を強く撫でると、僕に手を振って行ってしまった。
夕日の中に消えていくダンジョン救難団のお兄さんの背中は、とても大きくてたくましく、そして誰よりもかっこよく見えた。
「……僕、決めた!」
夕日を見ながら、僕はこれからの自分をどうするか決意した。
そして、数年後。
ダンジョン救難団の門戸を叩くものが現れるが、それはまた別のお話。
end