あの頃の写真
「うん。ああいえば大抵の人は自分の理解できる範囲で納得してくれるからなの。
そうする理由は、1つは常識外ってこと……多数派の人は自分たちと違っている人に対して拒絶する傾向があるの。
中世の魔女狩りなんかが、その悪い例かな……それが自分たちにはできない力だった場合、すごい差別を生み出すことになりかねないから。
それよりもう1つ……こっちの方が問題なんだけど、アドレナリンなんかは人体に対してすごく猛毒なの。自分でコントロールできるからって、好き放題出し続けると、数時間で廃人か、死んじゃうくらいの毒があるんだよ」
「うおぅ? そうだったのかぁ!」
私が驚く前に、他人事のように叫ぶ天凪くん。
「知らなかったの?」
「そういえば、そんなコトいわれたような気もするが」
頭をかきながら天凪君は笑ってる。
「やっぱり忘れてるんだから仁狼ちゃんは」
困ったようにいいながらも、目を細めながら天凪くんを見る。
まるでお姉さんが年の離れた弟を見守るような表情。そして、そのやり取りを楽しそうに黙って見守る磐拝くん。
今まで3人の関係を、まったく逆だと思っていたけど、磐拝くんがいちばんお兄さんなのかも知れない。
2番目が鈴乃ちゃんで、天凪くんはいちばん下。
「それでも、詳しいことを尋ねられた時は……」
「うん……もしどうなのか尋ねられたら、その時は人の理解を超えない程度、できても短時間か、たまにしかできないって程度に説明しないといけないけど」
「それじゃあ、俺が1人の時に聞かれたら困るじゃねぇか」
「仁狼ちゃんも自分で憶えておいてよ」
「そういうのパス! ぜんぶおまえに任せてるじゃねぇか」
鈴乃ちゃんから逃れて、天凪くんがどかしてあった小さなテーブルを取りにいった。
「おっ、これ佳月の子どもの頃か」
戸棚の中に飾ってあった写真に気づかれた。
……それは舞貴ちゃんと私の写真。
小学6年生の時、海で一緒に撮ったもの……これが、楽しかった最後の思い出になった。
「隣の女の子は。お友だち?」
「う、うん。幼なじみで、諏訪内舞貴ちゃんっていうの」
「変わってない」
後ろからのぞき込んでいた磐拝くんが、ポツリとつぶやく。
「ほんとほんと。あんまり変わってないよ」
「それでこいつ、今何やってるんだ?」
「え? ……たぶんエレベーター式だから吾妻の高等部に通っていると思う」
「なんだ? 思うって。もうつき合いねぇのか」
「う、うん……」
「まあ、幼なじみってのは、一緒にいる時間が少なくなってくると、だんだん離れてしまうからな……でも、それだったらなんで飾ってあるんだ?」
天凪くんにしてはやけにするどい。
「え……うん。それは……」
とても本当のことがいえなず、ボソボソと口ごもってしまう。
結局クラスメートと一緒になって無視してしまったことを……どうしても忘れることができなくて、罪滅ぼしのつもりで、いつでも見られるようにしてあるなんて……。
「なんだよボソボソと。なんかいったらまずいことなのか?」
「ひょっとしてケンカしちゃったの?」
……そうじゃないの。
自分では意識していないのに涙がポロポロ流れた。
「ど、どうした佳月。俺、悪いこといったか?」
「佳月ちゃん」
2人がオロオロする中で、磐拝くんがハンカチを渡してくれた。
「……違うの……そうじゃないの」
声が詰まる。
……思い切って、話そうかな。
天凪くん、鈴乃ちゃん、磐拝くんだったら、私のこと話しても軽蔑したりしない、はずだから……。
「実はその子、いちばんの親友だったんだけど……」
恥かしくて、自己嫌悪でしょうがなかったけど、私が何をやったか、隠さずに話した。話している間も、涙が溢れて止らなかった。
話し終えても、誰も口を開かない……ううん、開けない。
鈴乃ちゃんは一緒に泣いてくれている。
スッと磐拝くんが私の頭をそっと撫でた。
大きな手。同い年のはずなのにずっと年上に感じられ、手のひらから温かいものが流れ込んで、心が癒されていくように思えた。
「何とかしねぇとな……」
天凪くんがつぶやく。
「その舞貴ってやつだけじゃねぇ。佳月も絶対、体に悪いぜ。なぁ鈴乃」
「うん。それはトラウマとして、佳月ちゃんの生活に無意識にも影響が出てくると思う。
できるだけ早く何とかしておく方がいいと思うよ」
ハンカチで涙を拭きながら鈴乃ちゃんも答える。
「でも……今さらどうやって」
「きっと方法があるよ」
鈴乃ちゃんの、目の端に小さな涙の粒をつけたままニッコリ笑う顔を見ていると何とかなりそうな気がしてくる。
「取りあえず、電話でもしてみろ」
「だめだよ、仁狼ちゃんじゃないんだから」
「手紙書いて送るか?」
「一方通行で終わりそうだよ」
「いっそ会いにいこうぜ」
「それができるなら、佳月ちゃんとっくに会いにいってるよ」
「なんだよ鈴乃。おまえも考えろよ。いちばん得意だろ」
「うん……そうだけど」
鈴乃ちゃんは、少し眉をひそめて軽く握った右手を口に当て、何か考え始めたけど、すぐに顔を上げた。
「……だめ。情報が少なすぎるよ」
「鈴乃コンピュータでも無理なのか?」
「今のままじゃね」
「吾妻には?」
話を聞いていた磐拝くんが尋ねた。
「うん。転校さえしてなければ……」
あのまま通っていると思う。
「じゃあ、佳月ちゃん以外で様子を見にいこうか」
「おっ! 鈴乃グッドアイデア。後はおまえにまかせた」
「そ、それは……」
「そうと決まったら、そろそろ帰らねぇとマズイんじゃねぇか。もう8時過ぎてるぜ」
「あ、遅くまでごめんね佳月ちゃん」
「え、ううん。私こそごめんね。……話、聞いてくれて……ありがとう……」
また声が詰まった。
「鈴乃ちゃん、こんなに遅くなって家の人は大丈夫なの?」
みんなを門まで送りながら尋ねた。
「うん。仁狼ちゃんと順崇ちゃんが一緒だったら」
「おう。それに鈴乃の家は2軒隣だから、玄関先までちゃんと送ってやれるぜ。心配するな」
磐拝くんは黙ってうなずく。
「みんな、家族から信用されているんだね」
「そうでもねぇよ。佳月だって信用されているじゃねえか」
「そうは思えないけど……」
「そうだよ。ほら、お父さん部屋を出ていく時いったでしょ。学校楽しいか? って」
……そういえば、父さんからあんな言葉を聞いたのは何年ぶりだろう。




